105.5話『今日も友人は走る』
久しぶりの投稿です。いつも見てくださる読者様には本当に申し訳ありませんが、筆者の都合により次回の更新は来週になってしまいます。気長にお待ちいただけると幸いです。
※ヨル視点です。
僕は明日の卒業式のために走り回る友人を見て懐かしさを感じていた。
彼女は今も昔も『今』を生きている。
一見お茶らけているように見えるが、どんなにくだらないにも真面目で、いつも楽しそうに笑っているのがセレナ...いや、『聖麗』だった。
いつも咲を廊下で見つけると人と喋っていたのも忘れて一目散に咲の所に走っていって挨拶をする。
『咲!元気になったみたいだね、良かったよ』
突然突進してきた聖麗に驚きながらも咲は笑って答える。
『久しぶり、聖麗...って言っても私そんなに休んでない気がするんだけど?』
『そうだね、君は約4日と10時間34分ぐらい会ってなかったね』
『怖っ...性格すぎるんじゃないかな?』
『これぐらいは誰だってわかるよ』
『...いや、普通はできないよ』
先は苦笑交じりにそう言う。
聖麗はただ咲が元気になったことに笑った。
少しアブナイ会話をしていた気もするが、僕は気にしないことにしていた。
最初の頃はただただ邪魔な存在だとしか思っていなかったけれど、いつしか3人で過ごす時間が楽しみに変わっていた。
もうそんな日々はとっくの昔に葬り去ったはずだった。
でも、僕にとって再び楽しい時間が今訪れているのかもしれない。
新しくこの世界に生を受けたとき、僕が初めてこの世界を目にした時...
何処かもわからない天井を見上げて咲が一時期はまっていた『異世界転生』を思い出した。
ああ、僕は『違う世界』に来てしまったんだ。
そう気付いたのは生まれてから割とすぐの時だった。
いきなり違う世界に来た悲しみはあれど、まったく涙は流れなかった。
体が次第に元の世界の時のように大人へと近づいていることを感じながら僕は無心で過ごしていた。
顔に張り付けたものは長年培ってきた『偽りの仮面』で、本当に『自分』にはならなかった...いや、なれなかった。
全て目に見えるものに興味をもてなくて、正直言って詰まらなかった。
いや、『辛かった』のかもしれない。
この世界に降り立った時、僕には世界が白黒に見えていた。
しかし、今はどうだろうか、全てが楽しそうで、これからの未来を僕は望んでいる。
聖麗...いや、セレナが現れたことによって元の世界であった『あたりまえ』が戻ってきたように感じる。
たまに余計なことを言ってくれるが、それは仕方がないと思うしかないだろう。
僕は自然と口元を緩めた。
「ヨル様?どうかされたのですか?」
僕の表情の変化に気付いたレファが声をかけてくる。
「そうだね、楽しいなって思ったんだよ」
僕がそういうとレファは自分のことのように嬉しそうにした。
ああ、本当に幸せだな...
第8章コンプリート率:43/45
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