97.5話『やっと帰ってきた我が家』
※アミラ視点です。
朝日が差し込む部屋で私はゆっくりと目を覚ます。
こんなにゆっくり目を覚ましたのはいつぶりだろうか。
私は平民へとなってから今まで付けられていた枷が外れて、自由になった。
誰にも咎められることがないこの生活が私にとっては幸せだ。
ずっとこんな生活を望んでいたのだろうか。
私は今、自由を掴み取って、何年もできなかった羽を伸ばすことができた。
私が今この世にいれるのはセレナのおかげだ。
彼女は私と同じ『転生者』だったらしい、前世の記憶もしっかりとしていて、私が死んだ数年後に彼女も病気で亡くなってこの世界に来たのだとか。
今まで私は何を求めていたのだろうか。
両親から愛されることを望んでいたのだろうか。
それとも、『私自身』を誰かに見つけてほしかったのだろうか。
いや、過去のことはどうでもいい。
私が見ているのは『今』なのだから、私は『現在』を見るべきだ。
過去にどんなことがあろうとも、私は今の『現実』を見ていこうとおもう。
どんなに背けたいことがあったとしても、私がここからいなくなるその日まで、私は『私自身』を大切にして生きて行こう。
『なんで、私が自由になりたかったって分かったの?』
この前呼ばれたお茶会で私はセレナにそう聞いた。
彼女はクスリと笑ってからこう言った。
『画面の向こう側の君の笑顔が本当の笑顔に見えなかったから、かな?私は自由が好きなんだよ、私がそうだからというのもあるね』
私はその時「ああ、私は彼女のことを知っている」と思った。
私が生涯を閉ざした病院にわざわざ友人に花を持ってきてお見舞いに来た『あの人』だ、と。
確信した私はセレナに聞いてみることにした。
『ねえ、貴方の前世の名前は...?』
彼女はカップに口を付けてから遠くの景色を見ながら口を開いた。
『朔谷 聖麗だよ』
やっぱり、彼女だったんだ。
私は彼女に向かって笑った。
『やっぱり、貴方だったのね。あの時、花束を友人に届けに来た人は』
彼女は私の方を見ながら真剣な顔になった。
『君は...もしかして、朝代 彩美なのかい?』
私は前世の自分の本名を言われて驚いた。
『...どうして知っているの?』
セレナはカップをソーサーに戻した。
『ちょうど目に入ったんだよ、看護師に注意されて帰る時にね。それで何となくその先にいる人は、君な気がしていたんだけど合っていたんだね』
どうやら彼女の勘は普通の人よりも優れているらしい。
私は自然の口から笑みが零れた。
『アミラ、その笑顔を忘れないようにね』
彼女は安心したような顔をしながらそう言った。
セレナといると自然と本音が出てしまう。
私は演技が得意なはずなのにな...なんでなんだろ。
私は一人心の中でそう思いながらも『そうだね』と言った。
「ねえ、アーサー起きて!今日は冒険者ギルドに行ってみるんでしょ?」
私は寝ているアーサーをゆすり起こした。
一緒に暮らしていて気付いたけど、彼は朝が苦手だ。
「すまない....今起きる」
そう言ってベッドから起き上がったアーサーは目をこすった。
その仕草が子供らしく可愛く見えて思わず笑ってしまう。
ちらりとアーサーは私のほうを見た。
彼の目には『私自身』が映っている。
「アーサーって朝苦手でしょ?」
「....それがなにか?」
思いっきり顔をそらす彼を見て私はまたクスリと笑った。
これからも、こんな幸せな日々を送っていこう。
私はそう心に決めた。
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