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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第三章 ~ハミルトンの魔女~
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57.逢魔が睦ぶ時 -閑話ー

序章と第一章の間の話です。

挿絵(By みてみん)


キャラクター紹介(30)セシル・トール・ライデン





57.逢魔おうまむつぶ時 -閑話ー




春が近づき、真っ白な『真珠しんじゅの世界』で有名なここ『ルヴィア雪山せつざん』にも険しい山道を行き交う人々が目立つようになってきた。ウルバニア皇国の聖なる都『聖都アリエス』と聖女のメッカである聖なる街『サンタ・リア』この二つの街を繋ぐ山道は、巡礼の道で最も有名な難所であった。


もちろん巡礼の道とはいえ、クラウディア教徒以外の一般人も通る道だ。今日は中々の晴天であり、この機に山を越えようとする人々がそれなりにはびこっていた。荷車を引く長毛種の馬は人と同じく防寒具を装備し、その鼻からは白い息が漏れ出している。



『まさか、また先輩と共にこの道を通ることができるだなんて、とても光栄なことだ』



両目を魔法陣の文様で刻まれた目隠し布で覆ったブロンド髪のアップスタイルの女魔法剣士は、隠れた羨望の眼差しを前を歩く2人組へと向ける。一人はプラチナブロンド長髪で、エメラルドの甲冑とバイザーを装備した女魔法剣士。その傍らを行くのは巨体でむき出しの部分が獣のような剛毛に包まれた大楯の獣人。


すれ違う人々は皆がただならぬ気配を感じ取って、はたまたその美しき精霊のような恰好に惹きつけられて、立ち止まったり振り返ったりして行く。中には有名人である2人の名を呟く者たちもいた。



「時の番人さま!?」「隣のは獣人さまだぞ!」



目隠し魔法剣士は前を行く先輩の腰に納められた3本の白銀のレイピアを見つめる。見つめるとは言っても目隠しをしているので、普段から使い慣れた魔力視界を通じてではあったが、その視界を以てしても惚れ惚れする程の美しさのレイピアであった。


そして彼女は自身の腰に巻き付けた柄と刀身の長い特殊な形のロングソードの柄を握った。柄の中心には4つのそれぞれ違う色の宝石がはめ込まれている。握りしめ慣れた柄の部分の紋様を、手を緩めて指でなぞった。



「…魔法剣オフィリアス。ユグドラの森に住むハイエルフの賢者オルフェンから譲り受けた聖遺物ですか。それを自在に扱えるのも貴女くらいですね、バスティヤード・クルセイダ」



気が付くと、前を歩く先輩が後ろの後輩へと視線を向けていた。慌てて剣から手を離し、先輩に向き合うバスティヤード。



「そ、そんな恐れ多いですよエスタリザ。私はただ、混血だからこの『魔剣』を扱えたに過ぎない」



バスティヤードは幾重にも重ね着した白いローブのフードをはだけて、自身の尖った耳を触った。



「私も混血だからな」



「何を仰る! エスタリザはヴァルキュリア人の純血でしょうに!」



先輩に異を唱える後輩。



「混血や純血と言っても、その定義は酷く曖昧なのだ。私は人間の中にも王族や種族という濃い血筋があり、それらが混ざれば混血としているが… 世間一般には人間と亜人、魔人、竜人との間の子を混血としているからな」



応えるエスタリザ。そしてバスティヤードは語り出した。



「まぁ… どのみちそれら人間の濃い血や混血の力こそが、今の人界を魔界の勢力から守っているのは確かでしょうね。平均的に屈強な力を持つ魔人と違って、我ら人間は突出した力を持つ者以外は平凡だ」


「魔人と最前線で戦い続けているディアステラ王家、あれも神聖剣に秀でた一族。貴殿のヴァルキュリア人も。あとは旧貴族のハイアストラルたち…ラヴァンクリプトのハーフドレイク。アリシアベルの剛族。我らがウルバニアにはアルティア族とリッフェルティア族というみずの精霊の眷属がいますし」


