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19.5話『ある従者のお話』

※ドフィアドル視点です。

俺は小さい離宮に閉じ込められて育った。





ウルツライト帝国の愚かな王の弟、それが俺の父親だ。

それが父親と言うだけで吐き気がする。



俺の父親は母親を使い捨ての女として利用した。

そして運悪くか、偶然にも母親のお腹には俺が命を宿してしまった。



母親は周りから虐げられて生きてきて、誰も彼女に目を向けなかった。




そして、俺は生まれた。




俺は完全なる純潔のエルフとしてこの世に誕生してしまった。

本当は誕生すべきでないのに、望まれたわけではないのに、生まれてしまった。





そこから母親の運命の歯車は狂っていった。




いや、もうすでにあの男に会った時から狂っていたのかもしれない。





本当ならば純潔エルフの、それも王弟殿下の息子となればこの国を挙げての祝いがされるはずだが、それももちろん存在しない。

祝いも一切なく、さらには俺が大きくなっても父親のあいつはいつになっても離宮に顔を出さなかった。



母親はいつも俺に隠れて泣いていた。



「ごめんなさい、ごめんなさい...」



そう何度も謝る母親は毎日のようにストレスに耐える体が、ついに耐えられなくなり病気で倒れてしまった。

そしてあっけなく命を落としてしまって、もうすでに彼女は土の中だ。





俺には兄弟はいない、しかし、周りに愛されて育った異母兄弟ならいた。

彼らは俺の存在など露ほど知らず、これからもその存在を知ることはないだろう。

そして、このまま知らずのうちに俺が生まれて知らずのうちに俺が死んでいくのをまったく耳にもしない彼らはどれほど幸せなのだろうか。



同じ瞳の色をした異母兄弟と俺の決定的な差は、周りから愛されて育ったか育ってないか、ただそれだけだった。







俺は毎日のように王城に住む異母兄弟の話を永遠と、頼んでもいないのに家庭教師から毎日、毎日、嫌になるほど繰り返し聞かされた。





その時の俺にとっての場所はいつも見える白い壁に、ほとんど何もない部屋の中、静寂を保つこの宮、そう、ここは俺にとっての『世界』、つまりは『全て』だった。

周りでは世話をする人はいるが、皆が皆口を閉ざしてただ淡々と自分自身の仕事をするだけ、けっして話しかけたとしても誰も『答え』をくれなかった。



唯一喋るのは異母兄弟のことを永遠と語る家庭教師だけ、母親がいた頃も最初は笑っていたがその顔にはいつしか表情を映さなくなり、次第に口数も減って、そのまま儚くなった。





そんな誰も味方のいないこの離宮から俺を連れ出したのがある貴族だった。






そいつはただ殺し屋の人材が欲しいクソ野郎だったけれど俺は少なからず彼に救われた。

彼が悪人だろうとどうだろうと関係なかった、俺をあの『世界』から連れ出されたことに変わりはないから。



そして俺達、暗殺者が彼によって徐々に作られていった。

その中で俺はルーに出会った。



彼も元貴族で親にも、周りからも虐げられて生きてきたと言っていた。

そんな彼は俺にとっていまでも一番の理解者であり、同士である。



もちろんお嬢様の次に大事な存在だ、さすがにお嬢様の1番の座は渡せない。




俺を拾った貴族は暗殺者を自らの力で育てた、いつ国にバレても良いように、いや、元々はその貴族も暗殺者だったらしいのである程度の攻防策はあるらしい。







着々と数を増やしていった暗殺者は次第に姿を消していった。

俺達はいつ命を失っても仕方がない職業だからきっとそれがバレたのだろうと思っていた。




しかし、その考えはお嬢様に会ったことで変わった。





俺達が今まで仕事で扱ってきたのはくだらない、国のためにならない人達の暗殺だった。



しかし、俺達の最後の任務の内容は『【◇】』というものだった。



最初に暗殺の書類を見た時は目を疑った。




今までの任務内容は『○○伯爵家当主の殺害』や、『○○男爵令嬢を貴族から外す』などの案件だったのだ。






とりあえずその紙を渡されて見た俺達は最終任務に向かうために部屋をあとにした。




暗殺者として育て上げられた身体能力の良さからか、俺達が出ていく前に貴族の彼は笑って言ったのが聞こえた。





「ーーーーーーーー」と。
















ここまで話し終えていつの間にかに下を向いて話していた顔を前に向けると彼女、お嬢様は真剣なまなざしでこっちを見ていた。

その金の瞳はどこか俺の心を見透かすような、何か未来を見ているような、そんな不思議な雰囲気を感じさせた。




彼女は俺の頬に手を当てて言う。



「ドフ、きっとそれは君にとって辛いものでも、嬉しいものでもあるんだろうね」



そう言いながら彼女はいつの間にか俺の目から流れ落ちていた涙をぬぐった。



「これからは泣きたいときは泣けばいい...でもねドフ、その分笑うのも大切だよ。君のソレはいつも『本当の笑顔』ではないだろう?」

















やはり彼女は人の心が読めるのかもしれない、とドフは思うのであった。

第2章コンプリート率:8/12

総合コンプリート率:29/331

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