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深淵聖女(ディープマリア) ~転生魔王は勇者ご一行~  作者: 恩谷
JUPITERIAS(ジュピタリアス) 第三章 ~ハミルトンの魔女~
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55.ルナティックガーデン・オブ・エリュシオン

お待たせしました。

挿絵(By みてみん)


キャラクター紹介(28) アスラ・ゾディアック・フロムロラン





55.ルナティックガーデン・オブ・エリュシオン






[ノグルシア連邦 グルシア南部の街ファールンド]




ノグルシア南西の街ノーブルムースを東へ進むと、ノーブルダム、ファールンドと街が並ぶ。いずれも東ヴァルキュディス山脈の麓町だ。ノーブルダムまではノーブルムース同様の黒いシデン製瓦屋根の風景が続くが、ファールンドの街へ入ると景色は一変する。


ファールンドブルーと呼ばれる暗めの藍色がかった青い石造りの街並みが急な斜面にずっしりと並ぶ風景は壮観で、クルス・オグナのアルペンフットと並ぶ人界屈指の高層住宅街だ。東ヴァルキュディス山脈では1、2位を争うほどの険しさを誇る場所だが、山脈の中心部に巨大な洞窟があり、山越えをせずともメーデリアへと抜けることができる。


街の中心部から洞窟の中を通ってメーデリアへと抜けるブルー川は、ウォールドミリスの街を通ってそのままダッパルバス崩落水道へと合流する。



ノグルシアからメーデリアへの一番の近道ではあるが、ダッパルバス周辺の治安は最悪で、それ故に人々は西のクォンタムハイドをわざわざ使うことが多い。治安の悪さのため、ファールンドの洞窟の入り口にはノグルシア連邦直轄の警備兵中隊が常に駐屯していた。


ファールンドの領主であるグルシア貴族、スウェール子爵は駐屯兵と数少ない越境の民のための宿場と酒場をブルー川の両岸に集め、夜の街はそれなりに賑わっていた。街明かりはファールンドブルーに反射すると何とも言えない落ち着いた青色へと変わり、景色を青く染めた。



洞窟手前の高層街の中層に張り巡らされた鋼鉄の外デッキと外階段に賑わう酒場客たち。酔って足を滑らせてもブルー川、酔って川に吐くものなら警備兵の目に留まり罰金。だからこそ、ファールンドの酒場客たちのマナーはかなり良い。


一番外側の席から階下の洞窟入口を見下ろす仮面の男は、優雅に杯の葡萄酒を飲み干すと、席の連れへと向き直った。



「いいのかメルトよ。ここを通れば故郷のメーデリアだが」



「心配ではありますけど… 山頂の喫茶店ピークスティーハウスは場所が悪くて、途中アリシア王国軍と鉢合わせになる可能性がありますから」



酒場で一人お茶を飲む技法師メルト。隣のアスラが口を開いた。



「…ついこの間大戦があったのに、立て続けにこうも色々あるだなんて… この時代にインペリアルオーダーを聞くことになるとは思わなかったわ」



白い葡萄酒を口へ運ぶ白い淑女。ほろ酔いのご様子で、一口飲むと向かいの旦那を見つめて可愛く微笑んだ。



「私とアナタって葡萄酒の白と紫よねぇ~、パーソナルカラーが」



「それは前から俺も思っていたことだな」



全く酔っていなさそうなディライサが淡々と言う。



「それじゃあ私はお二人のブドウの房の緑ですね~、パーソナルカラー的にも」



3人「はははははは」「あはははは」「クスクス」



「大丈夫なのかメーデリアは、俺は良くメーデリアという国を知らないが…農国というのは、政治体制はどうなっているんだ?」



ディライサが真面目に聞く。



「メーデリアは今や各都市や街の自治体の代表が集まる合衆国ですね。基本的には各々の街にそこの政を任せています。あと、良くパッとしないだの、国土だけ広いだの、国力がない田舎だの色々言われるんですが…正直インペリアルオーダーが発令された今でも、そんなに心配してないんですよね私は」