「あとは、生死不明ですが先日のラナ王国の王族、ハミルトン魔女家。旧貴族の崇める古代エリン王家の姫、そしてクルスオグナの亜人種たち」



「うっ………」



エリン王家の姫と口にした時に頭を抱える仕草をするエスタリザと獣人バルゴス。



「エスタリザ… 忘れろ。アレは…不運。…特殊」



「ああ、分かっているバルゴス。奴は世間に誤解されているだけだ。奴の実力ならば、正直魔王軍の幹部ともやり合えるだろうさ…」



雪の降り積もった山道の足元と向き合う2人。



「あの、すみません。大丈夫ですよ先輩方、アダマンタイト級の貴殿たちが恐れおののく存在なんて、人界に数人と居ないでしょうから! 断罪さまは本当に特殊なんですから!」



肩を落とす2人を後ろから励ますバスティヤード。



「意外だバスティヤード。貴女はネフィルロッツェと知り合いなのですか?」



再び後ろを振り返るエスタリザ。バイザーを持ち上げて紅い瞳を覗かせた。



「以前私がまだ冒険者だった頃、多数のグリンタールの奴らに囲まれたことがありまして。私が渋っていたところを、あの方が助けてくださったのです。なんでも紫色の稲妻を放出する球体をグリンタール全員の頭上に展開させて、感電による拘束で全員身動きが出来ずにおりました」



それを聞いて目を細めるエスタリザとバルゴス。バスティヤードは続けた。



「そのあと何故か興味津々に私のことを色々聞かれました。ただそれだけの関係です」



「バスティヤード。他人に興味を持たない彼女が貴女に話しかけたってことは、あなたの実力が相当なものだったからだ。彼女は基本強者にしか興味を持たない」



「私の実力? たかが知れてますよ!」



「謙遜は時には良くないこともある。もっと誇るが良い」



そう言うと、軽く微笑みながらエスタリザはバイザーを下ろして前を向いた。その目つきは鋭く変わる。



「まぁ、貴女がおっしゃる通り、我らアダマンタイト級冒険者にもプライドくらいあるのでな。そこらの冒険者や戦士たちに後れを取ることは早々にない。あの時のような無様な様は二度と御免だ」



「…異論ない」《フンッ》



バルゴスが荒い鼻息を吐いた。



時刻は午後3時をまわり、空が夕暮れの気配を漂わせる。西日が山間から差し込み、その陽光は茜色を帯びていた。山の陰影が濃くなり、山道はより一層足元に注意が必要となる。周りには人はおらず、閑散としていた。


少し開けた場所に出ると夕陽が山道の先を照らし、先の山の暗がりから1人の登山者が現れた。



「ん? なんだ…?」



暫く歩いてからエスタリザが向かいからやって来る者に違和感を覚える。白い聖女の巡礼服を着崩しており、白いフードから覗かせる長い髪は、夕陽に照らされて妖艶な紅色に染まっていた。まつ毛の長いシャープな目は紅色でその者の表情は虚ろだ。


聖女独特の神聖なる佇まいや慎みとは真逆の、何か吸い込まれるような大きなどす黒さがエスタリザに襲い掛かる。



「………」(ハァッハァッ)



自ずとエスタリザの吐息が弾む。既にその聖女らしき者は目の前にまで迫り、しかし違和感とは相反してエスタリザの歩みは止まらない。彼女は大きく息を呑み、そして息を止めた。


エスタリザの真横を通り過ぎる赤髪の聖女。白い羽衣がなびくように、その純白の聖女のローブが風に吹かれて幻影の様に横を過る。突如、エスタリザの意識とは逆の方向から殺気を感じ、バルゴスへと振り返った。



