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109話 バリア魔法の説得力

最高のご飯を御馳走して貰った。

お腹いっぱいになったら、寝る!これに限る。


そんな神の世界の贅沢を満喫しようとしていたら、顔に傷を負った男が地下にある装置を壊し始めた。

物凄い音と、その行動に驚いて目が覚めてしまった。

魔石をはめた大きな輪っかの装置だ。

あれから風が起きているように思えたが、失敗だったのだろうか?


「壊すなんてもったいない」

つい口出ししてしまった。

「いえ、魔石だけは回収します。……名残惜しいですが、もうここにはいられませんので」

よく意味が理解できなかった。


「いい装置だったのに。仕組みには興味ないが風を起こすすごいものだった。それに、ここにいられないとは?」

そこが気になった。


「ガンザス伯爵の部下をあれだけ手にかけては軍勢が押し寄せて参ります。いくら地下に隠れると言えども、もうこの地にはいられません。追手を振り払うためにもなるべく荷物を少なく、早めに出発しないと」

「なんで?」

俺はここが好きになりつつある。

逃げる理由なんてどこにもないが?


「だから……」

「これからずっと逃げまわるのか?未来永劫?俺なら嫌だね。任せろ、俺がお前たちを守ってやる」

「無茶です。ガンザス伯爵の権威は強大で、とても抗えるものではありません」

なるほど、勝てないから逃げるのか。最もな考えかも。


「名前を聞いていなかったな」

「クイです。竜人族の長を務めています」

長だったのか。それにしては若い。一番賢い者が長になるのか?それともドラゴンの血が濃いから?

まあそれは置いておこう。


「俺の名前はシールド・レイアレス。お前たちを守り、導く者の名だ」

「お気持ちは嬉しいのですが……」

クイはまだ俺を信じられていないと見える。しかし、ここは大きな転換点だぞ。

竜人族全体に聞こえるように、少し声を大きめにして話す。


「このまま逃げ続ける人生を送るのか?それとも腹を括り、ここで戦い、好きな魔道具を作る日々を勝ち取るか。お前たちはどちらを選ぶ?」

決断は彼らに任せる。

俺一人で解決できる問題だが、彼らの意思を知っておきたかった。


一人の女性が進み出る。俺たちの飯の世話をしてくれて、軽く話した女性だった。ちなみに、美人!輝く綺麗な水色髪の毛を腰まで伸ばし、綺麗な立ち姿勢から醸し出される雰囲気と、彼女の凛々しい顔つきで真面目そう性格が見て取れる。


「リルと申します。クイの妹です。発言お許しください」

「お好きにどうぞ」

全体だけでなく、個人の意思ももちろん聞いておきたい。


「兄は種族の存続を考えているのです。どうか、保守的だなんて思わないであげて。けれど……」

「けれど?」

「みんな、逃げる生活にはもう疲れ切っています。逃げるたびに、発明品を壊し……。壊さなければ、今度は装置が私たちを狩る道具となるのです。技術を広めたいのに、広められないジレンマ。我々は一体何のために生きているのかと思う日々」

静かにそのあとの言葉を待つ。

彼女の本心が聞こえてくる。本当の言葉が。


「兄さん、私、戦いたい!もう逃げるなんて嫌。青龍様から貰ったこの命を散らすことになろうとも」

「リル……。みんなは、どう思っているんだ?リルと同じか?」

振り向いたクイは気づくだろう。


地下室にいる竜神族が食堂に集まってきて、皆強い視線をこちらに向けていることを。

そして、誰かが口火をきるように戦おうと口にした。

そこから雪崩のように言葉が続く。戦おうという言葉の大合唱だ。


本心からの言葉がようやく聞けた。少し満足だが、まだ物足りない。


「……みんながこう言っていますし、なら戦うべきかと」

「クイ、お前が族長だ。最後はお前の気持ちで決めるべきだ。俺と共に戦うか、それとも今まで通り逃げるか」

手を差し伸べた。

これを掴むかどうかは、クイが最終的に決める。

掴んだらもう二度と離せない。掴まなくても同じだ。


「青龍様ごめんなさい。僕も本当は、戦いたい。ああ、戦いたいんだ。戦いたい、戦って自由を勝ち取りたい。ガンザスを許せない。あいつに多くの仲間を殺された。許せない!……あいつだけは!」

