4.交差する炎(ほのお)と雷(いかずち)
小説初心者ですがよろしくお願いします。序章全7話構成を順次投稿、新章は序章よりも長めの1話構成で順次投稿いたします。更新遅めです。イラスト画像と共にご想像していただければ幸いです。
[オルソリア島 ホールオブラナ入口 森の草原]
時刻は正午を過ぎようとしていた。大穴からはラプソディア・キマイラが4匹、片やこちらはクリスタルハンター1名、プラチナハンター4名、ゴールドハンター2名、シルバーハンター1名の計8人。
戦力としては申し分ないが、初めて相対する敵にして情報も皆無。一同はみな慎重にならざるを得なかった。更に、ネコ科、イヌ科、爬虫類の頭が重なりあったその不気味な容姿が、本来の強さ以上に威圧してくる。
「剛雷、太刀一閃!!」
「大地のマナよ集え、アースシールドでござる!!」
「おおっ、いいところに防御壁が!… なんでこんな島にいるのかってのは、お互いに聞きっこなしですよ、今は!」
「そりゃそうだ…なっ! クオリア!!」
キースと言葉を交わしながら、ナハトがキマイラ一匹を拳で弾き飛ばし昏倒させると、離れた場所で詠唱していたクオリアが応じる。
「皆さん退いて下さいまし。本日二発目、行きますわよ。プロミネンスフレア!!」
《ゴオオォオオオ》
《ア゛オォオオオオオン゛ッ゛》
《キ゛ニ゛ャアアアアアアア゛》
ネコとイヌのうめきのような鳴き声とともに、キマイラ一匹が燃え盛りながら倒れる。
「あのお嬢さん、やりますねぇ! どうやらこの敵には、雷よりも炎が効くみたいですよ、セシル!」
「ないものねだりは出来ぬ。キース、レイナ! 3つあるうち中央の頭を刺突しなさい。おそらく急所です。他の二つが潰れても活動している固体がいます」
「御意!」「了解!!」
「剛雷! 天槍一閃!!」
キマイラがキースの槍でたじろいだ隙にセシルが神速の刃で喉元から中央の頭のみを斬りおとした。うめきもせずに2体目のキマイラが倒れる。
「早っ! 全く目で追えませんでしたわ」
奥のもう一匹とはメサリアとレイナが相対していた。
「やぁっ!! はぁっ!!」
《ザシュッ!!》
「聖なる光りよ、浄化の炎で闇を滅せよ。ディバインクルス!!」
「聖なる光りよ、浄化の炎で闇を滅せよ。ディバインクルス!!」
「聖なる光りよ、浄化の炎で闇を滅せよ。ディバインクルス!!」
『この子、聖女のようね。神聖魔法で炎属性に近い浄化の炎はいい判断だわ。だけど、気のせいかしら。なんだか… 詠唱を強調しすぎじゃない!?』
『ちゃんと詠唱してる、ちゃんと詠唱してる、私ちゃんと詠唱してる!!』
メサリアはキマイラを倒すことよりも、詠唱アピールに必死だった。それには彼女の無意識な余裕もあったのだろう。いざとなれば瞬殺可能なモンスターに対する警戒は無いに等しかった。
彼女の今後の最重要課題は、どんな強敵が現れることよりも、如何に魔王の力を隠し、如何に活用していくかへと変化していた。そのことに彼女自信は気づいていない。そして、それは他のメンバーとの意識の違いとして現われていく。切迫した状況への真剣な眼差しを彼女は失ってしまった。今後、メサリアだけはどんな状況でも浮いてみえることは必至だった。
とはいえ、彼女は肝心なことだけは心に決めていた…
『絶対に仲間を守ってみせる、この力があればそれが可能だ!』と…
「………………………………………せよ。ディバインクルス!!」
「聖なる光りよ、浄化の炎で闇を滅せよ。ディバインクルス!!」
「深淵なる闇よ、地獄の業火で骨まで焼き尽くせ。アポカリプス・オブ・ニルヴァーナ!!!」
《シュカッッ………!!!!!》
