27話『婚約者は変わり者』
今日はいつもの来客を迎えるのとは違っていつもより豪華にサロンが飾られている。
どこからか出したのか高そうなツボには園庭に咲いている春の花が綺麗に活けてある。
私はメイドたちに着せ替え人形にされた後にここのサロンに連れてこられてソファーに座らせられた。
とりあえず目の前にある紅茶に口を付けながら気づかれないように周りを見回した。
慌ただしく出たり入ったりする公爵家の使用人を見ながらもう一口紅茶を口に含む。
そんな光景をのんびりと眺めていると今にも国を滅ぼしそうなお父様がやってきた。
「セレナ、今から来るのは婚約者(仮)だ。もしお前が嫌と言うならすぐに婚約破棄...いや、国外追放しよう」
いくらこの家に王家の血筋が流れているからって王族を国外追放はないだろうと心の中でつぶやく。
その心の声に反して私はお父様に向かって笑顔を向けた。
「お父様、貴族は婚約して、いずれ結婚する。それが私達きにとって血筋を絶やさない、それが貴族の暗黙のルールであるのです。ですから、私もそのルールに則ろうと思います」
「ああ...嫌になったらすぐに言うと言い。すぐに王家を少し脅...交渉しよう」
少し脅すと聞こえた気がしないでもないが、私的にはどっちでもいいので「わかりました、お父様」と言っておいた。
そして数分後に到着した私の婚約者らしい人、この国の第一王子のアーサー・ティアドラがやってきた。
彼は私を一瞥した後に無邪気な笑顔を浮かべて私の手を取った。
「お前が私の婚約者のセレナリール・ヴァルトキアか?話には聞いていたが、美しい顔をしているな!」
まあ、元気そうですこと...と普通の令嬢は思うのかもしれない。
私は少し強引につかまれた手を振り払って、ドレスの端を少しつかんで礼を取りながらにっこりと微笑んで見せた。
「お初にお目にかかります、殿下。今日はよろしくお願いたします」
彼は眉を寄せながら少し頬を膨らませた。
「随分と他人行儀なんだな、今は公式の場じゃないんだからもっと気楽に話せ。あと、俺のことをアーサーと呼ぶことを許可する」
「わかりました、では私のことはセレナと」
「ああ、もちろんだ!実は昨日な...」
それから何気ない会話を始めたアーサーに適当にうなずきながらその日は終わりを迎えた。
婚約者を見送るために玄関ホールへと向かう。
もちろん王子が帰ると言うので一家総出のお見送りをした。
「じゃあまたな!」
最後まで実年齢に合った話し方をしていたアーサーは扉の向こう側へと消えていった。
完全に扉が閉まって私のお勤めは終わったので後ろに並んでいる家族のほうを見るとお母様以外怖い顔をしていた。
男性陣の顔は般若の顔とまではいかないがどこからか黒いオーラが湧き出ているように見える。
いや、たぶん本当に魔力が湧き出ているのだろう。
私は彼らに向かって笑いながら言う。
「さあ、夕食を食べましょう?私お腹が空いてしまいました」
約:どこぞの王子がお菓子を食べる隙すら与えてくれなかったからお腹が空いたよ。
一番最初に気を取り直したお父様が「...そうだな、夕食にしよう」と言ってぞろぞろと兄弟達も一緒に連れていく。
残されたお母様は私の顔を見ながら言う。
「セレナちゃん、楽しそうね」
のんびりとした口調でそう言ったお母様に私は心からの笑みを向けた。
「そうですね、楽しいですよ」
数秒間の沈黙が玄関ホールをとりまく。
「さて、ご飯を食べに行きましょうか」
「そうですね、お母様」
私達はまるでさっきの会話がなかったかのように食堂へと向かった。
目の前を歩くお母様は私がずっと笑っていることを知らない。
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