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115話 バリア魔法に殴りかかるのは命を賭けたギャンブル

勝負は決した。

大量のチップを抱えて金貨に変えて貰おうとした道すがら、俺は壁にぶつかった。

いいや、それは壁ではなかった。

壁と勘違いするほど頑丈なまな板。


軽く後ろに吹き飛ばされた後、少し顔の角度を上げると縦にも横にも幅のある男が俺の進路を塞いでいた。

他の客を押しのけて、強面の男たちがわらわらと集まってくる。

客の悲鳴も聞こえるなか、随分と強引な手段に出たものだ。評判は気にしない系か?評判結構怖いですよ。


「ここをガンザズ伯爵直営のカジノと知っての愚行か?」

「知らねーよ」

道を塞いだ巨漢が俺に尋ねてくる。

だれが経営者か気にしながらギャンブルするやつなんてこの世にはいません!ギャンブルってのは心の声に従って魂をぶつける遊びだぞ。


「イカサマ野郎たちには痛い目にあって貰うことになってるんだ。他の客への見せしめにもなる。騒いでいるお客方、心配はいらない。イカサマさえしなければ、ギャンブルを楽しんだ上、増やしたお金を持ち帰れる」

俺たちはイカサマをしたから逃がさないって訳か。

しかし、そう出るならば、こちらも反論せざるを得ない。


「俺たちがしたというイカサマはなんだ?そちらがこれだけの大事にしたんだ、まさか証拠がないとか言わないよな?」

なあ、なあ、なあ!どうなんだ?

グイグイ詰め寄った。

「……詳細は聞いていないが、イカサマが確かにあったと聞いている」

「そんな曖昧な情報で客を疑うのか。ここのカジノは随分と横暴でケチみたいだな。高々、これっぽっちのお金を持ちかえることも許されないのか?」

これっぽっち。(金貨10枚を36倍)

全然これっぽっちだよね!


「イカサマがなければ良いって言ってんだよ」

「だからイカサマをした証拠を出せって言ってんだよ」

身長が高いからって脅しになると思ってんのか?

額をぐりぐりと押し付け合い、用心棒の男とバチバチとにらみ合う。


証拠がない限り、こちらが有利だ。

イカサマはしている!

けど、証明できない限り引く必要はないね!へっ!

イカサマを証明されたら謝罪します。けれど、そちらもイカサマしているので、やはり謝罪はなしで!


一触即発の雰囲気の中、用心棒の男を後ろに押しやって礼装の男が登場する。

壮年の貴族風のいでたちの男だった。


「お客様、イカサマは確かにありました」

「だから証拠を出せって言ってんだよ」

「……もうおやめください。お金さえ置いていけば、こちらも荒事にはしませんので」

「証拠も提示せず金だけむしり取るつもりか?それで他の客が納得行くとでも?」

客を煽る。

運営側に対する批判の声が飛んでくる。

風はこちらに吹いている。追い風だ。間髪入れず叩き込むぜ。


「それとも、絶対に勝てるはずのゲームで俺たちが勝ってしまったから、イカサマがあっという逆説的な判断か?それってさあ、君たちが絶対に勝てるイカサマを用意していたってコト!?あれれ、おかしいーなぁ。イカサマは一体どちらが行ったのかな?」

「……やれ」

はい、論破!

用心棒の男たちに合図して、暴力行為に出てこようとしている。反論が思い浮かばないらしい。

ということは、こちらの論が正しい。はい、論破ぁ!!


もしも俺たちが弱者で、この場で暴力によって金を奪われたとしても勝ち誇った気分で帰れる。

「論破きもちええええ!」

よっしゃ、もう勝ったも同然だ。


「はしゃいでいるところ悪いが、力づくで行かせて貰う。あまり恨んでくれるなよ?イカサマをした坊ちゃんたちが悪いんだ」

「イキってるところ悪いが、力には力で返させて貰う。あまり恨んでくれるなよ?イカサマを仕掛けたそちらが悪いんだ」

一方的にイカサマされたわけではないので、仕掛けたという言葉を使わせても貰った。

一応こちらもイカサマしているもので!


「小僧、あんまり挑発してくれるな。手加減できずに、その細い首をぽっきりと折ってしまうかもしれない」

「おっさん、あんまり興奮してくれるな。手加減できずに、その巨体をぽっきりと折ってしまうかもしれ――」

言葉を言い終わるより先に、拳が飛んで来た。

あんな巨漢から飛んでくる拳だ。

俺の素の力で受け止められるはずもない。


「バリア――物理反射」


巨漢の拳が展開したバリア魔法とぶつかりあう。

大した威力のパンチだが、所詮魔法効果もないただの人間一人分の力だ。

それはつまり、バリア魔法の前には無にも等しい衝撃。人間のパワーの極致に至っても結果は同じだろう。

その無に近い力も、一応撥ね返させて貰う。


「ぐあああああ」

吹き飛んでいく巨漢。思っていたよりも凄い威力なんだな。けれど、異世界勇者の攻撃も、エルフ史上最高の魔法使いの攻撃も簡単に撥ね返した魔法だ。そんな生身の拳での攻撃じゃ一生割れない。


