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(三)鳴くよ鶯

 鳴くよ 鶯 平安京――?

「お前! ちょっと腕を見せてみろ!」

 突然、隆家はずいっと近寄り、私の左腕をつかんで袖をまくり上げる。

「痛っ! 何するの?」

「これ……大丈夫なのか?」

「え?」

 自分の左腕に目を下ろす。

 な、何……これ……

 大きな痣が数ヶ所ある。

 隆家は右袖も同様に上げて、同じような痣があるのを確認し、眉をひそめて私を見た。


 記憶を遡る――

 飛行機の窓。

 黒い竜巻。

 息つく暇もなく一気に襲ってきて、飛行機が飲み込まれた。

 悲鳴……叫び声……それも一瞬で聞こえなくなる。

 代わりに、聞いたことがないような轟音。

 シートベルトはいつの間にか外れてしまい、そこらじゅうに体を打ちつけられて、視界はもうぐちゃぐちゃで――

 数分後、機体毎その渦の外へ放り出され、やっと静寂が訪れ、静止した。

 しかしそれは一瞬。

 次の瞬間、頭から真っ逆さまに落ちて行く。

 私は死を覚悟し――そのまま気を失ったのだ。


 ふいに脚に違和感を感じて、ワンピースの裾をめくりあげる。

「なっ、何をする?」

 隆家は着物の袖で自分の両目を隠そうとするが、傷だらけの私の両脚が露わになったのを見て手を下ろした。

「一体、何があったのだ……?」


「私、死ななかったんだ……」

「死ななかった?」

 唖然とする隆家の顔をぼうっと眺める。

「それに平安京って――ああ、分かった! ここ、京都御所なんでしょう? 平安京の御所が復元されてる(※違います by作者)んだよね? どうやって墜落したはずの飛行機からここまで辿り着いたのかは分からないけど……とにかく私、助かったんだ……」


 じゃあ帰らなきゃ!

 お父さんとお母さんが心配してる!

 私は立ち上がって外へ――向かおうと一歩踏み出した時、左脚に激痛が走り、ぐらりと視界が反転する。

 仰向けに倒れていくところを、隆家が両手で抱きとめた。

 何、この脚の痛み……?

 折れて……る……?

 

「だ、大丈夫か? 熱もあるではないか? おい! 誰かおらぬか!」

 隆家が大声で人を呼ぶ。

 その顔を目の前で眺めて――あら、この人、イケメンだわ――などど思いながら、私は意識を失った。


 目が覚めると、真っ白な化粧をした女性が私を見つめていた。

「あら、お目覚めになりました?」

 お雛様の、三人官女のような格好をしている。

 髪は真っ黒で姫カット。

 さっきの隆家といい、京都御所では装束体験でもやってるのかしら?

 ていうか――体が痛い!

 しかも、ガタガタと砂利道を走っているかのような感覚。

「ここはどこですか?」

「お車の中ですわ」

「車?」

 目を女性の横に向ける。

 車にしては高い天井。

 木製の格子の装飾が施されている。

 壁には細長い窓に簾のようなものがかけてあるのが見えて――

 いやいや、何て言うか、これ部屋でしょう?

 そもそも、私が寝ているの、座席シートの上じゃないよね?


 手をついて起き上がろうとするが、体中に激痛が走る。

「っつ!」

「ああ、典薬寮(てんやくりょう)に到着するまで、そのまま横になっていてください」

 三人官女に扮した女性は、私の両肩をそっと掴んで私を寝かせた。

「てんやくりょう?」

「お医師に診ていただくためですわ」

「医者に? じゃあ病院に向かってるのね。でも何でまたこんな変な乗り物に……」

「あら、網代車(あじろしゃ)は初めてですの?」

「あじろしゃ……って?」

 私の問いに、女性は怪訝な顔を一瞬してから、笑顔を作り直した。

牛車(ぎっしゃ)の一つですわ」


 牛車――

 この三人官女風の女性――

 さっきの建物――


 私は再度、がばっと痛みに耐えながら半身を起こして窓から外を見る。


 ここは一体――


 国宝級の神社のような、立派な建物が整然と並んでいる。

 ビルやマンションが全く見当たらない。

 電線も、電信柱も、標識も、信号機も、アスファルトもない。

 土埃が上がる道路に自動車は一台も見当たらず、代わりに牛が大きな車輪のついた箱を運んでいる――あれが牛車?。

 歩行者の多くは時代劇で見た、足軽がするような格好をしている。


――ここは京の都。平安京だ。

 隆家がさっき言ってた台詞が頭の中でこだまする。


 平安京――

 まさか、ここ。本当に、平安時代なの?


 もしやラノベで流行の異世界転生?

 いや、私が前のままここに存在しているのだから、少なくとも転生ではない。


 ではタイムリープ?

 いや違う――これはタイムスリップだ!!

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