7.深淵聖女(ディープマリア)
小説初心者ですがよろしくお願いします。序章全7話構成を順次投稿、新章は序章よりも長めの1話構成で順次投稿いたします。更新遅めです。イラスト画像と共にご想像していただければ幸いです。
下部、キャラクター紹介追加しました。
意識が薄れゆく中、おぼろげな視界にとらえたのは幻獣の様であり、この世のものとは思えない程美しいと思った。狩人はニヤリと微かな笑みを浮かべる_____
_____実のところ、今の今まで信じ切れていなかったが… まさか本当だったとはな……
_____今後の戦世が愉しみだなヴァルフ。ただ残念なのは、その結末を見届けられないことか_____
「ミイルダさんんんっッッ!!!」
クオリア・オッドニッサが悲痛な叫び声を上げる。狩人は静かに息を引き取った。
「ねえ皆さんッッ、今、狩人さんがッッ…」
「メサリア… ねぇメサリアなのでしょう?? 聞いてますの!!?? ねぇってば!!! ううぅ……」
泣きじゃくりながらメサリアに狩人の死を伝えるクオリアを、アーサーがなだめに駆けつける。2人はそのまま岩場にしゃがみ込んだ。アーサーはかつてメサリアだったものへと視線を移す。
「姫… なのでござるか?? 本当に… まるでいつも読んでる小説の中の神話の登場人物のようでござる……」
「メサリアさんなのですか?! しかし、その姿はッ…!!」
「ヒッ… 魔人だったのかっ… 君も、あのグランゾーラと同じように!!」
セシルは戸惑い、キースはメサリアの姿に畏怖した。そしてメサリアの目から涙が流れ落ちるのを目の当たりにする…
「泣いている? のか? 魔人が…」
「当たり前だろう、キース!! 仲間の死を悲しまないヤツが何処にいる! アンタがまさしくそうだろうが。アイツは… メサリーなんだぞ。なぁそうだろう?? メサリア!!」
キースに対して、はたまた自分に対して、言い聞かせながら勇者ナハト・レイラルドは返事を求めた。目の前の宙に浮かぶ、先ほどまで幼馴染の姿をしていた美しき魔人へと叫んだ。
「俺は…私は…」
紅き魔人は言い淀んだ。そして、ゆっくりと言い放つ。
_____メサリア・ノア・ヴァルフはもういない_____
ナハトが力なく岩場に膝をついた。紅き魔人は眼を瞑りながら続ける。
「俺様が誰かなど…もう俺自身にもわからねぇよ……」
「もう人かどうかもわからねぇ…」
「だけど… 俺が今しなきゃいけねーことだけはわかってる。貴様をぶっ殺すことだ、グランゾーラ!」
紅き魔人は、未だに尻もちをついている黒き魔人グランゾーラを見下す。グランゾーラはようやく身を起こした。
「き、貴様が上位魔人だなど信じるものか。そもそも上位魔人など、我が知る限りこの数百年間誰一人として生まれていないっ!!」
「俺は一言も上位魔人であるなどと言っていないぞ? 貴様が言ったのではなかったか? その言い分では貴様は確信しているようではないか… 魔人としての血がそう貴様に告げるのだろう?」
_____この俺様が遥か上位の存在であることを_____
「ぐッ……………」
「魔人とは元来そういうものだ。魔の血の本能には抗えない」
「貴様…我ら魔人の身でありながら、人間側につくのか! それは魔王リディアス様への反逆だぞ?」
「何か勘違いしているようだな、グランゾーラ。俺様は元は人間だ。上位獣化魔法アニマフレアでこの姿をしているだけだぞ?」
「馬鹿なことを抜かすなぁ!! 人間如き分際で、そんな魔力を持ち得るわけがない。その姿は貴様本来のものだろうが!」
「直感だけは鋭いな。流石は魔人といったところか。で、魔王リディアスだったか? 反逆上等だ、下等悪魔の魔王に従属した覚えはないからな」
「貴様、魔王リディアス様を愚弄するか! どこの上位魔人か知らぬが… 我ら魔人の中で最も優れているとされるグラティオロス種の王リディアス様を超える存在など… 先代の魔王、上位魔人ウル・アルティオロス種の…」
