3.初心者フィールドの裏ダンジョン
小説初心者ですがよろしくお願いします。序章全7話構成を順次投稿、新章は序章よりも長めの1話構成で順次投稿いたします。更新遅めです。イラスト画像と共にご想像していただければ幸いです。
3.初心者フィールドの裏ダンジョン
[オッドニッサ別館 2階 メサリアの寝室]
「星が綺麗…」
聖女メサリア・ノア・ヴァルフは、雲ひとつない綺麗な夜空を見上げた。満月があたりを明るく照らしている。
ロベルハイムの森は王都アルカナから程遠くない場所にあるそれなりに広い森だ。針葉樹と広葉樹が入り混じり、所々にポンド(溜池)がある。森の中央にはリーブル川が流れ、木と木の間隔が離れていて見通しの良い印象を受ける。季節は秋に差し掛かり、森の所々では紅葉が始まっていた。
館のある森の中央は王都よりも高度が高いため、2階からはラナトリウス宮殿を一望できるほど見晴らしが良い。
メサリアはこの景色を気に入っていた。魔王ジュピタリアとしての記憶に目覚めた今でも気持は変わらない。しかし…
「私って、魔王なんだなぁ… 実感わかないや…」《ボソッ》
とても不思議な感覚で、夢物語でも観ているかのようだった。かつてのメサリアだったら自分が魔王の転生後の姿であると知れば、絶叫し気絶くらいはしていたであろう。しかし彼女はそれをすんなり受け入れている。
「受け入れるしかないんだよなぁ。だって仕方がないじゃない、私がジュピタリアなんだもの」《ボソッ》
もしかしたら記憶に目覚めたその瞬間、かつてのメサリアは消滅しまったく別のメサリアに変化してしまったのかもしれない… そう思った。
「今のセリフ、魔王時代だったらどんな風に言ってたっけ?」
メサリアは続ける。
_____『受け入れるしかねぇだろ。だって仕方がねぇだろうが…』
【 俺 様 が 魔 王 ジ ュ ピ タ リ ア ・ メ イ ザ ー な ん だ か ら な ! 】
《ゾワッ》
その瞬間、もの凄くおぞましい塊のようなものが天から堕ちてきた感覚にメサリアは襲われた。今まで彼女が生きてきて無縁だった強い自信、プライド、破壊衝動、欲深さ、そういったものが全て黒き塊としてメサリアへと襲いかかる。
「うっ…… ああ゛あ゛あっ!!」
口調を思い出しただけで、前世での感覚の大半が覚醒したように思えた。今朝は大丈夫だったが、次に魔王の容姿へと変身したら完全に今の私ではなくなってしまう、そうメサリアは強く予見する。
「っハァ、ハァ、女なのに俺様とか言ってたのか私は… 確かに魔王らしいけど…」
息が弾んでいるのを押し殺して、わざと笑みを浮かべてみる。
『大丈夫。私は悪逆非道な魔王じゃなかった。ただ純粋に強き者との戦闘を求めていただけ。どうせならこの力、仲間を守るために使いたいわね…』
《バァン!!》
突如思い切りメサリアの部屋の扉が開かれた。
「メサリー!! 大丈夫か!?!?」
「な、ナハっち!? 大丈夫、なんでもない… から?… あはは…」
「あ…」
《バタンッ》
勢いよくドアを開けたナハトはメサリアの裸に近い薄着姿を目の当たりにして顔を赤らめ、ドアをそっと閉じた。二人はドア越しに背中合わせになる。
「わりぃ… 心配だったから、その。ノックくらいはするべきだった」
「いいよ、心配掛けてごめん」
胸元あたりをギュッと握りしめるメサリア。
「ねぇ、ナハト? 私はいつまでたっても私だよね…?」
「なぁに言ってんだよ、メサリーはこれまでもこれからもメサリーだろ。それは旅が始まってからも変わらないぜ」
「そっか…」
メサリアは静かに微笑んだ。
「それにしても… クオリアのも大概だけど」
「?」
「やっぱお前も、もの凄くデカイよな」
「…バカヤロウ」《ドンッ》
メサリアは軽くドアを小突く_____
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[ラナ王国 エリダ港の南西 南の海 数十メートル沖]
「誰か水系の魔法を使えるヤツぁいねぇのかぁ? これじゃあノロ過ぎる!」
あぐらをかきながらナハトは天を仰いだ。朝霧の濃い中、一同は小舟に乗ってオルソリア島へと向かう。まるで一国の勇者が乗るような立派な船とは程遠い、ただの小舟でゆったりと進む。
オルソリア島は完全な無人島だ。よって港町エリダとはいえど、定期便は出ていない。行くのであれば、個人で船を借りる他になかった。
『お客さんたち変ってるねぇ、オルソリア島に行きたいだなんて。もしかして大穴目当てかい? 穴マニア?』『ちょっと旦那様! その方々は先日任命された勇者様ご一行ですよ!』《ヒソヒソ》