「ガルルルゥ!!!」《ズサッ!》



バルゴスは咄嗟に数メートル飛び跳ね距離を取ると、次の瞬間聖女目掛けて技を放った。



上位武技ハイマーシャルアーマー大車輪!!」



「バルゴス!!?」「獣人さま!?」



驚いたエスタリザとバスティヤードが声を上げる。淡く赤色の光を帯びたバルゴスの全身が蹲り、剛毛は棘の様に逆立つと地面を飛び跳ねて、高速回転する大車輪のように聖女へと襲い掛かった。



「ッラァ゛!!」《ドゴォォォン!!》



次の瞬間、半回転した聖女のローブから覗かせた太くて艶めかしい生足がバルゴスの大車輪を真っ向から一蹴し、そのかかと落としはバルゴスの頭部を踏みつけて雪山の地面へとめり込ませた。



「なっ……!?!?」



バスティヤードが驚いて身構える。聖女のフードが衝撃で外れると、妖しく揺らめく深紅の長い髪の毛が解放された。その目は鋭くエスタリザたちを睨みつけ、その紅の瞳は文字通り紅い眼光を放った。



「いきなり襲い掛かるとはペットのしつけがなってないぞ、そこの飼い主。それとも… 貴様も不躾な輩か?」



聖女の圧倒的な眼力に抗い、光を帯びた白銀のレイピアを宙に浮かせて構えるエスタリザ。



「悪く思うな! 我が血よふるえ! 奥義…白刃の舞い!!」



光る3本のレイピアが高速で聖女へと飛び交うと、そのうち聖女の背後の1本目掛けて瞬間移動するエスタリザ・クロノス。しかし、移動した瞬間に胸ぐらを強大な握力で握り潰される程掴まれ、そのまま聖女の腕力で宙吊りになった。



「ガハッ………」



残りの2本は素手ではじかれると、雪山の地面へと突き刺さる。



「せ、先輩!?!? …クッ」



たじろぐバスティヤードの両足は恐怖に震えていた。



「やめとけ。貴様じゃ俺様を止められねぇよ」



先ほどまで白かった眼球が真っ黒に染まった聖女は、その悍ましい目でバスティヤードを睨む。バスティヤードは悲鳴を上げると、その場で尻もちを着いた。



「おい暴漢ども、もう落ち着いて俺を襲わないと誓うなら、このまま喉を握りつぶさないで解放してやる。答えろ」《ギロッ》



バイザーの下から覗いたエスタリザの瞳からは、大粒の涙がしたたり落ちる。彼女は苦しそうに頭を必死に縦に振った。そして胸ぐらを解放されたエスタリザは、地面へと倒れ込みせき込む。恐怖で込み上げる涙は止まらず、山道脇の雪の上へと滴り落ち続けた。



《ゲホッ、ケホッ!》



忍び寄る影に気付き、涙目で見上げるエスタリザ。そんなエスタリザを恐ろしい目つきで見下す聖女。



「ごっ…ごめんな、さいッ!」



泣きながら謝るエスタリザ。



「そんなに死に急いでどうするの?」



聖女は呟いた_____






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※21話『難度SSS級ダンジョン、吟遊詩人にはムリゲー(上)』参照



