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106話 バリア魔法、異世界でも活躍

いよいよ異世界へと続く道を通る瞬間がやってきた。

注射を受ける前くらい、俺は躊躇し始めている。痛くないよね?ねえ、痛くないよね!?

いざ異世界へ!となるとなんだか急に不安になってきた。


「何をビビっておるんじゃ。はよせい」

大鏡を移した先、ダイゴに与えた工業区へと赴く足取りが非常に重い。

やたらと張り切っているフェイのやつはなんなんだ。異世界勇者を前にしたらあんなに嫌がるのに、今から行こうとするのはそいつの故郷だぞ?


いいのかよ。ひじりの話じゃ、こちらの世界よりも人口も文明も発展しているって話だ。

怖くない?なんか怖くない?ねえ、怖くない?


「うまい酒が待っておるぞ。ぐふふふ、楽しみじゃ」

あ、そういうことですか。わかります。

彼の日本という国はこの世界にはない数あまたの酒があるらしい。

それは俺も楽しみであるのだが、酒にある料理も豊富だし、甘味の類も比にならないくらいあると聞いている。なんて素晴らしい世界なんだ。


それでもやはり最後の最後で躊躇する。変化って怖いなー。


ひじりが元の世界に戻らず、エルフの島を満喫している理由が少しだけ理解できた。

いつでも帰れる装置があるとわかったなら、逆に焦る必要がなくなるのか。

そりゃ嬉しいけれど、戻れるとなれば今度はそちらの世界を満喫したくなるのが人の心というものだろう。


それもこれも、ひじりがミライエを好きになってくれたからという側面もあるけれど。


大鏡を前にして、俺は再度唾を飲み込んだ。

ごくり。またごくり。

「うるさいわ!喉の音がここまで聞こえる」

優しくして!誰か、俺に優しくしてー!


見送りにきたベルーガに甘えたかったが、これから1ヶ月感は彼女に頼れない。

泣きつくのは辞めておいた。


そう、俺とフェイはこれから1か月間異世界への旅を満喫してくる。満喫という言い方は違うかもしれない。地獄旅になる可能性もあるからだ。いいや、地獄旅になる可能性のほうが大いにある。

戻る場所は、同じ地点。


1ヶ月後には魔力供給装置が完成しているので、同じ地点にゲートが開く予定だ。

それまでは、フェイと二人で生き抜かねばならない。

結構どきどきだ。


「じゃあ魔力を流し込むぞ。ダイゴがいうには、二人分の魔力はこのくらいか?」

魔法の才能があるやつほど、魔力に敏感で魔力量も多いのだが、俺はあまり敏感ではなく、魔力量も多くない。

しかし、直に感じるフェイの魔力量は、鈍感な俺でも異常な量だというのが分かる。


ぞっとするほどの魔力量が、フェイから大鏡に注がれる。

改めて、こいつが人間ではないのだと思い知らされる。こいつが全力を出したら、世界はどうなってしまうのか。


「ほれ、見てないでとっとと潜れ。結構疲れるんじゃぞ」

それもそうだった。

これだけあり得ない膨大な魔力量を放ち続けているんだ。フェイも疲れないはずがない。

傍にいたベルーガとダイゴは、その濃厚な魔力に充てられて、少し体調を悪くするほどの代物だ。

正真正銘の化け物……。


また躊躇ったら後ろから前蹴りを食らいそうなので、今度こそ大鏡へと進んでいく。

後ろからなのに前蹴りという不思議!

変なことを考えている辺り、やはり少しパニックになっているかもしれない。


それでも踏ん切りをつけて、いよいよ大鏡に飛び込んだ。そいっ。なんとかなれー!


「あでっ」

ガーンと響く音がして、俺は撥ね返された。……なんとかならなかったけど。


「すまん、息継ぎしてたら魔力の供給が途絶えてしもうて……」

「……」

「そう睨むな。わざとじゃない」

俺は今、猛烈にフェイ不信に陥っている。

あれだけの魔力量の供給をして貰っているから、確かに魔力の途絶える瞬間があってもおかしくない。

しかし、どうも俺はこいつが狙ってやったとしか思えない。


だって今、腹抱えて笑ってんだぜ、こいつ!!


「くくっ」

ベルーガまで!?


よくない、よくないよ!俺、国王だからね。一応!


「……早くしろよ」

「すまん、すまん。笑わずには、おられんかっただけじゃ。本当にわざとじゃない。よし、今度こそ。ほれ、行ってみろ」

今度同じことをされたらこいつと久々の大喧嘩をしようと決めて、大鏡に飛び込んだ。

こんどこそ、なんとかなれー!