『なぁに言っとるかね。勇者様たちならば、国から船の一つや二つ、調達してもらえるだろうが。うちみたいなショボイ船貸しにぃ、用はないじゃろ! なぁアンタたち?』
《はぁーーっ》
ナハトは今朝のやり取りを思い出してため息をつく。
「勇者とはいえ、所詮俺たちの知名度なんてそんなものだよなぁ」
「おい、ナハト! 少しでも早く着きたいのであらば、お主も一緒に漕ぐでござるよ! 正直っ、この速度がっ、限界でござるなっ…ハァっ」
アーサーが顔を赤らめながら必死にオールを漕ぐ。
「あらあら、ナハト? リーダーだからってサボってばかりいると、その無駄な筋肉が全部削ぎ落ちてしまいますわよ?? フフフ」
「ひぃっ!! 怖いこと言うなよ。しゃーねぇなぁ、少しばかし本気を出すかぁ」
「少しばかりと言わず、男は黙って働けぇえ!!」《ドゴッ》
《ぎゃああああああ》
ナハトの悲鳴を横で聞き流しつつも、メサリアは船尾の方へ意識を集中した。
「ぬ、ぬぬぬぬぬ? なんでござるかっ!? 速度がぁ、上がったでござるなぁ…!?」
「いや、俺じゃねぇぞアーサー。いくら俺がマッチョだからといって、一人加わったくらいでそんな変わらねぇよ! って、なんだぁこりゃ!?」
突如、小舟の速度が上昇する。
「…あらら、船尾が発光してるわね。魔法? メサリア、水系魔法なんて使えたの?? あなた、神聖魔法以外は使えないって…」
「あはっ、あははは。いや、こんなこともあろうかと。下位魔法アクアマリンはバホルマギアで初級中の初級ですから!!」
クオリアへ咄嗟に答えるメサリア。下位のバホルなんだから何も問題ないとメサリアは自分へ言い聞かせる。
「…私みたいに、複数の属性を操る魔法使いって、そんなにいないのよ? 凄いじゃない!」
一同「おおーっ!」
『…えっ?』
「…… ヴァルフ」
「あ、はいっ。なんでしょうミイルダ、さん…?」
「…… 詠唱したか?……」
「はえ゛っ゛っ!?!? しましたよ!! 聞いてなかったんですかー!?」
目をまん丸くして訴えかけるメサリア。
「ナハトが絶叫してるあたりで聴こえてなかっただけでござろう」
「そうそう、俺の声がかき消したかな? バホルマギアとは言え無詠唱化できる魔導師はクリスタル級冒険者でも少ないって聞くぜ? ましてやメサリーはシルバー級だ」
「ちっ…… 某としたことが、聞き逃すとは呆け過ぎてたか… アサシンスキルの持ち腐れだ……」
ミイルダは帽子を深く被りなおした。
『ヤバッ!!!』
自分の迂闊な行動をメサリアは悔んだ。つい先日、使う魔法は下位魔法ミディオマギア以下と決めたのは良いが、属性のことなどには頭がまわらなかった。
そもそも魔王の記憶と力が戻る前までは、使う魔法に制限をかけるなどという意味のない行為はするはずもなく、『使えるから使う、使えないから使わない』ただそれだけだったのだ。
その感覚で、魔法をわざわざ詠唱化するなどという無意味な行為には考えが至らなかった。彼女が詠唱を必要とするのは、それこそ神位魔法(Mythological Magic)レベルであるのだから。(※下位魔法 - 中位魔法 - 上位魔法 - 天位魔法 - 神位魔法)
2、3時間してようやくオルソリア島を遠目にとらえることができた。濃霧だった海上も今ではかなり晴れてきている。オルソリア島は小さく平坦で、森がある以外は特に何もなさそうな辺鄙な場所だ。
「いやぁ良かったでござるなぁ。半日かかるというのは魔法なしでの人力の場合ってことだったようでござる」
「本当にここに大穴があるのかしら。平坦すぎて、とても森以外に大きな穴などあるようには思えないのですけれど…」
島の周囲をゆっくりと巡回する勇者ご一行。
「!!?? ヴァルフ、魔法を解除しろ!」
「ウェっ?! あぁ、はいっ!!」
「どうした、ミイルダさんよ」
「……見ろ、先客だ」
ミイルダの指す方へ辿ると、そこには木船が一隻、岩礁に乗り上げていた。勇者ご一行の小舟よりもいささか立派なその船は、しっかりと沿岸のひときわ大きな木へ括りつけられている。
「こんな孤島に先客だって? 用心するに越したことねぇな。みんな! ここからは手漕ぎでゆっくり旋回して、島の反対側に着けるぞ」
ナハトの指示に従って、一同は島の反対側へと回る。オルソリア島の反対側は入江になっていた。
「ざっくりと半周ほど、遠目に観察してたでござるが、人の気配はしないでござるなぁ」
「…だが、予想していたよりも強めの魔物がいるな… 数匹… ヴァルフの勘は当たったようだな」
「ええっ!? 上陸もしていないのに、数匹とかわかるんですかぁ?!」
再び目をまん丸くして見開くメサリア。