携帯翡翠鏡でロウメイと話し終えるエスタリザ。突如下半身を震わす。



《ジョワア》



「ちょっと先輩!? ええーーーっ!? ヤバいですって!!」



バスティヤードが何かに慌てふためいた。聖女が頭を抱える。



「冒険者なのでしょう? 私じゃなくても今までこういった経験くらいあるでしょうに…」



先ほどとは口調も雰囲気もまるで違う様子で話しかける聖女。その様子からはまるで威圧感がなかった。安心して対応するバスティヤード。



「せ、先輩たちは、アダマンタイト級冒険者だ!! 今まで自分よりも強い強者と戦ったことなんて、人界じゃあり得ない! お前、何者だ!?!?」



怒鳴り気味のバスティヤードの言葉に大袈裟に両手で耳を塞ぐ仕草をする聖女。



『アダマンタイト級冒険者!?!? え、嘘でしょ。この人たち普通の冒険者じゃなくて人類最高峰の!? あちゃー…どおりで武装とか恰好とか色々と本格的だと思ったよ』



ジト目でそっぽを向く聖女。



「おいお前! 答えろ!」



やや興奮気味に食い掛るバスティヤード。



「おい貴様、口の利き方には気をつけろよ? 私に名乗ってほしいなら、そこのデカブツとソコのお漏らし女に先に名乗らせろ」



「あッ、あぁ、そうだな…すまない……」《シュン》



気持ちを落ち着かせるバスティヤード。エスタリザの隣にいた彼女は、遠くで顔を突っ伏したままのバルゴスを起こしに向かった。考え込む聖女。



『アダマンタイト級冒険者って3人しかいないよね… だとすると、あっちのが獣人バルゴスで、こっちの方が時の番人、エスタリザ・クロノス?』






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「急ごうぜ。そろそろ日が暮れちまう。夜の雪山は危ないからな!」



やや走り気味に山道の上から降りてくる男の冒険者の2人組。2人は開けた場所に出ると足を止めた。



「おいおい、ありゃなんだ?」



1人が指さした先をもう1人が目を細めて観ると、そこには岩場を背に胡坐をかいて寛ぐ赤髪の聖女と、その前に正座する3人組の姿があった。



「なんだなんだ、説法か? いや、説教? 聖女様にこんな山中で何を教わるってんだ」



「つぅかよ、あの正座してる3人、やけに恰好凄くないか? 厳かというかなんというか」



小声で遠目に話し合う男2人。



「なぁ、そう言えばよ。今日上ですれ違った人たちが噂していたよな、時の番人と獣人の2人とすれ違ったってよ…」



「ああ。まさかアレがそうだってのか? んーー…確かに風貌は似てる風だけどよ、正座してるしなんか言われてるみたいだし、アダマンタイト級って感じじゃねぇだろどう考えても」



「だよなぁ…」



そういうと呆れた風にため息をつき、男2人は山を下りて行った。






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「申し訳ございませんでした」



エスタリザが深く土下座をすると、隣のバルゴスも頭を深々と下げた。



「…あやまる…許せ…」



深くため息をつく聖女。



「ハァー… わかったわよ、許します。けど、今後絶対にすれ違うただの登山者を暴漢しないでくださいね?」



『絶対ただの登山者じゃないだろお前! 普段先輩たちはいきなり襲ったりも、ましてや負けたりもしないんだぞ!』



心の中でそう叫ぶと、バスティヤードは貧乏ゆすりをした。エスタリザが泣きはらした顔を上げて聖女を見つめる。



「先日、滅ぼされた亡国の勇者ご一行。セカンドメイジのメサリア殿だったな。色々あった不幸の矢先にこんな暴漢まがいな真似に巻き込んでしまってすまないと思っている」



「いいんです。もう終わったことなので。でもどうして襲って来たんですか?」



メサリアが真顔で聞き返す。何とも言えない威圧感がその場を包んだ。



「お、おでは…」



そう言いかけて、バルゴスは胸に装着していたマジックアイテムを外した。すると、みるみる身体の獣のような剛毛が消え失せ、ただの毛深いオッサンに変貌した。驚くメサリア。



「俺の野生の勧が働いたのだ。自分の存在を脅かす強者の気配と、それに伴う禍々しい深淵を感じた。それには勘違いではない確信があったし、そもそも俺の大車輪を本気で喰らわせても一般人のように潰されて圧死することもないと分かっていた」


「精々少し怪我させて無力化できるだろうと考えていたのだが… まさか、一瞬で意識を奪われるとは感無量だ。先ほどの件は間違いなく俺の暴漢行為、言い逃れる余地もない。本当にすまないことをした」



