表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第3話

   

「ええ、キンモクセイです。ほら……」

 彼女は、オレンジ色の花を咲かせた木に歩み寄り、その幹を愛おしそうに撫でる。

「……樹皮が(サイ)の足みたいにザラザラしているでしょう? 薄黄色の花を見て昔の人は『金色』と思ったようで、だから『金の木の犀』と書いて金木犀(キンモクセイ)と呼ぶのですわ」

「ああ、なるほど……」

 彼女を真似して、私もキンモクセイの木に近づいて触れてみる。

 確かにザラッとした手応えだ。今まで木の幹の感触なんて気にしたことはなく「どんな木でも、こんな手触りではないのか?」とも思ってしまうが、それを言うべき場面でないことくらい、きちんと(わきま)えていた。


 近づいたことで、最初に感じた甘い匂いも強くなっていた。

 なるほど、キンモクセイといえば、芳香剤などに「キンモクセイの香り」と書かれているのを何度も見たことがある。

 これが本物のキンモクセイの香りなのだろう。

「素敵な香りですね」

「そうでしょう?」

 こちらを向いて、にっこりする女性。

 同じキンモクセイの木に(さわ)れるほど、私と彼女は近い距離に立っている。キンモクセイの花の匂いに混じって、彼女の方からも心地よい香りが漂ってきているのを、私ははっきりと意識していた。


 交わした言葉はそれだけだったが、彼女の存在は、私の心に強く焼きついてしまった。

 それから数日もしないうちに、同じ神社へ足を運んだほどだ。人気(ひとけ)のない神社であり、一人でキンモクセイを眺めていると……。

「またお会いしましたわね」

 最初の日と同じように、後ろからの声。

 振り返れば、同じく薄黄色のワンピースを着た彼女が立っていた。

「やっぱり、キンモクセイがお好きなようですね」

 と言って微笑む彼女を見るだけで、私は胸が温かい気持ちで満たされるのだった。

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