メルトが冷や汗を浮かべながら苦笑する。



「そうなの? アリシア王国と言ったら、私たちの時代は小国ではあったけれど、アリシアベルの剛族の屈強さは結構有名だったのよ?」



アスラが問いかける。メルトは頭を掻いた。



「それは百も承知なんですがねぇ。あまり言いたくはないんですけど、うちの国… 相当ヤバい国なんですよ」



2人「ヤバい国!?」



ディライサとアスラがメルトの話を待つ。



「言ってしまえばある意味巨大な『犯罪国家』で人界の『悪の巣窟』です。有名なネームドの山賊や盗賊や暗殺者を多数輩出し、それを狩る冒険者たちも屈強です。特に奴らは北の国境近辺を縄張りにしていますから、アリシア王国軍がそこをむやみに突っついたら大変なことになります。唯一手薄な北東側には屈強なギルド連合の冒険者たちがいますし」



メルトがそう言うとディライサが少し納得してみせた。



「あのダッパルバスだったか? あの地に降り立った時にそういう空気は感じ取ったが、まさか国全体の風土だったとは…」



「いやまあ、ダッパルバスは取り分け特にヤバいですけどね! まあそんなわけで、アリシア王国軍は陸路を進むのは困難。東の巡礼の航路はウルバニア皇国が厳しく取り締まっている。なのでそう直ぐにどうこうなるものでもないでしょう」



お茶を一口飲むとメルトは夜空を見上げた。



「今私よりも気がかりなのはメサリアたちですよ。亡国の戦士の生き残りがいて、その人が標的にされたのですから。まぁ、それも彼女が出張ってしまえば、なんというか、もう無敵なんで、つまり何も心配する気が起きないというのが現状です」(苦笑)



2人「あぁ、なるほど」



ディライサとアスラも苦笑いしながら顔を見合わせる。



「未だに深淵のメサリアの正体や実力を知る者は少ないからな。人が彼女を一介のクリスタル級冒険者程度にしか考えずに敵に回したら、その時は大変だな」






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[メーデリア農国 ホプスエリン北 エリジウムの街]




メーデリアの大樹エリンの麓には2つの大きな街がある。南のホプスエリンと北のエリジウムだ。エリジウムの北部にはアリシア王国から連なるルプスヘルゲンの山々があり、その南の山頂にはあの山頂の喫茶店ピークスティーハウスがある。


その山頂の喫茶店から昨日エリジウムの街にとある一報が入ったのだった。アリシア王国兵が隣を通過したと… その一報を受け、ホプスエリン緑の渠底の冒険者たちはエリジウムの北側へとくつわを並べた。



「我はアリシア王国軍第3騎士団長、ダイダリス・コンフォートである! 我が国の女王国絶対指令インペリアルオーダーは貴君らも聞き及んでいるはずだ。即時に我らのために道を開けよ!」