「えっ?」「あ…」
《ドゴオオオオオオオオオオオオ!!!!!》
「なんだ今の音は!?」「凄い音がしたでござる!!」「大丈夫ですか!?」
その場の皆が一斉に轟音に反応した。しかし、戦闘中ということもあり、すぐには振り向けない… そうこうしているうちに炎は鎮火する。
「ねぇ、何今の? なんか最後だけ詠唱違わなかった??」
「ち、違うんですお姉さん!! 今までの神聖魔法の詠唱分をディレイマジックで時間調節して、最後に発動を集約したんです!!」
「…なんか炎が黒くない?? 私たちが戦っていたキメラはどこ??」
「はぁ……… 消滅しちゃったんじゃ… ないでしょうかねぇ…あはは」
『ヤバッ! 最後とっさに威力だけ押しとどめたけど、上位魔法使っちゃった!!』
「後一匹はどこだ!!? 見当たらないぞ!!」
「大穴の入り口でござる!!」
「気づきませんでしたけど…なんか…違いませんこと?」
アーサーの大斧の先には最後の一匹がいた。しかし、他の3匹とは少し様子が違い、色も先ほどまでの青みがかった毛並みではなくどす黒く、毛先が僅かに青く発光している。
「頭だ!! 頭が4つある!! レイナ、翡翠晶を!」「御意! ディテクトマジック、クリーチャーリファレンス!!……コイツは!?」
「何って魔物だ、レイナ!!」「キマイラ・イーター、難度43!?」「43だと…!?!?」
セシルの動揺もさながら、一瞬皆の表情が凍りついた。勇者側で言うなれば、一番ハンターランクの高いクリスタル級のセシルが難度40、プラチナ級が難度37前後。昼間で動きが鈍っている難度40手前のラプソディア・キマイラ相手なら、数人でかかれば何とか倒せてはいるが、難度43ともなれば全員でかかっても厳しい。ここにいる誰もがそう思っていた。
《愚かなるニンゲンよ。我らは魔のグンゼイ。テイコウは無意味だ》
「な! …喋るぞコイツ!!」
おぞましい二重三重にもなった低音の声が直接鼓膜へと語りかけてくる。キマイラ・イーターの四つ目の頭、人に似た魔人のような顔の目が白く光っている。
「魔の軍勢と言ったな? 貴様らは意図的にここへ送り込まれたと言うのかよ、化け犬さんよぉ??」
《フッフッフ、ゲヒャッハハハハハア゛ア゛ア゛アアァ》
ナハトの問いかけも虚しく、キマイラ・イーターは笑いと咆哮の混じった、壊れた狂人のような雄たけびをあげた。
「どうやら知性があるというわけでもなさそうですね。セシル、レイナ! 一か所に!! 真紅の槍刃のみなさんも、我々とともに包囲の陣を!」
「……魔弓 侵蝕の白矢!……」
《バシュッッッッ!!》《オ゛オ゛オ゛オオオオオオンッッ》
突如光の刃がキマイラ・イーターの4つ目の頭を貫いた。先ほどから気配を殺していた狩人が、魔物の死角の森の木の上に立っている。普段は閉じられて背中にある魔弓バリスタが、今はその禍々しい両翼を広げてこちらを向いていた。
「ミイルダ!」「ミイルダさんですわ!」「狩人氏!」
「……油断するな。侵蝕の白矢は魔力を苗どころに根を張る薔薇、マナグローサの棘の矢。侵蝕がはじまってヤツの動きが止まったら、最大の技で攻撃しろ!!」
キマイラ・イーターが苦しみだすと、白く発光する刃のような矢じりから植物の根のように、発行体が全身を蝕んでいく。そして、魔物の動きは完全に弱まった。
「魂を浄化せし極炎よ、我が武器へ纏いて顕現せよ。エンチャント・プロミネンスフレア!!」
「雷神よ、我が武器へ纏いて顕現せよ。エンチャント・ライディーン!!」
ナハトとキースの持つ槍に、クオリアとセシルがそれぞれの得意魔法を付加させた。お互いにチーム名由来の魔法武器の完成である。
