17話『道に迷いました』
私は今道に迷っている。
遡ること数時間前、私はいつもより早く公爵家を抜け出した。
エルに魔法を教えてもらった時に彼女は「できるだけ実体験があったほうが上手くいくよ、手始めにそこらへんの魔物を倒すといいかもね」と言われたので言われたとおりに魔物を倒しに行こうとしたのだ。
公爵家の令嬢が魔物討伐している図はあまり美しくないので男装をしている、だから見た目の問題はないはずだ。
そして今日は王都の方の森に来ていたのだがここには情報阻害の魔法がかかっている森に来てしまったのだ。
現実に戻ってくるがその森に来て魔物討伐をしに来たはいいが、かなり奥まったところまで来てしまったらしく帰り道が分からないときた。
「さて、どうしようか」
とりあえずそう呟いてこれからどうするかを考える。
動かないことには状況は変わらないのでそこら辺の木に登ってみることにした。
木の上に来ても地平線のほうまで見えない、いや見えないように魔法がかけられている。
きっとここは王族あたり上部の人間の所有地なのだろう、それか犯罪者を入れるための森ともいえるかもしれない。
当てずっぽうに歩いても森を抜け出せる気がしないのでまた考えを巡らせる。
まだ阻害魔法を無効にする魔法を試したことは無いのでどうしようかと思っていると下のほうで誰かの気配を感じた。
安全そうな人だと直感で感じたのでスタっと地面に降りるとそこに思った通りに人間が立っていた。
黒髪に赤い目をした男、男と言うより男の子のほうが当てはまるだろうがその人は驚いたように私を見た。
...なるほど、魔法で髪の色は変えているけどたぶん彼は王族だろうね。年齢としては私と同じぐらいか1つ上あたりに見えるから第2王子っぽいね。
「お前...どこからやってきた...?」
彼は驚きながらも私にそう聞いた。
「さあ、どこだろうね?どこでもいいではないか...君は森の出口を知っているね?」
「いかにも怪しいな、どこから入ってきたんだ?ここには結界が張ってあるはずだぞ、そう簡単には入れる場所じゃない」
「そうだろうね、これで怪しくないって言ったら嘘になるからね。確か、どこから入ってきたかと言っていたね?私は普通に森の入り口から入ってきたんだよ。それ以外に理由はないからこれ以上聞いても意味がないだろう?」
「...お前は誰だ?何者だ?普通の人間なら入ってこれないぞ...まさか、いやなんでもない」
彼は完全に私が何者かがわからないらしい。
まあそれもそうだ、いつもと姿を変えているしどこからどう見ても公爵家の人間には見えないはずだ。
まずまず私はほとんど公爵家から外に出ない設定になっているのでパーティーにはまだ参加していない私を王家も見たことはないだろう。
「そうだね...強いて言えば、私はセイラだよ。君は?」
「セイラ?聞いたことない名前だ、どういう字を書くんだ?...その前に俺の自己紹介が先か、俺はアスだ」
いや、それ名前の下のほうにあるのをそのまま言っただけだよね?だって君が第2王子だとしたら君の名前は...【◇】...なんだから。
「そうか、アスね...覚えたよ。ルテ語で聖書の『聖』に麗美の『麗』で『聖麗』だよ、覚えておいてくれ。だって、いつかまた会うかもしれないだろう?」
「なるほど、聖麗...か、セイレイとも読めるな。ルテ語というとイヨ王国の者なのか?いや、お前の顔立ち的にはこの国だな...わかった、覚えておこう。それで、お前は道に迷っているのか?」
「実はそうなんだ、珍しく道に迷ってしまってね。自分で出口を見つけるのはめんどくさいからここに人が来るのを待っていたんだよ」
「...待っていたのは嘘だろ。ここに来るのは一部の者しかいないし、魔物以外何もいない...ってお前、いや、聖麗は魔物を探しに来たのか?!」
「ご名答だよ、魔物を探しに来たというか倒しに来たのさ。でもだいぶ狩ったからね、目的は果たしたという感じかな?」
「なるほどな...簡単に納得はできないが、今回は見逃そう。こっちにこい、出口に案内してやる」
ご丁寧に彼は出口まで案内してくれるらしい。
森の出口に着くと彼は後ろを振り返った。
「俺が案内するのはここまでだ」
「そうか、案内してくれてありがとう。では...また、会おう」
私はそこでやっと使えるようになった魔法を使って家まで転移した。
その場に残された黒髪だった俺は彼女が消えると髪をブロンドに戻した。
「また、会おう...か。彼は...いや、彼女は貴族なのだろうな。...不思議なやつだったな」
俺はそう零すと目的の場所に転移した。
目の前には机でひたすら書類を片付ける兄がいた。
「...アル、帰ってきたんだね。遅かったじゃないか、今日は散歩が随分と長かったが何かあったのかい?」
「まあちょっとな...野生のライオンを見つけただけだ」
俺がそう言うと兄は「ふ~ん」と言ったが数秒後に立ち上がった。
「野生のライオンなんてここにはいないだろう?...いったいお前は誰に会ったんだ?」
「だから野生のライオンだって言っただろ、それ以外の特徴はとくにつかめなかったんだよ」
「...なるほど、相手のほうが上手だったってことだね。それは残念、私も会ってみたかったよ」
「あいつは「また、会おう」って言ってたからそのうちまた現れるだろう。その時に会えるぞ?」
「なるほど、貴族の誰かということだね。じゃあアル、君の変装の意味がなかったってことだね」
「...それで、お前は終わったのか?仕事とやらは」
「...アル、手伝ってくれてもいいんだよ?君には手伝えるでしょ?」
「残念ながら俺には慈悲の心がないからな、無理だな」
俺はそう言いながら部屋を出る。
急に部屋から俺が出てきたので外で待機している衛兵が驚いていたが最近は慣れ始めたのか何も言ってこない。
俺は勢いよく扉を閉めた。
「ちょっと?!アル?!私の話相手...」
後ろから何か聞こえた気がするが気にしないことにした。
俺はさっさと自室に戻ってソファーに座る。
「...聖麗、また会えるのを楽しみにしているぞ」
彼はさっきの出来事を思い出しながら笑った。
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