「うわぉ。流ちょうになった」(しかも普通のオッサンになった)



メサリアは呟く。



「メサリア殿は何者なのだ? 我らが太刀打ちできない相手など」



問いかけるエスタリザ。隣でバスティヤードが二回頷いた。



「やだなぁ、ただの聖女ですよぉーー!」



笑っておどけるメサリア。



《ビキビキ》



ブチギレかけるバスティヤード。困惑するエスタリザ。



「エスタリザさんたちは聖都アリエスを目指しているのですか? なら私も引き戻しますので、山を下りながら話しましょ? 日が暮れちゃうと厄介なので」



「しかしいいのかメサリア殿。山を越えてサンタリア方面を目指していたのでは?」



「いえいえ、考え事をしながら散歩してた程度ですので。それよりも折角伝説のアダマンタイト級冒険者と出会えたのですから、少しでもお話したいなぁ」(うずうず)



メサリアに立ちあがるよう促され、雪の台地に再び立ち上がる3人。先を行くメサリアの後に続く。エスタリザは小走りで先頭のメサリアに追いつくと、横に並んだ。



「いつか、仲間たちと再会したら、時の番人と刃を交えたと自慢します」



「交えることなく瞬殺されたんだが!?」(汗)



メサリアに冷静に突っ込むエスタリザ。



「聖都アリエスは本拠地なのですか?」



「そうだ。我がアダマンタイト級冒険者チーム『青天照』は、アリエスの天の祭壇を拠点としいる。大聖女メアシス様からお呼びが掛かってな、大怪獣オルニック・ギドランが再び海上に顕れたということで、撃退もしくは討伐してくれとの依頼だ」



メサリアの問いに答えるエスタリザ。



「あー、大怪獣! 私が今日の午前中に討伐しちゃいました!」



3人「はあ!?!?!?」



首にあるクリスタルで出来たエンブレムを嬉々と3人に見せるメサリア。



「そしたら大聖女さまが一気に私をシルバー級からクリスタル級に昇格させてくださいました! 褒めてください!」



「あ、ああ、凄いな。我らが出向く意味がなくなった」「うそでしょ!?」「信じられぬ、誠か!」



苦笑が止まらないエスタリザ。自身のポケットを覗いて、金貨を一枚取り出すとそれを見つめる。



「聖都でオルニックギドランを討伐するための軍資金にするつもりだったが、全て浮いてしまったようだな。もう、いっそぱあっと散財するか!?」



「いいですね! 私、こんなにお金あっても仕方ないですし、冒険者の先輩方の依頼横取りしてしまったみたいで恐縮なので、ぜひ、聖都の美味しい店とか教えて頂けたらと。奢りますから!」



「よかろう!! だが割り勘で大丈夫だ」《ガシッ》



人類最高峰の握手を交わすエスタリザとメサリア。



「あのぉ… 臭います…」(変顔)



「うわあああああああああすまないいいいいいいい」



崩れ落ちるエスタリザ_____






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[聖なる都 ゾディアック・アリエス 酒場クリューシスゲート]




メサリアたちはルヴィア雪山を下山すると、一度解散して準備をし、再び待ち合わせの酒場前へと集まった。


聖なる都の薄暗い閑静な路地裏に入ると、そこには高級な佇まいの酒場が幾軒も連なっていた。そのうちのひとつに黒塗りの豪勢な門が入口となっている酒場がある。冒険者ギルド『天の祭壇』のエンブレムが掲げられたギルド傘下の酒場『クリューシスゲート』だ。


門の前には一人、バーテンダーの恰好をした高身長の男が、恰好とは裏腹にラフな佇まいで腕を組んでいる。恰好はそれなりに整えているのに襟ははだけて無精ひげをこしらえ、腰にはバーテンダーらしからぬ短剣を装備していた。



