53.5話『今日も君は完璧令嬢を』
※???視点
今日も綺麗なバラが咲き誇る学園の園庭の一角にある男は座っていた。
男は優美な手つきでカップを手に取って紅茶の匂いを楽しんでから口を付けた。
「さて、今日は何が見れるだろうか」
男は一人呟くとまた一口、紅茶を口に含んでからカップをソーサーに戻した。
彫刻のように整った唇に手を当てて男は何かを思案してからふっとひとりでに笑った。
男はテーブルの上に置かれた分厚い本を手に取って先程まで読んでいたページをめくる。
しばらく集中して読んでいると鳥のさえずりがどこからか聞こえてきた。
男は顔を上げてあたりを見回した。
どうやら、だれかがその男のオアシスに侵入してきたようだ。
テーブルの奥の方からその侵入者は堂々と歩いてやってくる。
男は一瞬顔をしかめてからすぐに元の無表情に戻して言う。
「兄上、随分とお早いお目覚めですね」
侵入者は愛想笑いを浮かべてから口を開く。
「おや、どうやら私はお前に生活習慣のなってない男だと思われているようだね。そんなことないんだけどね...」
そう言いながらバラに手を伸ばした。
ブロンドの髪がサラリと綺麗に揺れる。
「ここのバラはいつ見ても綺麗だね、年中こんなに綺麗なバラを咲かせているのはこの学園の他に、公爵家と私達王家の者だけだ...ああ、神殿の白薔薇もそうか」
侵入者は勝手に一人で話を続けた。
男の赤い目は少し冷えた氷のようになっている。
「...さて、ここで問題だ。私が王太子を辞めるのはいつになると思う?」
愛想笑いから心から沸く笑いを男に向ける侵入者はこの国の王太子のアーサー、そしてその侵入者を冷めた目で見る男はこの国の第2王子のアルティアスのようだ。
アルティアスは考える素振りも見せずに即答する。
「さあ、私には目見当もつきませんね。それはともかく早く朝の準備をされたほうがよろしいのではないですか?...どうせ、起きたのは先程なのでしょう?」
アーサーは笑みを深めて「確かにそうだね」と言う。
アルティアスはとても胡散臭い笑顔をしながら傍に立っていた近衛兵に指示を出す。
「もうそろそろ朝のティータイムは終わりにしよう。どうやら、もう終わり時のようだ」
そう言ってアルティアスは立ち上がるとアーサーの横をするりと抜けて学園の教室がある方向へと向かって行った。
近衛兵もすぐに近くで待機していたメイドにティーセットを片付けさせてアーサーに一礼して撤退していったためアーサーは一人その場に取り残された。
そして誰も聞こえるはずがない遮断のされた園庭の一角で彼は一言こう漏らした。
「どうやら、もう少しかかりそうだね」
第5章コンプリート率:5/8
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