「そちらの準備はいいですか? いきますよ!!」
「問題ねぇ、そちらは上半身をたのむ。俺は下半身をやる!」
「響け剛雷… 雷神槍!!」「燃え盛れ… 極炎槍!!」
《ア゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオンッッ》
魔物を侵す白い根と、帯電した全身を、極炎が包み込む。ものの数十秒ほどで、キマイラ・イーターは消し炭になった。
「やったでござるなぁ!!」「っしゃ! やったッ!」
「内心ひやひやもんだったぜ…なぁキースさんよ。」「我々だったからこそ、成し得たって感じですね」《パチン》
いまだ高揚しきったナハトとキースが互いに手を合わせる。レイナとクオリアは仕留めた魔物の場所へ赴いた。
「ねぇ、これって?」「まぁまぁ、ドロップアイテムかしらねぇ。白く発光していた目の部分よねコレって?」
「ディテクトマジック。ドロップリファレンス!… 該当なしか」
「その翡翠晶スキル、もの凄く便利よねぇ。ワタクシも覚えようかしら。」「そうなんです! 便利なんですよコレ。まぁ習得は結構楽だけど、翡翠晶がなかなか売ってない上に高値かなぁ」
「見た感じそれなりの硬度のクリスタルのようですよ、あれだけの雷と炎を喰らっても無傷なんですから。両目分二つもありますから、それぞれのチームに一つずつって感じで!」
割って入ったメサリアが、話を促した。ジュピタリアの知識によると、キマイラ・イーターはゼガンゾラ深奥窟にある希少な鉱物「アダマンタイト」を摂取して体内に結晶化するらしい。とても高価な代物だ。
「皆さん安心するのはまだですよ、一旦森の外へ陣取りましょう。ここは危険です!」
「今んところ大穴の方に魔物の気配はないが、後続が現れたら俺らの体力が持たねぇ。早いとこずらかるぞ!」
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[オルソリア島 北の入江]
時は夕刻。陽もそろそろ落ちきるところで、藍色の夜空が大半を占めていた。真紅の槍刃と剛雷の三騎士は森から少し離れた海沿いの高台に陣を敷く。
つい先ほど島の反対側の木船を取りに行ってたキースが戻り、積み荷の大型のテントを広げ、今しがた薪に火をつけたところだった。
森に強力な魔物の気配は特にないが、ミイルダとレイナを警戒にあたらせている。セシル、ナハト、アーサーのテント周りの支度が整うと、クオリアとメサリアは自前のロッドを天にかざした。
「聖なる大気の精霊たちよ、我らを覆い隠したまえ。アウロラ・オブ・スピリッツ!」
「聖なる光よ、みえざる光となりて我らを護りたまえ。シュラインフィールド!!」
クオリアが魔力探知&知覚阻害、メサリアが聖なる加護と回復の布陣の神聖魔法を唱えると、ミイルダとレイナは警戒態勢を解いて戻ってきた。
「やはりこういう時に聖女が二人もいると違いますね、これで割と安心できそうです。それにお二方ともお美しい」
「ちょっとキース! 悪かったわね、私が神聖魔法使えなくて! ブッサイクで!」
「やきもちですかレイナ? あなたも綺麗な顔…ってェッ!」《ドゴッ》
レイナにわき腹を蹴られてキースがうめいた。全員が薪の前に暖を取るとエメラルドブロンドでプラチナメイルの聖騎士が立ち上がる。
「改めまして。先ほどはご助力ありがとうございます。私はツバイエルスの勇者を務めていますセシル・トル・ライデンです。よろしくお願いします」
「(雷鳴のセシル)ですわよね、お噂はかねがね」
「いえいえ、お恥ずかしい限りです」
クオリアの補足に対し、一介の聖騎士が顔を赤らめる。
