96話『久しぶりの平穏』
こんなに穏やかな日常はいつぶりだろうか。
正直言ってとても詰まらない。
アーサー達の一件が片付き、私の婚約者がアーサーからアルに変わった。
アミラとアーサーは私が提案した通り平民へとなり、今では王都で生活をしているようだ。
たまにアミラから手紙が公爵家宛に届けられるが、その手紙の内容は毎回面白いことばかり書いてある。
この前、劇団の人にスカウトされそうになったとか、アーサーが料理作りに目覚めてお店を開こうと思っているとか。
今日は外で雪が降っている。
そこまで多く降っていないためとても周りは静かだ。
私は温かい紅茶が入ったカップを手に取って一口紅茶を含む。
「もうそろそろこの世界に来て14年が経つのか」
ぽろりと口から零れた言葉は誰にも聞かれずに部屋に響く。
「愛夢...君は今、元気にしているのかい?」
私は前世弟だった愛夢の名前を呼んだ。
すると、締め切った部屋の中で風が一瞬吹く。
吹いた方向を見るとそこには私の部屋に置いてある鏡が置いてあった。
私は立ち上がってその鏡の前に立った。
ブロンドの髪に金色の目をした『今世の私』が立っていた。
無意識のうちに鏡に手を延ばすと鏡にぶつかって向こう側に映る私の手と手が重なった。
「...もしかしたら、この鏡の向こう側にお前はいるのかもしれないね」
向こう側に弟は生きてる、何となくそんな気がしたのだ。
私は鏡から手を離して元いた椅子に腰を下ろした。
深く腰を掛けてから目を閉じる。
いままで、いろんなことがあった。
多くの兄弟と出会って、良い従者と執事に出会って、前世の親友に会って、多くの友人ができた。
いままでも、そしてこれからも私は『世界』を広げていきたい。
私は目を開いて誰もいない部屋を見渡した。
今日は兄弟はそれぞれ用事があるらしく、屋敷にいないし、ドフとティールは情報調達中、精霊たちは新年会を開くため招待状を直々に渡しに行っている。
この家の使用人は気配を消すのが上手く、今日実際に目にした使用人は数人ほどだ。
きっと婚約破棄騒動で気を使ってくれているのだろう。
「私は休むとするかな」
セレナはそう言ってまた目を閉じた。
外ではまだゆっくりと雪が降っている。
今日は良い夢が見れそうだ。
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