82.5話『成長し続ける弟子』
※シャンさん視点です。
人気のない森に転移してきた私は昔のことを思い出していた。
突然私の家に現れた彼女は開口一番にこう言った。
『師匠にしてもらえないだろうか』
どう見ても貴族の令嬢なのに、珍しい喋り方をする子だと思った。
だから、何故私の弟子になりたいのか聞いた。
『...そうだね、なぜ私の弟子になりたいんだい?』
彼女はすぐにこう答えた。
『貴方の研究は楽しそうだからね、一緒にいれば面白いと思ったんだよ』
私の研究が楽しそうだと言ったのは彼女が初めてだった。
今までほとんど一人で研究を続けてきた私は人とあまり関わったことがなかったから彼女に興味が出た。
『私ではなくてもいいんじゃないかな?』
『いや、貴方がいいんだ』
なぜこの子供は私の弟子にこだわるのだろうか、と疑問に思った。
最初は断ろうと思って素っ気ない回答をした。
『...そうかい。それで、私が断ったらどうするつもりなのかな?』
『何度もここに通うだけだろうね、私は一度決めたことは突き通す性なんだ』
この時の私は未来で彼女を弟子になるなんて思ってもいなかっただろう。
『なるほどな...わかった、ではまた来ると良いよ』
その日から何度も何度も飽きずに彼女は私の家に勝手にやってきた。
毎日のようにやってくるので次第に私は慣れてきて彼女にお茶を出すようになった。
そして1年が経ったある日、私は彼女を弟子にしてもいいのではないか、と思い彼女を弟子にした。
それからは今まで以上に研究もはかどって、今まで未知の領域だったものが解決されたりもした。
彼女の同年代友人や、彼女の専属執事や従者などのいろんな人に出会った。
今まで人間不信になっていたところも大分良くなった。
彼女の婚約者は少し心配なところがあるが、きっと私がいないうちに解決しているだろう。
セレナはきっともうそろそろ行動に移している頃だろう。
あのドフィアドルとかいう従者は恐らく私の遠縁にあたる子供だろう。
目の色が一緒だし、割と考え方も似通っていたから間違いないはずだ。
しかし、何故彼がセレナの所にいるのかは分からない。
私は遠く昔に王位継承権を自分で取りやめて国を出て旅に出たのだ。
普通の王族であれば王宮にこもって何も知らずに無知のまま過ごす王子も多いだろうに、彼にはその典型的な王族の無知さを知らないかのように多くの知識を持っていた。
あれほどの知識量とその知識をしまい込める能力があるのならば皇帝にでもなれただろうに、何故ならなかったのだろうか。
「まあ、これから確かめに行けば分かるか」
私は一人そう零し、森の中を歩く。
ここはどこの国にも所属しない森の中、ここに居るのは自然の動物たちだけだ。
「さて、最初はどこに行こうか」
私はこれから始まる旅と帰ってからする土産話のことを考えながら口の端を上げた。
第8章コンプリート率:14/45
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