次々と襲い掛かってくる用心棒たち。悪いが全て撥ね返させて貰おう。

俺には効果のない攻撃だが、撥ね返すと彼らにはいい感じのダメージが入る。

硬すぎるバリア魔法を殴りつけたダメージと、殴りつけた衝撃がそのまま帰っていくんだ。生身じゃ結構きついかもしれない。


金が飛び交うカジノで、今だけ人がポンポンと飛び交っていた。

俺の周りで、悲痛な声が響きと男たちが吹き飛んでいく光景がひたすら続いた。

全員ぶっ飛ばして、いよいよ管理人の男と俺だけとなる。


「つまらんことをするからそうなる。シールド、早う終わらせろ。我はもうここに用はない」

後ろで女王様が急かしてくる。

ディーラーに酒を注がせて、グラスでオシャレにお酒を決め込んでいる。

なんだあいつ……。

ディーラーをいつのまにか手駒にしている!?

あいつがやってくれれば簡単にことが済むのに、手を出さず口だけ出してくる。まあ、いつものことなので許そう。


「全く、騒がしい客の処理は面倒くさいものです。それにしても、バリア魔法使いにも勝てないこのゴミ共はどう致しましょうか」

貴族風のカジノの管理人は、倒れた用心棒たちを蹴りつける。それも顔面を。

容赦のない、情の欠けた冷酷な男みたいだ。


「こんな初歩的な魔法に勝てない人間に、生きる価値なんてありません。ねえ、そうはおもいませんか?」

その問いは俺だけでなく、他の客にも向けられていた。

さて、考えは人それぞれだ。


「思わないけど」

そして俺はきっぱりと否定する。全然思わないけど。何言っての?バリア魔法最強だけど。義務教育受けてないのかな?

「そうですか。あなたもゴミの一種ですね」

貴族風の男は白い手袋を外して、ポケットにしまった。魔法で手袋を台無しにしたくないという訳か。

冷酷な顔でこちらを見て、自己紹介を始める。


「私はガンザズ伯爵の部下アリューシャン。金の計算ができるのでカジノの運営を任されえておりますが、実は結構実力派なのですよ」

「それ、自分で言うところが信用ならないな」

「ふむ、では証明してみましょう」

「証明は無理そうだな」

「なぜ?」

だって勝負は決したから。


指さしてやる。

「……!?」

ようやく気付いたみたいだ。

先ほどからずっと、いたんだけどな。


アリューシャンと名乗った貴族風の男の背後に周り、首元に短剣を突き付けた人物がいる。

疾走する影の通り名は流石だ。姿を見せずにチャックメイト。

アリューシャンは首に突き付けられた短剣で肌を軽く切られ、鮮血がツーと首元を流れていることにも気づいていなかった。


「何かしようとしたら殺す」

マスクをつけたミュートは戦闘モードだった。

その視線の鋭さは、先ほどカジノで楽しんでいた彼女とは別人みたいだ。


「まさか……ミュートか?伯爵を裏切るつもりか」

「所詮は金の縁。私は仕えるべき主を見つけただけ」

「くそっ。……降参です。どうか、命は」

敗北を認めてからは素直だった。

こちらの勝利で終わると、観客から拍手が巻き起こる。

なるほど、先ほどの大勝負ですっかり彼らの心を掴んでいたらしい。

この場の全員がこちらの味方だったというわけだ。


「シールド様、こいつはどうしますか?」

抵抗するつもりがないのなら、許してやるとしよう。

「離してやれ。こちらも大ごとにはしたくない」

「命拾いしたな、アリューシャン。シールド様に感謝しろ。ガンザズの豚には報告するな。いいな?」

今一度鋭い視線で睨みつける。

ちくったらどうなるか分かっているなよな?という言外に恐ろしい意味を感じさせる最後の言葉だった。

「あ、ああ……。折角拾った命だ。大事にするさ」

一件落着。

こうしてイカサマ勝負は、結局パワーで制して、無事大金を持ち帰ることができた。


ご機嫌なフェイとミュートと共にカジノを後にする。

これから買い出しだ。宿も探さないと。

いろいろやることを考える前に、一つだけ気になっていたことを、はっきりさせておく必要があった。

「なあ、フェイ」

「なんじゃ?」

酒で心地よくなったフェイの声色は明るい。今なら素直に答えてくれそうだ。

「俺のバリア魔法で球の軌道を変えただろう?その後、どうやって数字の24に入れたんだ?」

そう、俺がやったことは軌道を変えただけだ。

その後の結果は天に任せた。

そして見事24を当て、俺たちは勝負に勝ち、観客の心を掴んだわけだ。

何か種があるなら知っておきたい。


「ああ、あれか。あっははははは。完全に我の運じゃ。正直、当たるとは思っておらんかった!!あっははははは!!」

高らかに笑い、道の真ん中を歩いて行くフェイ。

自然と他の者が道を開けるのだから、根っからの王気質なのかもしれない。


ぞっとするけど、少し笑える真実を聞いてしまった。

「あっぶねー!無一文になるところだった!」

いや、やっぱり肝を冷やしました!

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