魔法の呪文が効いたのか撥ね返されることはなく、ぬめりとした空間を通り抜けて、俺は新しい世界に降り立つ。


そこには……、業火が燃え滾っていた!


熱い。猛烈に熱い。

それもそうだ。

炎の海に囲まれ、辺りからは人々の悲鳴が聞こえる。


地獄旅になるとは思っていたが、本当の地獄に来るとは聞いていないのだが?

ひじりから聞いていた世界とは違う気がする。


ここは文明が発展しているようには見えないし、治安もとてもじゃないが良いようには見えない。

そして何より――。


「バリア」

飛んで来た矢をバリア魔法で防ぐ。

遠くから明確な意思をもって、俺を狙ってきた者がいた。


「マナーのなっていない連中だ」

「おっ?なんじゃ、面白そうなことが起きておるの」

何もなかった場所から突然、フェイが姿を現した。

俺もきっと、こんな感じでこの世界に姿を現したのだろうか。


いきなり現れたら確かに驚く。

けどな、それが攻撃していいって話にはならないよな。


辺りを見回すと、炎の中を逃げ回る人々と、それを追いかけ攻撃する鎧を着た連中がいる。

追われる方も魔法で迎撃してはいるが、おそらく奇襲にあったのだろう。

炎の中では仲間同士の意思疎通が難しく、形勢は悪い。


決めた。

俺を攻撃してきた鎧を身にまとう連中は敵だ。

どんな事情があるかわからないが、人を傷つける連中に碌なやつなんていないよな?

そして、俺を攻撃しようとした罪は重い。……死刑!


「バリア――人体感知」

新しいバリア魔法を使う。


ダイゴの開発した軍船にヒントを得た。

人を感知し、そこにバリア魔法を張る。


敵味方を判断できないデメリットはあるが、幸い俺のバリア魔法はぶつかって痛いくらいの被害しかないので問題はない。


しばらく動きを止めさせてもらう。


辺りが少しだけ静かになる。

戸惑いの声と、馬がバリア魔法内で動けず騎手を振り落としているくらいか……。俺のバリア魔法は人に危害を加えないが、そういう二次被害は仕方ないよね!


それに、馬から落ちた連中は俺が敵認定したやつらだ。なおのこと問題はない。


「な、なにが起きている!?」

「硬い透明な壁に覆われた!硬すぎて壊れない!」


戸惑いの声が届く。

タイミングよく、フェイが水魔法で辺りの炎を消し去ってくれた。

「なんじゃ。人間どもの思い描く地獄じゃないのか。つまらん」


水魔法の威力が強すぎて、俺のバリア魔法がなければ皆飲み込まれていたぞ。


濁流のように流れる水魔法は、木々をなぎ倒してまだ進んで行っていた。

環境破壊がひどい。


「何者だ!?この任務が、偉大なるガンザズ伯爵の命令と知っての蛮行か!」

炎が晴れ、騒動が静まったことで、俺の視界が晴れる。

ということは、相手からもこちらが良く見えるということだ。


俺に矢を射かけて来た人物の隣で、白馬に乗ったひときわ豪華な鎧を身にまとった男が威圧してくる。


男の嫌味ったらしい表情も見えた。

それと同時に、この惨劇のむごさも見えてくる。


被害にあった人たちが、同胞の亡骸に涙を流している。

うずくまっている人々は、怪我をしているのか、それとも絶望に項垂れているのか……。


1ヶ月間、異世界を楽しく旅する予定だった。

怖がりながらも大鏡を潜り、楽しみにしていた異世界旅が……。


「ガンザズ伯爵?知らないな。俺はミライエの国王、シールド・レイアレス。普通に考えて、国王の方が偉いから、頭下げろよ」

「シールド・レイアレス?どこのどいつだ。聞いたこともない家名だ。構わん、任務の邪魔をするというのなら殺せ」

知らないか。だよね!ちゃんと異世界には来たっぽい!


殺せ、か。まあ、お前らはそのバリア魔法から出られないんだけどな。

けれど、特別だ。


解放してやる。

鎧を着た連中を囲うバリア魔法だけ解除しておいた。


「お前らのせいで気分最悪だ。こいよ、外道ども。俺が全員、撥ね返してやるから」

楽しい異世界旅、見たこともない文明を味わい、ひじりの故郷を見て回る予定が、こうして綺麗に崩れ去った。

ここは腐っている。

焼け爛れたにおいだけではない、この世界が腐っている匂いだ。

まずはこの場を正してから、俺はこの世界を満喫する。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ロボットやbotの概念、注射といった精密医療器具作れる文明だったのか? まだどっちに正義があるのかわからんのに片方に味方か。
[一言] どう考えても別の世界
[一言] ひじり「知らない…こんな故郷知らない…」
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