そう言いかけて、グランゾーラは初めて自分の記憶の中にある伝説の上位魔人の特徴と、目の前の魔人の特徴が酷似していることに気づく。
「きさま… その紅き姿、ウル・アルティオロス種のハイデビルか? まさか、先代の子孫… いや、子孫にしては歳月を感じすぎる…」
「かかってこい、下級悪魔よ。人間の恐ろしさ、その身に刻んでやる」
「まだ人間と抜かすか、我を愚弄しやがってえええええええええ!!」
《ザシュッッッ!!》
《ぎゃああああああああああああああ゛あ゛!!!》
襲いかかったグランゾーラの片翼を、紅き魔人が瞬く間に切断した。
「今のは女騎士と狩人の分だ。長くいたぶるのは性に合わんからな、もう終わらせるぞ!」
「深淵なる黒炎よ、生者を憎みし終焉の炎よ、魂の輪廻まで焼き尽くせ!! 神位火炎魔法、エルブリア・ゾディエート!!!」
突如グランゾーラを中心とした空間が歪み、激しく燃え盛る黒炎とともに黒き魔人の肉体が中心部に圧縮されていく。
骨の拉げるとも、内臓の潰れるとも、肉体を焼き焦がすともとれるおぞましい音とともに、魔人グランゾーラは朽ちてゆく。
_____その魔法___ 先代の___ 魔王_ジュピタ__
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全てが終わり、静寂がおとずれる_____
巨大な穴の中腹で、一同は紅い髪の毛の魔人と化したメサリアの後ろ姿を眺めていた。メサリアはこちらを振り向こうとはしない。
「メサリー…」
ナハトが最初に言葉をかけた。
「メサリア!」「姫!」
続いてクオリアとアーサーが。
「先ほどはすみません、レイナの仇打ち、感謝します」
「助かりましたよ、メサリアさん。亡くなった2人の魂もこれで少しは報われる…」
キースとセシルが続き、漆黒のゼネスが一番後ろから力なく歩いてくる。
メサリアは変わり果てた姿のまま岩場に力なく腰を下ろした。皆が背後から駆け寄ってくる。
「さっきは否定してたけど、メサリアだよな!」「そうにきまってるじゃない!! お疲れ様、メサリア」「助かったでござるよ、姫!」
「あはは、こんな姿なのに、ナハっちも姉さんもゴザルも、私をメサリアと扱ってくれるんだね」
メサリアは両翼と角を縮めて、人間寄りの魔人の姿へなっていた。クオリアが堪らずといった具合にメサリアを背中から抱きしめる。
「あなたは私たちの仲間ですのよ」
メサリアも堪らずクオリアを抱きしめ返す。2人の瞳からは涙が溢れていた。
_____私、行かなきゃ_____
メサリアは立ち上がると翼を広げた。
「まだやることが残ってる」
「メサリー! ……戻ってくるよな?」「…いや、戻って来いよ? いつまでも待ってるからな、俺たちは」
ナハトが告げるとそこにいる誰もが頷いた。
「……………」
微かに微笑むと、メサリアは一度大きく羽ばたくと、瞬く間に天へと消えた。皆が分かっていた、彼女が王都の魔物をせん滅しに行ってくれたことを。
「フッ… あの姿、まるで伝説に謳われる因果法帝ジュピタリアスのようだな」
ゼネスが呟いた。
時は既に正午に差し掛かっていた。まだ王都は窮地にあるというのに、雲ひとつない青空が何事もなかったかの様に覗いている。
_____そして_____
_____メサリアは、戻って来なかった______
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[2年後 ツバイエルス王国 首都フルステッド]
_____拝啓。
ワタクシたちの親愛なるメサリーへ。お元気でしょうか。あの事件『グランゾーラ侵攻』からもう2年が経ちます。
ラナ王国は数十匹の魔物の襲来を受けきれずに崩壊、大勢の死傷者が出てしまいました。煌びやかな王都も今では死者の魂が漂う不浄の死都アルカナとなり果て、誰一人として近づきません。生き残ったラナ王国民は隣国ツバイエルスが受け入れ、国土も統合されました。