鋼鉄の甲冑のバイザー部分を持ち上げて顔を見せる中年男性の騎士団長。背後には数百もの騎士たち。そして、目の前には緑の渠底の冒険者たちが数十名程度しかいなかった。



「通すものか! 国へ帰れ!」「そーだそーだ!」「インペリアルオーダーなんざ俺たちの国には関係のないことだ!!」「領土侵犯だぞ!」



圧倒的に数で劣るメーデリア勢力だが、その姿勢は全く怯むことなく堂々としていた。ダイダリスが声を張る。



「貴君らが道を開けないのであれば、強行突破をするまでだ! 最終通告だ、道を開け!」



すると、冒険者たちの前へと姿を現したのは巨躯の老兵と、黒い甲冑のこれまた巨躯のベテラン冒険者だった。



「ここを通りたければ我らを倒していくがイイ」《ドスン》



巨大な斧を地に突き立てると、黒い甲冑の男が渋い声で言い張った。



「この老兵、この国のためならまだまだ壁くらいの役には立つじゃろう!」



これまた巨大な斧を構えるガタイの良い老兵。それを見たダイダリスはほくそ笑む。



「これは傑作だ!! 我らが鋼鉄騎士団の歩みをジジイ2人如きで止められるとでも思っているのか!! ははははははは!!」



すると、兵士の1人がダイダリスへと駆け寄って耳打ちする。



「なに? 黒い方がクリスタル級冒険者、漆黒のゼネス!! もう片方は元クリスタル級冒険者、賢運のモーゼンだと!?」



騎士たち「漆黒!? あの漆黒か!」「クリスタル級だと!?」



騒めく鋼鉄騎士団。告げ口した兵が口を開く。



「特に漆黒のゼネスは要注意だと、司令部より聞いております」



顔に苛立ちを浮かべるダイダリス。



「フンッ! 何も恐れることはない!! この戦力差だぞ、クリスタル級だろうがものの数十名、我ら騎士団が踏み潰してくれるわ!!」




「ならば私が加わればどうでやがりますか?_____




突如空から舞い降りる禍々しい大鉈に跨る黒い魔女。その魔女帽子は大きく、魔女の口元しか伺えない。



「なんだ、アレは…」



明らかにただならぬ気配を感じて警戒するダイダリス。



「断罪さま!?」「断罪さまが来てくれたぞ!!」「やった、最強じゃないか!!」



士気が高まる冒険者たち。名前を呼ぶ男が1人。



「断罪のネフィルロッツェ!」



「いい加減『様』を付けやがれです、エマンス」



いつものやり取りに微笑むエマンスとネフィルロッツェ。ゼネスが見上げて言う。



「断罪の…貴公が来てくれるとは有り難い。まさに一騎当千だ」



「漆黒の。貴様でも十分だろうが、多勢に無勢。大勢相手であれば、近接戦闘より魔法を駆使する私の方が向いている。それだけのことでやがります」



ネフィルロッツェがゼネスと肩を並べる高度まで浮遊した状態で降りてくる。そして、チラリとモーゼンに視線を移した。



「まさか、お前がメーデリアのために前線に出てくるなんて、驚きだ」



モーゼンの言葉に応えず、余裕なポーズで大鉈に胡坐をかくネフィルロッツェ。眼前のダイダリスを見据える。



「断罪だと!? あの『時の番人』すら凌ぐという噂の最強のクリスタル級止まり…」



「まずいですよ、ダイダリスさま!」



「ええい、怯むな! 冒険者が1人増えたにすぎん!! 数で圧倒し…」



そう言いかけた矢先に片っ端から宙に浮き始める騎士たち。鳴き声を上げる騎馬たち。



「うわっ、うわあああ」「身体がっ!?」「だ、団長ーー!!」《ヒヒーンッ》



片手をかざすネフィルロッツェ。



重力反転ターングラヴィティ超巨大絶壁カラミティエンプレス劣勢魔法レッサーマジック超断罪の雷カーディナルライトニング!」



騎士団と冒険者たちの間に突如聳え立つ大きな大地の壁、そして壁の向こう側に天から落ちる一閃の雷光。



「ヤバいです団長!! 違う属性の上位魔法が次々と!! カーディナルライトニングなんて天位魔法の下位互換!!」



「実況している場合かぁぁぁーーーー!!」



「ひぃぃいーーー!!」「化け物ぉぉーー!!」「撤退だ、撤退ぃーーー!!」



吹き飛ばされる指揮官。暴れて逃げ回る騎馬。痺れながらも悲鳴を上げて逃げ行く騎士たち。それは瞬く間の出来事であった。言葉を失う冒険者たち。



「なっ………」



目を真ん丸く見開いて両手を地に付くモーゼン。冷や汗を浮かべて語るゼネス。



「これで手加減をしたとでもいうのか。奴ら、誰一人死んでいないぞ?」



「人数差を埋めるには、ド派手な魔法でもてあそばれたという印象を与えるのが効果的でやがります」



ネフィルロッツェがようやく地に足を着いた。



「印象というか、文字通りもてあそんだわけだ…俺らの出る幕なかったじゃん」



呟くエマンス。



「俺、断罪さまの実力初めて見た…」「すげぇ…」「ベテラン冒険者が口を揃えてヤバいと言う意味がようやく分かったぜ…」


「うおおおおおおおおおお! 撃退成功だああああああああ!」「うおおおおお断罪さまあああああああ!!」



盛り上がる冒険者たち。その歓声は暫く続いた。






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[メーデリア農国北部 ミッドランド山岳地帯]




