90話『さすがお姉様ですね、その調子です』
※ノースアルト視点です。
最近変な噂が出回っているらしいというのは聞いたが、きっとあの人の作戦の一つなのだろうと僕は思っている。
あの人はきっと終わらせたいのだろう。
しかし、それにセレナお姉様を巻き込むのは辞めてほしいと思う。
自爆するなら自分一人だけでも良かったのではないか、とも思うが僕があの人に言えることは何もない。
ルールのないこの世界は時に残酷で、時に幸せを運ぶ。
そんな世界で自分の望む未来を掴むのはほんの一握りしかいないだろう。
行動は意志がなければ動くことすらできないのだから、だから何もしていない僕はあの人に何も言うことができない。
『早く終わらせてくださいね』
せめてでもと思って言った言葉にあの人は笑いながらこう言った。
『そうだね...彼女が気付けばすぐに終わるよ』
あの人が言っていた『彼女』というのはおそらくセレナお姉様のことだ。
セレナお姉様があの人の意図に気付いて行動すればきっとこの話は終わるのだろう。
『...あなたは、狡い人なんですね』
冷めた目で僕はそう言うとあの人は笑みを深めた。
『本当に...いい家族だね』
『...そうですね』
僕は窓の外を見ながら言う。
後ろで一瞬空気が変わったのが分かったが、すぐに元に戻った。
すると、あの人が次第に遠くに歩いて行く音が聞こえた。
僕は音が聞こえなくなるまで窓の外を眺めた。
後ろを振り返るともうそこには誰もいなかった。
最初はふざけてやっているのかと思っていた。
しかし、あの人には最初から目的とすることがあったと途中で気付いた。
きっと、セレナお姉様は既に気付いているだろう。
お姉様にはこの話に終止符を打つ権利がある。
だからあの人は最後にお姉様に『終わり』を任せたのだろう。
ボーっとしたままこの前のことを考えていると目の前でお茶を飲んでいるセレナお姉様が口を開いた。
「心配しなくても、大丈夫よ」
全てを見透かすような金色の瞳が僕のほうを見る。
僕は諦めたようにふっと口端を上げた。
「ええ、知っています...信じていますから」
一口紅茶を含んでからお姉様は花開くように微笑んだ。
「楽しみね」
その笑顔はいつもの笑顔よりも心から笑って楽しそうにしているように僕には見えた。
ゆったりとした時間が今日も流れていく。
「セレナ~お茶お代わり!」
ルスお兄様がセレナお姉様にお茶のおかわりを頼む。
するといつものようにディオお兄様がルスお兄様を小突いて言う。
「自分でやれ」
「ええ~いいじゃん、僕からティーポットが遠いんだよ~。あ、じゃあベリーがとってよ!」
「...お自分で取られたらどうですか?」
ニッコリと笑いながらベリーお兄様がルスお兄様の頼みをバッサリと断る。
ルスお兄様は諦めたように席を立ちあがろうとしたが、その前にセレナお姉様がふふっと笑いながらルスお兄様が差し出していたカップを取って紅茶を丁寧な手つきで注いだ。
「私がしますよ、ルスお兄様。今度からティーポットの数を増やしておきますね」
「それ名案だね!ティーポットをもう一個こっちに置けばいいってことだね」
今日も穏やかなティータイムが流れていく。
いつものように兄弟達と楽しく会話をしながらお茶をしてゆったりと過ごす、この時間が僕は好きだ。
これからも、これから先の未来もこうして7人で仲良く過ごせることを願いながら僕は目を閉じた。
第8章コンプリート率:23/45
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