強い語尾と共にクイの感情が爆発した途端、地下室に濃厚な魔力が溢れた。クイから発せられた魔力だ。


人の魔力量ではない。これは間違いなくドラゴンの魔力。彼に青龍の血が混じっている証拠だった。

感情の高ぶったクイの目は、ドラゴンの瞳のように縦方向に長くなり、顔に青い鱗が浮かび上がる。

魔力が高まり、ドラゴンの血が騒ぎ出し、恐ろしい治癒力で頬の傷も癒えていく。

傷口から蒸気のようなものがあがり、ものの数秒で頬は完治し、そこも青い鱗に覆われ始めた。


「兄さん!」

心配したリルがクイの肩に手を乗せた。

その途端、濃い魔力が離散し、クイの顔から青い鱗も消えていく。


ただの発明集団だと思っていたが、その奥には間違いなくドラゴンの血が眠っているのが垣間見えた。

恐ろしい魔力の高まりに、俺まで緊張するほどだった。

普通に本気を出せばガンザスとかいう領主に勝てるのでは?とか思ってしまった。


彼らの性格が穏やかで、争いを好まないからこその現状なのだろうけど。


「気に入った。やはり竜人族かっけええ!お前たちの本心を聞けて満足だ。お前たちを守り、導く者として最初の命令を下す!」

ひときわ大きな声で彼らに通達する。


「好きなだけ開発していろ!装置も壊す必要はない!ガンザスの軍勢は俺が全部処理しておく!」

ドン!あとは任せろ。決まったな。

これが国王になった俺の貫禄だ。どうだ?男も惚れる迫力だろう?


「あの……シールド様。ちょっとそれは無茶かと。我々も命がけで戦いますので、どうぞお使いください」

普通に信じて貰えませんでした。


惚れられるどころか、頭の狂ったやつとして見られている気がする。

本当だから!俺、やれるもん!一人でやれるもん!


「もしかして、そちらのドラゴン様が戦って下さるのですか!?」

未だに彼らの料理をうまいうまいと言って食べ続けているフェイのことを指していた。

あ、そうか。

彼らは竜人族だから、匂いとか感覚でフェイの正体を知っているのか。そういえば、彼らが竜人族だと言い出す前にフェイも彼らの正体に気づいていた。

やはり俺にはわからない共通の感覚が彼らにはあるみたいだ。


「違うけど?」

「我は戦わんが!」

ダブルで否定。

戦うのは俺一人で十分だけど。


「……」

無言だった。

クイが項垂れて言葉が出てこないみたいだ。


なんで!?ドラゴンは説明せずとも強いってわかるのに、バリア魔法はどこの世界でも人権がないんですけど!


「ガンザス伯爵の軍勢は数だけでなく、その質も異常に高いことで知られています。今日出て来たのなんてただの斥候。本体はあんなものではありません。シールド様の心意気は嬉しいのですが、あまりに現実離れしているかと……」

これだから、バリア魔法の素晴らしさを知らない連中とは話が合わないぜ!


ったく、バリア魔法の真の力を見せてやりたいが、そのためにはガンザス伯爵が攻めてこないといけないし。

今彼らを説き伏せるためには……。

くそっ、戦って証明するしかないけど、好戦的じゃない彼らに無茶を強いることになっちゃう。手詰まりだ。


ミライエに戻ったらバリア教の教祖エリンに援助しておこう。違う大陸にもバリア魔法こそが最強だと広めねば。その名を聞くだけで震えあがるほどの存在にまで昇華させてやる。

夢がまた一つできてしまった。


まだその夢の実現には遥か時間を要するみたいなので、この場はチートを使わせて貰う。

まだ食事中のフェイに耳打ちする。


「おい、フェイ。この場は戦うと言ってくれないか。お前の力が必要だ」

「嫌じゃ。我は誰かの都合では戦わん。我は気まぐれでしか戦わん」

「それでいいから。お前の性格は知っている。この場で戦うと言ってくれればいいだけだから」

フェイが面倒くさいことを避けることは当然知っている。だから、こいつを釣るための餌も当然ある。

「なぁ、この世界の美味しいお酒探し手伝うから。きっとガンザスとかいう領主がたんまり貯えてんだよ。絶対。全部没収して、それは全てお前のものだ」

「本当か!?」

「本当だ」

ガシリと腕を組み合わせた。我らの同盟は酒の元に成り立つ!


「聞け!青龍の血を引く雑魚どもよ!」

言い方!!


「我は最強ドラゴンのバハムート。青龍が2体いてちょうど我と勝負になるくらい強い。その我が直々に戦ってやる。お前たちはのんびりしていろ。ガンザスの酒は全て我のものじゃ!!この世界のものは全て我のものじゃ!!がははははっ」

悪徳領主どっち!?

そんな俺の心配をよそに、竜人族はフェイの言葉で歓声が沸いた。

すっかり安心したのだろう、ひとしきり喜んで、命令通りそれぞれの生活に戻っていく。


その顔には安心しきった表情が見えた。

……納得いかない!!


俺が言ったときは誰も信じてくれなかったのに!

フェイが言えばこの説得力!

納得いかない!!

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