98話『王太子になった第2王子は』
※アルティアス視点です。
机の上に置かれた書類を見て思わずため息をつきたくなる。
山積みにされた『王太子の仕事』の量は思っていたよりも多かった。
たまに、兄のアーサーの仕事の手伝いをしていたが、彼はかなり俺に渡す量を減らしていたようだ。
思っていた数十倍は多い仕事の量を見て兄は優秀な人だったのだと悟ったがもう遅い。
兄は平民になり、『見知らぬ文官』として俺の補佐につく家臣へとなったため、王族だけが処理しなければならない書類は任せることができない。
「...兄上を平民にしたのは間違っていたんじゃないか?」
思わずポロリと零れた独り言は誰にも拾われることは無かった。
しかし、呟いて数秒後に俺の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
入室の許可を出すと、扉の向こう側から良い笑顔でやってきたセレナが立っていた。
扉が閉まった瞬間に彼女は口を開いた。
「随分と大変そうだから、手伝いに来たよ」
俺は今猫の手も借りたいほど人員が欲しかったので、素直に返事をすることにした。
「...助かる」
セレナは俺の机の上にあった書類を半分ほど持ってカウチに座って書類整理を始めた。
普段から公爵家の時期当主になると言われているベリーチェンドの書類の手伝いをしているだけあって、手際が人外だ。
俺がやっと机の上に会った書類を片付ける頃には暇になったためカウチに座りながら優雅にお茶を始めていた婚約者がいた。
「...いつ終わってたんだ...」
少し恨めし気な目をしながらセレナを見ると彼女は何ともないように言った。
「1時間ほど前かな」
彼女は分厚い本をペラペラとめくりながら答える。
読むペースが尋常じゃないほど速いが、周りの声はしっかりと聞こえているらしい。
「...何を読んでいるんだ?」
これ以上仕事のことを追求してもきりがないということが分かったので、俺は話題を変えた。
「この本は『商業運営において大切なこと』という本だよ」
どうやら商業について興味があるらしい。
「商業でも始めるのか?」
未だにペラペラとページをめくりながら、彼女はすぐに答える。
「一応最近始めたんだけどね、前世でもやっていたんだよ。今のところの利益は100ゴールドぐらいかな」
いや、もうすでに始めていたらしい。
しかも、かなり多い利益を出しているようだ。
「税金は出しているのか?」
彼女は本を閉じてこちらを向いた。
「税金はしっかりと出しているよ、利益の2割は出しているからね」
税金のこともしっかりと調べて商業運営をしているらしい。
こいつは本当に公爵令嬢なのだろうかと思うときがあるが、前世があるからこそこういう考えになるのだろうか。
「...もしかして、もう読み終わったのか?」
俺がそう言うと彼女は不思議そうな顔をしてから答える。
「1日もあれば読み終わるだろう?ゆっくり読んでいたからかなり時間がかかってしまったけどね」
どうやら俺の基準はセレナに通用しないらしい。
まあ、そのおかげと言うべきか婚約者が優秀なおかげで俺の代の国は安泰だと言い切れるだろう。
父上が何度も言っていた意味が分かった気がする。
『アルティアス、いいな?絶対にセレナを手放すんじゃないぞ?』
真剣な顔をしながら言う父上に笑いそうになったが何とか耐えるのに必死だった覚えがある。
まあ、俺は望んでセレナを婚約者にしたから手放す気など、一切ないが...
父上は俺の気持ちを知らなくて当たり前だ、
俺達息子と全く関わってこなかったんだからな、これから知っていけばいい。
俺は望んだ未来といらない未来を一気に手にしてしまったようだ。
第8章コンプリート率:32/45
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