82話『師匠、旅に出る』
「シャンさんはいつ頃帰ってくるつもりなんだい?」
私は今から旅に出る師匠にそう聞いた。
「そうだね...いつかは分からない、数年で帰ってくるかもしれないし、数十年、数百年かかるかもしれない。旅なんてそんなものだよ」
空間魔法が使われた革製のリュックにありったけの書物を詰めながら彼はそう言った。
私はそのリュックに無断で食べ物を入れながらまた質問をする。
「...探すのかい?『あの帝国』を」
シャンさんは笑いながら答える。
「さてな、私にはわからないさ。人魚の国でも、獣人の国でも、天族の国でも、魔族の国でも、どこに行っても私は研究をするだけだよ」
続けて彼は口を開く。
「それで?この大量の食糧はなにかな?」
私は呆れた顔で彼を見ながら答える。
「シャンさん、君は理解していないようだが、食べ物を持って行かずしてどうやって生きていくんだい?」
彼は不思議そうな顔をしながら答える。
「私は数年食べなくても死にはしないだろう?だから、必要ない」
どうやら食べなくても生きていけるらしい。
「栄養は取っておいたほうがいいよ、食べ物がだめなら注射器の方が良かったかな?」
彼は顔色を変えて私が持っていた注射器を奪い取った。
「辞めなさい、私は注射は嫌いだと言っただろう?...わかった、しっかりと食事はとろう」
私は笑いながら口を開く。
「ああ、そうしてくれ」
どうやら一通りの荷物がリュックに収納されたらしく、彼は立ち上がってリュックを背負った。
空間魔法でリュックの中を無限にしているから見た目は小さめでもかなりの量の書物や、薬草などが入っている。
「さて、もうそろそろ行くとするかな」
彼は何もなくなった部屋を見回しながらそう言った。
ついさっきまで薬草と書物の匂いが充満していた部屋はまるで最初から何もなかったかのように殺風景だ。
「セレナ」
彼はサファイアの目をこちらに向けて私の名前を呼ぶ。
「いつか帰ってくる。また会える日を楽しみにしているよ」
そう言いながら彼は笑った。
私は何も言わずに頷いて彼に手を振った。
シャンさんは転移魔法を展開して光の中に消えていった。
「さて、早く問題を解決させないとね」
誰もいなくなった部屋に私の声が響いた。
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