「…とりあえずホールオブラナを捜すぞ。おそらく島の中央だろう。お前ら、気配を殺せ。無駄な戦闘は避ける」
数日前から口数が増えた狩人が皆へと指示を出す。入江の海岸へしっかりと船を括りつけると、ナハトたちは慎重に森林の奥へと進みだした。そこは、日が出ているうちは大丈夫でも、日が落ちればかなり闇が広がるであろう薄暗い森だった。
《アオォォーーーーーーーーーーンン》
「な、なんの雄たけびでござるかっ?」《ヒソヒソ》
「わからないわ。四足獣系モンスターのに似ているけど、聴いたことのない感じですわ」《ヒソヒソ》
怯えるアーサーとクオリア。メサリアは考える。
『今のは、ラプソディア・キマイラの咆哮ね。難度にして40前後。でも陽の当らない深奥窟の低位モンスターならば、昼間のこの時間は動きが鈍いはず。ナハトたちでも十分に戦えるはずよ』
そう考えながらも、メサリアはホールオブラナと深奥窟が通じてしまっていることを確信した。その上で、最悪の事態だけは招かぬよう冷静に思考を巡らせる。今、一番危険なのは、深奥窟の低位モンスターの中でも『プロルト・アーリマン』という翼の生えた目玉のような蝙蝠種だ。精神異常を起こさせるので、遭遇したら目を合わさずに背後から斬りつけるしかない。
そう考えてるうちに、メサリアたちは開けた森の中心部へと辿り着いた。地面には草が生い茂っている。開けた森の中心へ向かうにつれ地面が緩やかに陥没しており、中心部には直径50mほどの巨大な穴が垂直に空いていた。
「看板が立ってるでござるよ」
(クラウディア教 珍スポット 其の91:ホールオブラナ/別名 オルソリア洞窟 落ちると危険なので中に入らないこと)
「なんでござるか、珍スポットって。お嬢、姫、知ってるでござろう?」
屈みながら振り向くアーサー。
「クラウディア教の巡礼スポットは20ヶ所ありますわ。珍スポットは、クラウディア教徒でも見て回ることはないので存じませんわね。存在するのは知っておりましたけれども…」
《キィィン!!》
「おいおい、誰かさんが穴の対岸付近で戦闘中のようだぜ。行くぞ!」
ナハトが真っ先に皆の先頭へと走りぬけた。
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「雷神よ、我らが武器へ纏いて顕現せよ。エンチャント、ライディーン!!」
眩い閃光が稲妻のように走り、それぞれの槍、剣、太刀へと纏わると、刀身が白く発光しだした。
「助かりますよ、セシル。これでっ… ハァっ!!」
《ザシュッ!!》
《ガルルルル……》
「なんですかこいつら、一匹一匹がタフすぎる!!」
金髪ポニーテールの騎士の眼鏡がやや傾いた。
「ディテクトマジック! クリーチャーリファレンス!!」
身軽な武装の女剣士が詠唱すると、彼女が右肩に装備している防具の水晶が光りだした。しばらくすると文字が浮かび上がる。
「ええっ!?」
「どうしたレイナ!! 何かわかったのか??」
「くっ、こいつらはラプソディア・キマイラ! 難度40手前! 生息地は… ラズオラ山脈!?!?」
「レイナ、何処ですかそれは!! 聞いたことがまるでない!! セシル!?」
「知らないっ! 私のライブラリ翡翠晶には帝国の持ち得る非公開データも多少蓄積されてます! おそらくこいつら、ミストレムリアの魔物!!」
「ミストレムリアの魔物ですか!? 何故この島に??」
焦り出す2人。
「落ちつきなさいキース、レイナ! 一匹ずつ仕留めましょう!!」
エメラルドブロンドの白い戦士は、焦る2人の前に出て構えると、背中で2人を後方へと誘導した。
_____極炎よ、魂を浄化せよ… プロミネンスフレア!!
《ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!》
突如3人の目の前に炎の壁が出現すると、ラプソディア・キマイラ数匹が身に燃え移る炎で悶え苦しみだした。
「これは… アルターマギア(高難度下位魔法)ですか…!?」
キースが振り向くと、そこには見覚えのある5人組がいた。
「間に合ったようでござるな! 随分と効き目ありでござるよ、お嬢!!」
「ええ… でも数ヵ月ぶりのアルターマギアですのよ。連発はできませんわよ」
3人「真紅の槍刃!!?」
「へっ…… まさかこんな辺鄙な島で、剛雷の三騎士さま方と会えるとは思ってなかったぜ」
ナハトは左手で鼻を啜ると、右手で槍を構えた。
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キャラクター紹介③ レイナ・ホールチェイン