101.5話『相談』
※アルティアス視点です。
「...ということがあったんだよ」
いつも通り仕事を手伝いに来たアーサーは勝手に人の部屋のカウチに座ってくつろいでいる。
そして、座ってから楽しそうに平民として暮らしているということをかれこれ30分ほど聞かされていた。
早くセレナ、手伝いに来てくれないか...こいつのテンションについていけないのだが。
半ばアーサーの話を止めるのを諦めた俺は返事もせずに机に向かっていたが、どうやら話がやっと終わったらしい。
「そうか」
俺はそう答えながらも仕事を続けた。
アーサーから視線を感じるが無視をすることにした。
「ねえ、聞いてる?アル?」
アーサーは立ち上がって机の前までやってきた。
腕を組んでそれを机の上にのせて顔を近づけてきたのでさすがに俺は顔を上げた。
「それで、アーサー。お前の仕事は終わったのか?」
俺がそう言うとアーサーはスッと視線を横にずらした。
どうやらずっと話していて仕事をしていなかったらしい。
俺は目を細めて机に置いてあった書類の山を取ってそのまま渡す。
「これはアーサーがやっても大丈夫なやつだ」
そう言うとアーサーは口をとがらせた。
素直に書類を受け取ってから再びカウチに座った。
「まったく、私のことを何だと思っているんだ」
「『ただの文官』、自分でそう言っていただろう?」
「私は陛下に対してそう言っただけで、アルとは縁を切ったつもりはないよ?」
「知っている」
アーサーがあの時わざと父上に対してそう言ったのかは分かっている。
だからこそ俺との縁も切るつもりだったのかと思えば違うらしい。
「アル、君は私の弟に変わりないからね...例え目の色が違くても...何もかもが似てなくても」
アーサーは自分に言い聞かせるようにそう言った。
俺は黙ったままアーサーが続きを話すのを聞いている。
「...どうやらまた動いてるみたいだね、彼女」
きっと彼女とはセレナのことを言っているのだろう。
セレナはまた俺達に黙って何かをしでかそうとしているらしい。
「..今度は何をしでかすのだろうな?」
俺がそう言うとアーサーは肩をすくめた。
「さあ、分からないね。私にはまったく彼女の考えていることが分からないからね」
「...確かにな」
彼女は正式に俺の婚約者になったが、関わりが増えても彼女が考えてることはさっぱり分からなかった。
恐らくこれから先も分からないだろう。
「不思議な子だよね、セレナって」
アーサーがポツリと呟く。
俺はただ頷いた。
「これも『転生者』だからなのだろうか?」
「...うん、そうかもしれないね。アミラもたまに何考えているか分からないことがあるしね」
「よくわからないな」
「私達も転生してみればわかるのかもね」
「...どうだろうな、俺達には何回生まれ変わっても分からないかもしれない」
「まあ、確かにね。でも一応セレナって私達と『同じ血』が流れているよね?」
「確かに流れてはいるが、それは彼女も知っていることだろう」
「...言ってなくても分かってそうだからね」
「どこから情報を得ているんだか...俺にはさっぱりわからん」
アーサーに時間を食われるわけにはいかないので俺はそう言うと目線を机に戻した。
大分慣れてきた『王太子』としての仕事は大体2時間ほどで終わらせられるようになっていた。
確かにセレナが言っていた通り、俺のほうがこの仕事に向いていたのかもしれない。
アルティアスはそんなことを思いながらも、仕事を続けるのであった。
第8章コンプリート率:36/45
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