悲しいけれども、あなたが魔物を一掃してくれてなければ更に被害は酷かったはずよ。改めてお礼を述べさせてください_____
「おっ、クオリア嬢!! 準備は出来ましたか? アーサーとセシルが待ってますよ」
「ええ、あともう少しだけ掛かりますが、すぐにそちらへ向かうわ、キース」
_____なんでもあの事件で王国を襲来した魔物をやっつけたのは聖なる魔獣と言われてるそうよ。それ以上のことはわかってないみたい。だって、ワタクシたちそのことは誰にも話してないもの…
そうそう、ワタクシたち新たな仲間ができたのよ? あなたも知っているセシル・トル・ライデンとキース・フラウデルが加わって、今は4人チーム「真紅の剛雷」を名乗っているわ。
魔王軍のまだ見ぬ第一将と戦い、生き残ったチームとして少しだけ有名になっちゃったみたい。あなたが倒したのにね…
かつて夜光の祭典ギルドに所属していたチームも生き残りはほんの数名。私たち真紅の剛雷や、漆黒のゼネスさん、宿命の杯の生き残りの方々は今や「亡国の戦士たち」なんて呼ばれてますわ。
そうそう、4人なの。2人も抜けちゃったからね…あなたとナハトが。ナハトはあの後修行の旅に出て行ったわ。勇者としての自分を相当責めていたみたいよ… あなたがいなくなったことにも責任を感じていたみたい。
でも、ワタクシは信じていますわよ。いつか必ず、2人が戻ってくると… そのためにちゃんと席は空けて待ってるのですから!_____
「遅いから来てしまったでござるよ、お嬢!」
「来てしまいました、クオリアさん」
「あらあら、ごめんなさいね皆さん。今終わりますので…」
「これは… 魔法メッセージですか」
「あら、セシルさんは御存じなのね。今では乙女の嗜みのようなものなのに」
「ってことは私も乙女ですかね?」
《談笑》
_____ちゃんとわかってますのよ、風の噂で最近よく耳にしますもの。あなたがこちらの世界に戻ってきてらっしゃることくらいお見通しよ。流石はメサリアというかなんというか...
その秘めたる力は隠しきれないのね。今は帝国の近くにいらっしゃるようで、ツバイエルスにいる私たちとは距離があるけれども、いつかその時が来たら相まみえることを望んでおります。
二つ名持ちのクリスタル級冒険者「深淵のメサリア」さん…… いや、こちらで呼んだほうが良いかしらね……
__________深淵聖女さん__________
敬具_____
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「……………」
ふと立ち止まる。懐かしい風を感じた気がした。メサリアは秋空を仰ぐ。2年前の出来事で、秋がとても感慨深い季節となった。
彼女は旅する修道女、深淵のメサリア。人呼んで深淵聖女…
かつてのメサリアの面影を多少残しつつも、もはやその心構えは一流の冒険者。
彼女は再び歩き出す。様々な思いをその胸に…
_____メサリアの戦いはまだ始まったばかりである_____
[序章 深淵聖女(転生魔王は勇者ご一行) 終幕]
キャラクター紹介⑦ ミイルダ・ドイトル
ここまでご朗読ありがとうございます。
深淵聖女 ~転生魔王は勇者ご一行~ は実は、私の手がけるSF巨編「輪の啓星」シリーズの第2部「JUPITERIAS ~二人の真祖~」の序章部分に過ぎません。引き続きジュピタリアス ~二人の真祖~ 8話目から投稿しますのでご朗読していただけると幸いです。
序章と違って、1話が序章の約2倍の長さとなってます。読み応えはあると思います。
既に疑問に思っている方も多いと思いますが、何故キーワードにSFがあるのか、何故ハイファンタジーなのにSF巨編の一部なのか、それはそのうち分かるはずなので、頭の隅っこにSFという言葉を入れて楽しんでいただければと思います。