「なんだね君は。ちゃんとゴールド以上の冒険者証を持っているのかね? うちは上級冒険者専門の酒場だ!」



バーテンダー姿の男が困った顔で、目の前の赤髪お下げの女に胸を張る。すると、女は男の腕をチョイチョイ突いた。



「これ、なんだと思う?」(こそっ)



「んん? 月夜の因果か? く、クリスタル!?」



驚くバーテンダー。



「なんならこっちも見てみ!」



メサリアがエスタリザの首元のペンダントをバーテンダーに見せる。



「天使の羽根の…アダマンタイト!!? 失礼しました、今すぐ奥の席へご案内致します!」



礼儀正しく一礼をするバーテン男。不思議そうにアダマンタイト級冒険者の女をチラ見する。



『天の祭壇の女性アダマンタイト級冒険者ってエスタリザ様しかいないよな… こんな可愛らしい風貌だったっけ?』



赤いチェック柄のスカートに白いニットの洋服を着た銀髪ツインテールの女性がそこにいた。その隣には毛が濃い大男と眼つきの悪い金髪アップスタイルのローブを纏った女。バーテン男は4人を酒場の奥の上等席へと案内した。


薄暗い路地から屋内へ入ると更に薄暗くなり、高級カウンターに並ぶ酒瓶の数々の裏側に設置された淡い光が酒瓶を通して美しいグラデーションをバー全体へと投影している。



「お兄さんお兄さん、ココのシェフ呼んで来て!」



「えっ? はぁ、かしこまりました」



バーテン男はシェフを呼びに去る。エスタリザがメサリアの持ってきた大きな荷物を覗き込んだ。



「なんだそれは。随分と重そうだが、防具や武器などの所持品といったわけでもないのだろう?」



「これはですね…今にわかります…ふふふ」



メサリアが鼻を伸ばす。するとバルゴスが呟いた。



「肉だな。上等な肉の気配がする」



「ああっ、バルゴスさん酷い言うなんて、秘密にしてたのに!」



嘆くメサリア。するとこの酒場のシェフらしきオッサンがやって来る。白い髭を生やした片目に傷跡のあるスキンヘッドのガタイの良い男だ。男は少々鼻息荒くして口を開いた。



「お客さん、上級冒険者だからって困るんだよねぇ。今店は混みあってるんだ、俺も調理場離れられねぇ。要件なら手短にしてくれ!」



「ごめんなさい。コレと、これなんですけど」《ドスン》



メサリアがかなり大きな肉塊の包みをシェフの目の前のテーブルに置くと、札を見せた。



「このマーク、大聖堂のモノか。何々、この伝説の肉を只で寄付するが故、持参者たちに料理を振舞って欲しい? 『大怪獣オルニックギドランの霜降り肉』…」




「オルニックギドランの霜降り肉じゃとおおおお!?!?!?」




驚いて少々大きな声を上げてしまうシェフ。酒場の客たちがなんだなんだと奥の席を覗き込んだ。



「やはり、タイミング的にそうだとは思いましたが…」



バスティヤードが目を丸くする。



「なんてことだ。希に仕入れるギドランの肉でも上等、俺も何回か調理したことがあるが… その上位互換じゃ、旨味も栄養も食い応えも最上級の代物じゃい! コレをただで提供など、腕がなるわい!」



「疑わないのか?」



エスタリザが問う。



「そりゃあ別の日だったら疑っていたかもしれんが、今日は伝説の怪獣が討伐されたと巷で話題になっていたからな! それに教会の公認証付きなら間違いない! 待ってろ、只で最上級の料理を振舞ってやる!」



そう言うと、違う意味で鼻息荒くしたシェフは、巨大な肉塊を肩で担ぐと厨房へ戻っていった。



「あちゃー、この分だと飯代も浮いちゃいそうですねぇ」(笑)



