104.5話『悩む王妃』
※???視点です。
季節が冬に近づいてきたので部屋の中が少しひんやりしている。
静かな部屋にはただ柱時計の音が部屋に響いている。
カウチに座って目を閉じていたアイリスは目を開けた。
誰も来ないこの部屋はいつも寂しさが残っている。
しかし、彼女はそれを知ってもなお悲し気に視線を下に落とした。
しばらく下を見ていた彼女の瞳の端から一筋の涙が零れ落ちる。
ポタリ、ポタリと次第に数を増す涙は止まることを知らないようで、どんどん溢れ出てくる。
彼女はやっと自分が泣いていることに気が付いたようで袖で涙をぬぐった。
さっと濡らした布に彼女が手をかざして呪文を唱えるとそこにあったはずの涙の跡は全く無くなった。
「いったい、私は何に泣いていたのかしら...」
彼女自身は知っているはずなのに、気付かないふりをする。
そうするしかなかったから、それが彼女が歩んできた道だから。
我慢を知らない王妃は、真実も知らない。
アイリスは止まってしまっていた実家への手紙の続きを書く。
『 お母様、お父様、お元気にしていますか?
私は相も変わらず幸せな日々を送っています。
昨日、実家から果物が届いたと聞いてすぐに美味しいタルトを料理人の方が作ってくださりました。
毎月のように私の好きな果物を送ってくださりありがとうございます。お礼には足りないかもしれませんが私からささやかな贈り物をお受け取りください。
アイリスティアドラ 』
彼女は昨日届いた白葡萄のことを思い出しながらサラサラと手紙で返事を書く。
そして最近王都で流行っている魔法具を同封して実家宛に郵便物を届けるように使用人に言ってからまた一人この部屋に帰ってきた。
彼女は寝室へと繋がっている扉へと手をかけた。
扉は当たり前に開き、彼女を部屋へと導いた。
大きなベッドの上にボスンッという音と共にアイリスはベッドに飛び込んだ。
隣にいるはずのあの人は仕事でいない。
冷たさが伝わるシーツを無意識に掴みながらアイリスは眠りについた。
第8章コンプリート率:41/45
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