「ヒィッ、ゆ、許してくれぇぇ、頼む!!」



ロープで手足を繋がれた鋼鉄騎士。その慄く様をキングチェアから冷たく見下す赤い長髪の男。辺りには強く灯る松明が数本、暗い廊下を照らしていた。



「フリューゲルスだったか? アリシア王国軍第2鋼鉄騎士団長。領域侵犯をしたのは貴様らの方だろう?」



「しっ、知らなかったんだ! メーデリア農国にこんな、屈強な国軍がいただなんて!!」



気が動転しているフリューゲルス。その様をみて不気味に笑う男。



「クックック。貴様は俺たちが正規軍に見えるのか? だとしたら相当ヤベーよ」



赤い長髪の男の側近らしき男が口を開く。



「貴様たちがズカズカ踏み込んだこのミッドランドはなぁ、我らトップアサシンギルド『レーヴァテイン』の領地なんだよバカが!」



「レーヴァテイン!? ま、まさか、赤髪のそこの男は…鮮血の名で有名な…あの!?」



ニヤリと笑う赤髪の男。



「クックック。俺様のことは知っていたかフリューゲルスとやら。そうだよ、俺様がその『鮮血のジェノフリート』だ。ジェノフリート・ルセウス・リッカだよぉ」



そういって舌をベロっと出して笑うとジェノフリートは立ちあがり、短剣をフリューゲルスの右肩へと突き刺した。



「ぎゃああああああああああああっ!!」《ブシュゥゥ》



痛みに悲鳴を上げるフリューゲルス。飛び散る血飛沫。ジェノフリートは短剣を引っこ抜くと、くるりとフリューゲルスを一回りしてからしゃがみ込み、顎を掴んで目を覗き込んだ。



「ダッハハァ!! 俺たちが包囲してるお前の兵士たちだがよぉ、お前の命をぶら下げて沢山いたぶってやるつもりだ。搾り取れるだけ搾り取ってやるぜぇ、ギャハハハハハハハァ!!」



突如狂ったように笑い出すジェノフリート。先ほどまでの雰囲気とはまるで違っていた。



「殺すなら殺せぇ! 私は、私の兵たちはこんな事では揺るがない!」



ジェノフリートがすかさず左肩を短剣で指す。



「ギャッ!!」《ブシュァァア》



「どうしたァ? イキっちゃったかァ? 俺様は今とってもイライラしてんだ。何せ優秀な部下の1人を元同僚のせいで投獄されちまってよぉぉーー………」



そう言うジェノフリートの後ろには他のアサシンたちとは服装の違う魔導士が1人。彼に横目で語り掛けるジェノフリート。



「なぁギョロぉ。あの尼は犯して犯して犯しまくってやらねぇとなァ!? クックック、楽しみだぜぇグリフィンシアよぉ。テメェのエロくて最高の身体にブッ刺して、その綺麗な顔歪めてやるからな゛ァ゛!!?」



「ぎゃああああああああああ!!」《ブシュワァ》



そう言ってフリューゲルスに3か所目の刺突をするジェノフリート。その目は左右に視点が振り切れており、狂気に血走っていた。






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[アリシア王国 鋼鉄要塞タイタン 玉座の間]




《パリィンッ》



鋼鉄の手で握り潰されるワイングラス。煌めく銀色の腕を血のようにしたたり落ちる雫。



「余の聞き違いか? もう一度言え」



配下の兵士に復唱を迫るアリシア新女帝。その声色は落ち着きながらもどす黒い怒りに満ちていた。



「ハッ! 陸路でメーデリアへ進軍した我が第1鋼鉄騎士団はグリンタールの残党と衝突。かつての頭を失っても、その構成員の数は我らと引けを取らない程でございます。中々苦戦している模様」



「チッ。ザムリオ・バグラダマスの残党か厄介な… 他の騎士団はどうした??」



別の兵士に問うアリシア。



「ハッ! 第2鋼鉄騎士団は団長のフリューゲルスがトップアサシンギルド『レーヴァテイン』の鮮血の捕虜となっていると! 兵士たちが指示を仰いでおります!」



「あの鮮血のサーカスの頭領だった奴か!」



歯を食いしばるアリシア。



「第3騎士団ですが、大樹の北の街エリジウムへ到達した模様…ですが……」



「なんだ、言え!! 第3騎士団あそこは一番多く兵を導入したんだぞ!?」



アリシアが痺れを切らして言い張る。



「漆黒のゼネス率いる緑の渠底の冒険者たちの目の前で、あの『断罪のネフィルロッツェ』に成す術もなく敗れたと…」



「断罪が来ただと!?!?」



アリシアは玉座から立ち上がった。



「あの魔女め… いつも通り世間の荒事など無関心でいればよいものを!!」《ビキビキ》



アリシアの眉間の血管がビキビキと悍ましいほどに浮き立つ。



3人「女王陛下!!」



「もう良い。余が直々に赴かねばならぬようだな。お前たち、準備を整えろ」




「余を…この『アリスドレイク』を本気で怒らせたようだな、後世の愚民ども_____






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[メーデリア農国 ホプスエリンの街 エリンギ亭]




