28.5話『彼女には才能がある』
投稿が遅くなり申し訳ございません。
※ジュリウス視点→ディオルウェ視点→ルステラン視点→ベリーチェンド視点の順です。
ーやはり、彼女には才能がある
それは私達、ヴァルトキア家兄達の共通認識だ。
1か月ぶりに会った妹はいつも通りの妹だった。
周りには年上の人達ばかりがいるのに全く物怖じしないところは相変わらずと言っていいほどだ。
先日なんて騎士団長のアルスコウル様と手合わせして互角に戦っていたのだとか。
これはいつも剣の練習ばかりしている弟のディオが言うのだから間違っていないはずだ。
定期的に彼女の行動を聞いているが、一体何を目指しているのだろうか。
私はいつも教室の窓際に座っているため外を見ながらそのことについて考えを巡らせていた。
そしていつものように教師に「ジュリウス・ヴァルトキア、この問題を解いてみましょうか?」と言って暗に『よそ見をするな、しっかりと授業を受けろ』と言われた。
私は席を立ちながら問題を確認する。
この学園の新学年が始まる前にあらかじめ、中等部の教科書の問題を全て解いていたおかげでどの問題かを理解する。
黒板へと着くとチョークを取ってすらすらと公式通りに問題を解き終えて教師に「これでよろしいでしょうか?」と言いながらチョークを置いた。
教師は今にも舌打ちしそうな悔し気な顔をしながら「正解です」と言う。
これで何回目だろうか、この教師は毎回私に中等部の問題を「どうだ、お前はできないだろう?」という顔をしながら解かせる。
もちろん予習を怠ることはしないため毎回回答はしっかりとできるのだがいつこの遊びは終わるのだろうか、もうそろそろ飽きてきたところだ。
私は自分の席について再び窓の外を見ようとしたが隣のウィルに邪魔をされた。
「さすがだね、ジュリウス。君はいつも完璧な回答をするね、私も見習わないといけないね」
彼の口調は学園ではいつもこのような感じなので令嬢には『王子様』と言われていたりする。
まあ、私には関係がないけどね。
「たまたま予習していたところが同じだっただけだよ」
と私はさらっと嘘をついた。
新学年が始まる前には中等部1年までは予習しているので今は2年生のほうをやっているのだ。
中等部の勉強といえば、最近は妹のセレナは高等部の勉強と並行して論文を読み漁っているらしい。
その論文の内容は魔法についてが多く、彼女はいつか国を破滅の危機にしそうだから今度いちおう注意しておいたほうがいいだろうか。
「ーーーーーーーーー」
私が他のことを考えている間も隣でウィルが喋っていたようだが内容は全く頭に入っていない、先程から右から左に会話をスルーしている。
スルーしていたのだが突然彼は面倒なことを言っていることに気が付いたのでまた彼の話を聞くことにした。
「そういえば、セレナは元気かな?また遊びに行きたいな」
どさくさに紛れて勝手に私の実家に押しかけようとしている従兄に笑顔で断りを入れる。
「最近、セレナはいろいろと忙しいみたいだから会えるか分からないよ?」
最近セレナは王妃教育も始まって忙しい...はずだったが王妃教育を一週間で終わらせたので実のところ忙しくはない。
一応最近アルスコウル様直々の剣の稽古で忙しいはずなので嘘は言っていない。
「そうなんだ...残念だな」
本当に残念そうな顔をするウィルだがきっとこれは彼の演技だ。
私と同い年と言うこともあって小さい頃から何かとウィルと一緒にいることが多かったからか彼が演技しているときはすぐに分かるようになってしまった。
ウィルを上回る演技力がある人はなかなかいないと思ったが妹のセレナもかなり演技が上手いことを最近知った。
なにをしたとしても、たとえ家を勝手に抜け出していたとしても本人はしれっとした顔をしてまったく表情に出さない。
本当に彼女の将来が楽しみだ。
思わず笑みが零れる。
すると失礼なウィルは「え?ジュリウスどうしたの?珍しく笑ってるね、何かいいことが...もしかして、好きな人でもできた?」と斜めの方向に会話をすすめようとしたので即「違うよ」と言っておいた。
その時のジュリウスは周りの令嬢たちが存在しない女について騒いだことを知らない。
最近セレナは俺と一緒にアルス様の稽古を受けるようになった。
アルス様もどこか楽し気に本気でセレナと稽古をしているところをみると彼女はアルス様にとっても強い存在らしい。
この国の騎士団長のアルス様には「強い人と戦っているときに楽しそうにしている」という噂があったが本当のようだ。
セレナが稽古をしているというのもあり、彼女の執事と従者も一緒に稽古をしているがこちらもかなり強い。