メサリアがわざとらしく頭を掻く。



「まさか、オルニックギドランの肉料理がただで食えるだなんてな! 俺、興奮してきた」



バルゴスが鼻息を荒くした。



「感謝するぞメサリア殿。コイツは大の肉好きでな。私もバルゴスの選んだ肉料理をさかなに酒を飲むのが好きなんだ」



エスタリザがバルゴスの肩に触れる。照れたように顔を赤らめるバルゴス。すると、近くのカウンターで独り飲んでいた貴族令嬢がいきなり声をかけて来た。



「あっらぁー?? 随分と楽しそうですわねぇーー?? 連絡よこさずに今頃何をしているかと思えば、女と酒場でイチャイチャですかぁ~~??」



満面の笑みと額に血管を浮きだたせてそう言って来たのは、花の妖精のようなドレスを着た魔女だった。



「イライザ!!」「ゲッ………」



顔が強張るバルゴスとエスタリザ。イライザは酒瓶を右手に持つと、フラフラ酔いながらこちらの席へとたどり着き、そして4人の前のテーブルに音を立てて瓶を置いた。そしてバルゴスの隣に座る銀髪ツインテールの女の顔を覗き込んだ。



「あ゛あ゛? 誰だてめぇ、私の彼氏の隣にどの面下げて座っとんじゃあ!?」(ビキビキ)



貴族令嬢からは程遠い、物凄い形相とヤンキー口調で話しかけるイライザ。苦笑しながら、エスタリザが応える。



「わ、私だ。エスタリザだぞ、イライザ」(苦笑)



「え゛!?」



驚いて、目と鼻の先まで顔を近づけるイライザ。目をまん丸くかっ開いてエスタリザを観察すると、大きなため息をついた。



「ハァ~~、なんだエスタリザですの。誰よこの女って本気で殺意が沸いてたところですわ。なんでそんな恰好してるのよ今日に限って!」



エスタリザの後ろに殺気を帯びた眼つきの悪い金髪女が、魔法剣を手にして立ち上がりかけたのを見て、慌ててエスタリザはバスティヤードを御した。



「着替える必要があったのだ、かくかくしかじかで!」



「ああん? かくかくしかじか~~?」



イライザは後ろの2人に振り返った。エスタリザが紹介する。



「そちらの魔法剣士が私の後輩のバスティヤード・クルセイダ」



殺気を引っ込めて軽く会釈するバスティヤード。イライザが目を見開く。



「あなたが、エスタリザが度々名前を口にしていたバスティヤードさんですのね! いずれ私を超える逸材だと、耳だこになるくらい聞いていましたわ!」



「超えるだなんて、そんなことはあり得ませんよ。あなたの話は良く耳にしていました。よろしくお願いします、イライザ・リ・フランソワーズ侯爵令嬢」



握手を交わす2人。そしてイライザがメサリアへと口を開いた。



「で、あなたは…」



すると、先ほどのバーテン男がやって来る。手には酒の入った木製のジョッキを5つ抱えていた。



「料理長の奢りだそうだ! 飲んでくれ」



5人「わあああ」「やったあ!」「サービス良いわね」「えっ、私もいいんですの?」



酒をテーブルに置き終えると、バーテン男は鼻を啜りながら言った。



「先ほどの肉だが、俺も少しだけ味見させて貰った。とんでもない美味さだ、期待してくれていい」



5人「おおおおおお」



そう言うとバーテン男は戻っていった。メサリアがバーテン男に手を伸ばし呼びかける。



「あのっ、私未成…」



無言でその手を取って御するエスタリザ。美しい唇に細い指を立てて白い歯を見せた。



「シーッ…」



肩を窄めて片手で口を覆うメサリア。エスタリザはジョッキを手に立ち上がった。



「それでは! 今日この出会いを祝して!!」



他の4人もジョッキを手に取る。



5人「乾杯!!」「乾杯ーーーー!!」「いえぇーーい!!」




その後、料理長特製のオルニックギドランの霜降りオードブルを肴に親睦を深める5人だった_____






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次話、未定です。


あと、感想と評価ほしいです!!

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