辺りが鎮まるとき雌豹めひょうのような女が静かに目を開く。上半身を起こし、隣で眠る愛する者の寝顔を眺めるとその額を軽く撫でた。



『私はこの居場所ばしょが好き。出来るだけ永くここに居たいと思う。けれど、居心地が良ければ良いほど、私の中の獰猛な獣が囁く。(ここはお前わたしのいるべき場所ではない)と。彼らを巻き込むなと』


『この3年間、一度は見限ったあの男の事を忘れたことはない。私たちマハラジャの家族にとって、あの男の存在はそれほどまでに大きい。例え愛する人キースを利用することとなっても、あの男の存在が私を下から突き上げてくる』



「好きよ、キース様」



グリフィンシアの瞳から涙が一滴流れ落ちる。静かにベッドを降りると、綺麗な肌にマハラジャの首領時代の軽装備を纏っていく。こと気配を消すことに関しては、アサシンたちの右に出る者はいない。グリフィンシアは振り向かずに部屋から廊下へと忍び出た。



『セシルさんは… 寝ているわね』



隣の部屋のノブを人睨みすると、グリフィンシアは廊下の出窓から音もなく隣の建物の屋根へと飛び移った。






春の夜風が新緑の匂いを運ぶ、満月の真夜中。大樹の根の深くに古代フローレンツィア時代からの遺産である『おり』は鎮座している。クリスタル級以上の冒険者証でしか認証されない強固な古代結界魔法がその牢獄を護っており、冒険者へと身分を翻した時点で彼女はそれを突破する条件を満たしていた。


あとは、絶好のタイミングで仲間に怪しまれることなく違和感なくこの場所を訪れることさえ出来れば、彼女の『呪縛シリーズ』の能力で『悲願』を遂行できる。それは、インペリアルオーダーによってメーデリアの戦力が北に集中している正に今だった。


かつてのアサシン時代の身のこなしで、瞬く間に夜間の木の檻の護りを突破したグリフィンシアは、最下層の極悪人収容区域へと足を踏み入れた。



《カツン、カツン》



呪縛を展開したグリフィンシアは、もはや周りの警備兵に気を遣う必要はない。彼女の足音が収容された罪人たちの耳に入る。



「おいおい、何時だと思っていやがる」「ちょっとまて、アレって」「うがああああ、むしゃぶりつきたくなるようないい女だあああ!!」「まさか…マハラジャの首領!?」



堂々と薄暗い中央通路を通って最奥の檻の前へとたどり着くと、自身のアダマンタイト級冒険者証をかざして封印解除を唱える。そして、その牢へと足を踏み入れた。



「フッ。予想外のお客様だ。まさか俺を見捨ててギルドを抜けたお前が、今更なんの用だ? ………グリフィンシア・マハラジャック」



「もしかして拗ねてるの? ライエン・ソフリシエラ」



《バサッ》《カシャン》《ドサッ》



ゆっくりとライエンへと歩みながら、纏うものをその場に落としていくグリフィンシア。頭の額当てを脱ぎ捨てると、妖艶に舌を覗かせて大きく胸を突き出した。その瞬間、髭面の毛が伸びきった男は女に飛びついた。



「んッ………ハァッ」



「クソっ、なんのつもりだグリフィンシア!!」



「フフッ。3年間もここに居たんじゃ、溜まってるんでしょライエン? 聞いたわよ、とても反省しているって… きゃはッ!」



ライエンはグリフィンシアの両肩を掴むと嘆き散らした。



「ああ、ああそうだとも! 反省してるさ、俺は特別でもなんでもなかった…思いあがっていた!! それを3年前身をもって味わったさ…」



ライエンの顔を両側から優しく手で掴み上げて、嘆きの言葉を聞き続けるグリフィンシア。



「己の力の誇示に暴走した俺は、仲間に見捨てられ、暗殺者の秩序を破って人を殺した。そして、挙句の果てにあの女に一瞬でねじ伏せられた… 俺にはもう、何も残っていないさ!」



涙を流すライエンを優しく撫でるグリフィンシア。



「みんな見捨ててなんていないわよ。だから戻ってきた。ここから出て、もう一度やり直して欲しいから。だから…私と約束して? ねぇ、ライエン先生!!」



グリフィンシアがライエンの耳元で囁く。



「アナタのその力をもっと良いことに使うと誓って。私利私欲で人を殺めたのであれば、それを償うために生きて。アナタはこんな地の底で朽ち果てるべきじゃないわ。私たちマハラジャの家族に生きる術を教えてくれた恩人だもの。だから…」