普段はドフとティールの2人で剣を交えているからいいとして、たまにアルス様の提案で俺も一緒に参加させらることがある。
もちろんそこには妹のセレナも入っていて、それに参加させられた日には珍しく次の日筋肉痛に悩まされた覚えがあるのでもうやりたくない。
俺が素振りしている間にセレナとアルス様が横で剣を交えると言う名の殺し合いの一歩手前のことをしている。
隣でガキンッ、バキンッ、ゴキッと何かが折れる音が聞こえるがどちらかが再生の魔法を使っているからか全く剣が折れた様子がない。
またも素振りの練習に戻るが再び横でガキンッ、ガコンッ、バキッ、ボキッと何かが折れた音が聞こえる。
最初は何度も横を見て剣が折れていないか確認したが毎回折れた様子はないので最近は無視して素振りを続けられるようになった。
そのことをジュリに言ったら「ディオ、お前は一体なんの稽古の横で素振りしてるの?」と言っていた。
その時ちょうどウィルもいたので彼もすごく驚いた顔で「セレナちゃんって勉強だけじゃなくて、運動もできるのね...」と言っていた。
確かにこの状況は異常だ。
セレナにとって相手は200を超えた超巨大と言っていいほど大きい大人と戦っているのに全く恐れもせずに向かっていくのは正気の沙汰ではない気がする。
俺はその報告をジュリに言うときにどこか現実離れしたことから顔をそむけるように頭の中では『今日は空が綺麗だな』と現実逃避していたのであった。
セレナは『Reaper』の本部によく顔を出すようになった。
僕的にはぜひともこの組織に入ってほしいがきっと両親が許してくれないだろう。
この前、どさくさに紛れて書類整理をセレナに頼んだらものの数分で書類をさくさくと片付けてしまった。
どうやら、彼女は書類整理が得意らしい。
これは使えると思った僕は彼女に「この組織に入ってみない?」と言ってみたが丁重にお断りされてしまった。
最近は本部以外にも顔を出すところができたらしくよく我が家の練習場で楽しそうに剣を振っているのを見かけるようになった。
「僕も剣の練習してみようかな...」
思わず食事中に零れた言葉をディオ兄が聞き取ったらしく彼は食べていたものを突っ返させてから言う。
「来なくていい」
「え~、ひどいな~。僕はただ練習したいだけだよ?」
「どうせ人殺しの練習だろう?」
「ん~半分正解で半分不正解かな?セレナが稽古してるんでしょ?だったら力試ししたいんだよね~」
すると今まで黙って僕たちの話を傍観していたセレナが口を出す。
「ルスお兄様、私と力試しされるよりドフ達と力試しされたほうがいいかと思います」
とさらりと力試しの話をお断りされてしまうがそこで踏みとどまれないから今度こっそり練習場に行こうと思う。
そんなことを考えていると考えを読んだのかベリーが口を開く。
「ほどほどにしてくださいね」
僕はにっこりと笑って「わかってるよ」と言った。
もちろんわかってるよ、手加減しなければいいんでしょ?
最近セレナは私とお茶をする時間が減ってしまいました。
すこし寂しさを感じながらもカップに口をつけます。
目の前に座っていたお母様は微笑みながら「セレナちゃんがいないのが悲しいのかしら?」と言ってくる。
「...そうですね、少し寂しいです」
「ではまた今度お茶に誘ってみましょうか?」
お母様はいいことを思いついたという顔でそう言った。
確かにお茶のお誘いはお母様から言っていただいたほうが効果的かもしれない。
ただし、その場合絶対お母様はお父様にそのことを話すのでお父様が拗ねた時のフォローをしなければいけないのでそこも考えなければいけない。
最近取り寄せたマカロンを口に入れながら考えを巡らせた。
どうすれば彼女は一緒にお茶をしてくれるだろうか、と考えていると偶然かセレナが珍しく庭の奥のほうから現れた。
最近外に出ていると報告を受けていたが本当なようだ。
執事と従者を後ろにつけた彼女はもう10歳を超えたご令嬢のように見えるがこれでまだ5歳なのが驚きだ。
「ベリーお兄様、お母様も。お茶をしているのですか?...もしよければ私も参加しても?」
「ええ、もちろんいいわよ。さあ、こちらにいらっしゃい。お話しましょ」
お母様はそう言って席をすすめた。
その後は久しぶりに3人でお茶を楽しんだ。
途中でディオお兄様や、面倒な三男のルスお兄様が来たりして結局お父様とジュリお兄様以外の家族全員でお茶をすることになったのですがそれもまた楽しかったですね。
セレナの兄、4人はそれぞれセレナに思うことはあるらしいが一切彼女の婚約者の話が出ないのはただ思い出せないだけか、それとも...
第3章コンプリート率:12/12 コンプリート!第3章は終了です。
総合コンプリート率:45/331




