102話 バリア魔法でイージーモードに
ヘレナ国から勝ち取った土地は、他国からの承認もあり、正式にミライエの一部となった。
早速開発を行いたいが、住民も不安だろうからしばらくは大きな動きはしないでおいた。
といっても、ちょうど伝説の傭兵団アトモスを手に入れたのでアルザス地方に移動させておく。
この地の正規軍にして、治安維持に勤しんで貰う。
「シールド様、これほどの土地を本当に放置しておくつもりですか?」
俺の政策に普段は何も言ってこないベルーガだが、流石に勿体ないと感じたのだろう。
なにせ、先の戦いでの戦費が嵩んでいる。コーンウェルの悪徳姉妹に借金の催促をされる日々である。
そのため、勝ち取ったものだから、もっと積極的に手を加えるべきだという考えらしい。
といっても、あれは異世界勇者がいて活気づいちゃったのと、カラサリスの私怨もあっての戦いだ。俺のバリア魔法をヘレナ国が欲した故の戦争であった。
俺にも要因があるし、ヘレナ国にも戦いたくなかった人は多かったはずだ。
少しばかり思いやっても良いだろう。急激な変化は軋轢を生んでしまうはずだ。望むのは共存なので、アルザス地方の人々に負担を強いたくなかった。
それに、これだけはしておくつもりだ。
「バリア魔法くらいは張ってやるつもりだ」
「それだけで十分ですけど!!」
なんか、ベルーガに凄く驚かれた。
何もしないってのは、街の開発だけですよ?
ベルーガからしたら、むしろそちらが些細なことらしい。
バリア魔法があればいいんだと。
バリア魔法も張らずに放置するのかと勘違いしていたらしい。
聖なるバリアは1か月で作れる非常にコスパの良い魔法だ。
やらない理由がない。
俺はバリア魔法を張ることを知ったベルーガは非常に安心していた。
「バリア魔法さえあれば一安心ですね。良かったです」
ということらしい。
バリア魔法なんてこんなすぐに作れるもの、いつだって作りますよ。
別にバリア魔法なんてなくたって、そんなに変わらないと思うけどなー。
アルザス地方の問題は、開発どうこの前段階だ。
お手軽に作れなかったら、別に作らないレベルだよ?
もっと先んじての課題がある。
早速アルザス地方に入った俺たちは、街の人たちからは歓迎されなかった。
エルフの時の戦いとは違う。
実際に侵略されたのはこちらだが、アルザス地方に住む人たちにとってはもともとの洗脳もある。
彼らからしたら、俺はこの地にやってくる侵略者その者なのだろうな。
魔族とドラゴンを率い、今やエルフと異世界勇者も追加で。彼らを率いて世界を混沌に導くものか……。歓迎されるはずもない。直面している問題は、まさにこれだ。
街の有力者にもそれぞれ会ってきたが、どこでも歓迎はされなかった。
ベルーガから首を刎ねますか?と聞かれたが、まあ焦ることはない。
最初からの方針通り、急いで変革をもたらすつもりはない。
こういうのは時間がきっと解決してくれるはずだ。
馬に乗り、魔族を数名率いて街を視察した際にも、どこからともなく石を投げつけられた。
もちろん、バリア魔法があるので余裕でガードできる。
「ふふっ、俺を傷つけたくば、あと1億個くらい投げてみせろ!」
「……そういう問題でありません。それに10億個投げてもシールド様のバリア魔法は突破できません」
その通り。俺は大陸最強のバリア魔法使いだからな。
無礼だったが、許してやるとしよう。
「問題なのは、この地を治めるシールド様が侮られていることです。見せしめも必要かと……」
うーん、舐められるのはよろしくない。
秩序にも関わってくる。
しかし、石を投げてきた人間を特定するのも難しいだろう。
さて、どうしようかと悩んでいると、俺たちの前に歩み出る者がいた。
「ん?なんだ、お前」
勇ましい顔で俺を睨んでくる者がいた。
精悍な顔をした青年だ。
「シールド・レイアレス」
「国王様を付けろ、無礼者」
馬上から魔法で水の剣を作り上げたベルーガが、かーなり怒った表情で青年を睨みつけていた。
流石にひるんだみたいで、一歩下がっていたが、それでもまだ何か言いたいことがあるらしい。
そりゃ、こんなところまで歩み出て来たんだ。用事がない訳もない。
一旦ベルーガを止めて、彼の話を聞いてみた。
「つまらん話だったら、ベルーガの剣の錆になって貰おう。といっても、水魔法なので錆にはならないんだけどな」
ガハハハッ。
「シールド様、今は補足はいらないかと……」
ごめんね。言いたかったから、つい。
「シールド・レイアレス、侵略者のお前に告ぐ!我々アルザス地方の気高き民は、お前に屈したりなんてしない。これからどんなひどい目に合おうとも、俺たちはヘレナ国の民だ。心まで奪えると思うな!」
なんか誇り高い青年だった。
別にそんな酷いことなんか考えていないけど!