「私の呪縛を受け入れて。…そうしたらここから出してあげるわ」



《ガシャアアアンッ》



グリフィンシアを激しく檻へと押し付けるライエン。その様子は他の収容者にも筒抜けだった。



「受け入れるに決まっている! 死の呪いでもなんでもかけてくれ!!」



「うん!!! 今度また道を踏み外したらッ、その時は、私の呪縛でアナタを逝かせてあげるわッ!!」






「フゥーーー」



木の檻の外で3年ぶりのシャバの空気を吸うライエン。吸い終わるとかつての装束のフードを被り、鉄仮面で顔を覆った。



「大丈夫?」



グリフィンシアがライエンの瞳を見つめる。



「ああ。思いっきり暴れたから清々しい気分だ。おかげで新しい気持ちでスタートできる。感謝するぞ、アダマンタイト級冒険者『グリフィンシア・マハラジャック』…本当に良い女だ」



「クスッ。そうしていれば、いい男なのに」



見つめ合う2人。



「さよならだ、グリフィンシア」



「うん… お元気で」



飛び去ろうと前傾姿勢になるライエン。なびく一陣の風。




「…久しぶりだなァ、神速の_____




突如その場に叩きつけられるライエンとグリフィンシア。2人の頭を地面へと押し付けるその手には鋭く紅い爪が生えていた。



「…き、貴様はッ、あの時の!!??」



「グッ… 何故お前がここにいる。深淵のメサリア!!?」



地面に顔を着けたままメサリアを睨みつける2人。そこには満月の光を背に、ぼさぼさの深紅のロングウルフヘアーの女が不敵に笑みを浮かべていた。



「お前のことはずっと気に食わなかったからな。本性を現す時を見計らってたんだよ、このクソビッチが」



「アタシもさ、深淵の!! 元はと言えばてめぇがライエンを木の檻にぶち込んだのがはじまりだからな!」



涙を浮かべるグリフィンシア。



「殺して! もう、言い訳もしないわ…」



目をつぶるグリフィンシア。メサリアは少し考えてから口を開く。



「おい、神速のライエン。この女との約束を守れよ? わかったら行け」



そう言うと押さえつけていた頭を離すメサリア。ライエンは起き上がるとグリフィンシアを見て、そしてメサリアへと向き合った。



「ああ、感謝する」



そう言い残すと、その場から姿を消した。



「え… な、なんで?」



自由になった頭を起こし、メサリアを見つめるグリフィンシア。メサリアは頭を掻きむしった。



「ああもぅ! 一部始終観察していたのよ。だから、あの男に呪縛を掛けたのも知っているわ。唯一許せないのは…キースさんの気持ちを裏切ったことくらいよ!」



「あっ…あぅ…ッ」



涙を流すグリフィンシア。すると、上空からオーソドックスな木の箒に乗ったお化け帽子の魔女が降りて来た。



「メサリー… その人がグリフィンシア・シエルハント?」



「ええ、プリパレイダ。チーム『轟雷の三騎衆』の1人」



地に足を着くと、小さくしゃがみ込むグリフィンシアを軽く見下ろすプリパレイダ。



「チームの絆が浅いとこんなもんかしらね、色々とあるんだろうけど」



「メサリア… 私のことどうするつもり?」



グリフィンシアが腑抜けた感じに問いかける。



「うーん… とりあえず、私の言うこと聞いてもらおうかしらね」



グリフィンシアを睨みつけるメサリア。



「うん。なんでも聞くわ」



グリフィンシアの手を引いて立たせると、メサリアは彼女の肩をポンポン叩いた。



「とりあえず、キースさんにもセシルさんにも黙ってるわ。木の檻の連中もアナタの呪縛シリーズの効果で暫くはライエンの脱走に気付かない。だから、アナタが自分の気持ちに折り合いをつけた時、自分で彼らに打ち明けなさいな」



メサリアがそう言うと、グリフィンシアはメサリアに抱き着いた。



「ありがとう」



「ウ゛ッ…ホロホロホロ、いい話だぁ~~」



急に涙ぐむプリパレイダ。メサリアがグリフィンシアの頭を撫でながら口を開く。



「で、とりあえず私たち、これからアリシア王国に単独で乗り込むからーーー、あなたも一緒に来て!」



「!?!? えっ……… えええええ!?!?!?」




夜空も白み始め、やがて新たな一日がはじまる_____






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次話、未定です。


あと、感想と評価ほしいです!!

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