「ツバイエルス三大貴族がひとつ、フラウデル公爵家が長男、キース・フラウデルです。皆様方よしなに」
金髪ポニーテールの青年が自前の青縁メガネをクイッと上げてみせた。
「あ、あたしは平民出よ?? ツバイエルス元第二騎士団長のレイナ・ホールチェインです。よろしく願います!」
「つい先日、ラナ王国の勇者に任命されたナハト・レイラルドったぁ俺のことよ。よろしく頼みますぜ、剛雷の三騎士さま方!」
「言い方がいやらしいですわよ!! 神聖魔法と火炎魔法のデュアルソーサラー、オッドニッサ伯爵家が長女、クオリア・オッドニッサでしてよ!」
お前こそ言い方がいやらしいというナハトの突っ込みに対して突っ込みを入れるクオリアに対し、キースが目を丸くしてたずねた。
「オッドニッサ嬢? もしかして一昨年の貴族交流会でお茶汲みをして母方に叱咤されていたあの?」
「あらあら、覚えてらっしゃるのですね。お恥ずかしい。ワタクシお茶汲みは趣味のようなものでして…」
「変わってますね。貴族なんて大抵お茶汲みなど召使いにさせていますから」
「ええ、お茶を注ぎにその方の傍らまで無警戒で近づけるでしょう? その上その方が邪まな企みやら負の感情を抱いているかを感じ取れるのがワタクシの趣味、もとい特技でして、オホホ」
「……………」
「えーとでござるなぁ… 我輩はアーサー・ユングリットでござる。主に物理防護スキルが得意で、関連性の高い土系統の魔法も少々かじってるでござるなぁ」
「あの、気になってたんだけど、語尾が特徴的ですよね。あたしの故郷に似たような訛りがあるんですが… ノグルシア連邦の北の出では?」
「あえぇー違うでござる。我輩、昔から読書が趣味でありましてー、その影響でござろうか…」
「オタク…」《ボソッ》
メサリアがつい本音を呟くと、ささやかな笑いが皆に伝染した。一同の中で一番巨体な男が身を小さくして顔を赤らめる。
「……まるでアリシア王国で流行りのお見合いってヤツだな……」
先日あたりからやたら発言するようになった元無口キャラの男が呟いた。常に深く被っている鍔の広めの帽子をとると、黒めの長髪オールバックに鋭い眼先、あごひげを生やした風貌の中年男性がそこにいた。
「……ミイルダ・ドイトルだ……」
「先ほどの弓の一撃には救われました、感謝いたします」「ホントに助かったでござる!」
「皆さん? ミイルダさんは私と同じく先の大戦を経験している大先輩ですよ。(魔弾の射手)の異名で敵将の獣帝ラグロスにも一目置かれていた方です。この人、冒険者ギルドのクリスタルハンター認定を何度も断ってるんですよ」
一同「えええっ!?!?」
「口が過ぎるぞライデン」
「いえいえ、事実ですから。漆黒のゼネスさんですら貴方には大口をたたかんでしょう?」
「マジかよ、ミイルダさんよぉ。そゆことはもっと早く教えてくれっつーか、ああっ、もうリーダーとしての面潰れだわ」
「……問題ない。レイラルド、リーダーとは元来そういうものだ、お前はそれでいい……」
「魔弾の射手。昔読んだことがあるでござる! ってことは昨晩の勇者デューランのくだり、遠目にみたのではなく狩人氏も同じ御一行だったのでござるな!!?」
意外なカミングアウトも程良くして落ちつき、とうとう聖女メサリア・ノア・ヴァルフの自己紹介の出番がやってくると、先ほどまでとは打って変わった皆の視線が一斉に集まった。
「ええっ、えぇ~~? ちょっと、皆さん??」
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キャラクター紹介④ クレステル・ユグドラ