あんまりしつこく言っても信じて貰える空気感ではなさそうだ。
街の人たちも、完全に青年の味方で、俺を敵視している。
ベルーガを止めたのは正解だった。この青年を斬れば、大きく揉めそうな雰囲気である。
ピリピリとした緊張感ある空気が街中を支配していた。
「さて。俺が何をしに来たか。まあ信じて貰えるとは思えないが、今決定していることだけは教えておこう。周りの者共もよく聞いておけ」
全員に聞こえるように声量を少し上げておいた。
わらわらと集まってきた観衆に届くように、これからの計画を伝える。
「えーとだな、まずはアルザス地方を覆うバリア魔法を張る。そして――」
「え!?」
青年の大きな声が響いた。
あたりもざわざわとしだす。そこら中から驚きの連鎖が始まり、辺りは更に騒がしくなってきた。なんか、俺たちを放っておいて、勝手に騒ぎになり始めた。
「どういうことでしょうか。シールド様……」
後ろに控えている魔族たちも事情が分からず、警戒態勢を取った。
あまりそんな気もしないが、数は圧倒的に向こうが多い。暴動になった時に、ここを抜け出すくらいの準備はしておくか。
そう思っていたが、人々の顔には喜びの色が見える。
「あんた!本当に聖なるバリアをこのアルザス地方にも張ってくれるのか?」
先ほどの青年がまた尋ねてくる。
「は?俺の領土だぞ、張るに決まっているだろう」
俺の言葉に、辺りが一瞬静まる。
なんだ?俺のやることに文句でも?
そう思ったら、次の瞬間人々が弾けるように喜びを爆発させた。
……ん、なんか思ってたのと違う。
「またあの聖なるバリアの中で暮らせるのか?本当なのか?」
「だから、俺の領土を俺のバリア魔法で守るのは当然だろう」
「で、でも!ヘレナ国側からは、あんたがこの世を混沌に導くと」
「知らん!どっちを信じるかくらい、お前で決めろ」
早速だが、適当に空を覆うバリア魔法を作っておいた。
聖なるバリアとは違う、簡単なやつだ。
聖なるバリアは時間がかかるからな。今はこれで、俺の意志を伝えられたらいいだろう。
バリア魔法が空にできた瞬間、人々の喜びはさらに爆発した。
……時間がかかるかと思われた彼らとの融和だが、一瞬でした!
バリア魔法で、一瞬で心掴んじゃいました!
おいおい、いろいろ心配していたのに何だったんだ?
結局バリア魔法で全部解決しちゃうのかよ。バリア魔法、最強か?
騒ぎが続き、そのうち、馬車でやってくる者がいた。
兵を使い、人垣をかき分ける。馬車から壮年の貴族が出てきた。
あれは知っている。元々アルザス地方を治める領主だ。予定ではこれから会談を行う予定だった人物である。
先ほど俺の前に出てきた青年の方へと歩いて行って、その頭を殴りつける。
首根っこを掴んできて、俺の前に引っ張ってきた。
「息子がどうやら失礼を働いてしまったようで」
「親父!俺は正しいことを言っただけだ!」
「どうか、息子の無礼は私の首一つで……」
禿げた貴族のおっさんだが、礼儀は理解している。禿げは関係ないな、うん。
「別にいい。そう気にしていない。ただし、二度は許さない」
「……ありがたきお言葉」
「それはそうと親父!」
「黙らぬか、バカ息子めが!」
「いいから聞けよ!アルザス地方にも、聖なるバリアを張ってくれるって話だぜ!」
今度は禿げが驚きの表情を見せる。禿げって思うのはやめとこうか。そのうち口に出ちゃいそうだ。
「ま、まことですか?シールド様は、この地にまたあの聖なるバリアを!?」
「当たり前だ」
「……イヤッフー!」
「……」
なんだこいつ。
禿げがなんかはっちゃけ始めた。
今後も彼らとはいろいろと詰めることがあるだろうが、なんだか簡単に事が運びそうな雰囲気になってきたことを薄々感じている。
バリア魔法を使った途端、全てがイージーモードに。
やはりバリア魔法は最強だった。