2.館で談笑ティータイム
小説初心者ですがよろしくお願いします。序章全7話構成を順次投稿、新章は序章よりも長めの1話構成で順次投稿いたします。更新遅めです。イラスト画像と共にご想像していただければ幸いです。
2.館で談笑ティータイム
[ラナ王国 王都アルカナ 夜光の祭典ギルド本部前]
「もう良いのですか? ゼネス殿」
「フンッ、奴等は見知った顔だ、今更特に用はない」
冒険者ギルドを出てきたゼネスに話しかけてきたのは、隣国ツヴァイエルスのプラチナハンター。勇者ご一行の『剛雷の三騎士』が1人、キース・フラウデル公だ。腰は低いが列記としたツバイエルスの公爵家の第一子である。長い金髪ブロンドのポニーテールと四角い青縁メガネが特徴のランサーだ。
「では、何故大衆のいる場所を嫌うあなたがわざわざこんな時と場所を選んだので? 後輩の旅立ちの見送りというわけではなさそうですが」
「レイラルドは無鉄砲だが、それなりの実力者だ。門出を見守るような感覚は持ち合わせておらぬわ。俺がココに来たのは別件だ」
剛雷の三騎士のリーダー、セシル・トル・ライデンが疑問をぶつける。セミロングのエメラルドブロンドの清閑な男でプラチナプレート(白銀鎧)に身を包んだクリスタルハンターだ。彼は生を受けしライデン家に代々受け継がれし雷魔法ライディーンを操り、三騎士それぞれが身につける大剣、槍、太刀を雷魔法武器へと変化させるチームの要だ。加えて剛雷の名の由来でもある。
「別件とは… お聞きしてもよろしいのですか?」
最後の1人「レイナ・ホールチェイン」が尋ねる。黒味を帯びた茶髪ショートカットの色黒女騎士でプラチナハンターの彼女は、扱いの難しい太刀の手練れだ。
「……」
ゼネスはメサリアを再び見据える。
『今朝、俺は未だかつてない程の気配に襲われた。身の毛がよだつ程の気配。あの小娘、見た目とは裏腹に何か隠してやがるな』
ゼネスは今朝のことを振り返る。宮廷守護騎士団のオズマが駆けつけたとき、彼はその後ろで聞いていたのだ。
「フンッ、あのボケのはじまったジジイ元帥の目はごまかせても、俺にはわかる」《ボソッ》
「あの少女が何か?」
「何でもない、行くぞ。お主等もこんなことをしにココへ来たのではあるまい」
キースの問いを一蹴し、ゼネスは歩き出した。
「真紅の槍刃… 我々と同じく魔法武器が由来の名の勇者御一行か。噂に名高い真紅に燃え盛る極炎槍と僕の雷神槍、気にはなるが…」
「行くぞキース。彼らは勇者なのだから、そのうち相まみえることもあるだろう。それよりも今は」
「わかってますよ、セシル」
見晴らしの良い聖都アルカナの傾斜からは、視界の端から端まで海を一望できる。
4人の戦士はその場を後にすると、傾斜を降りて行った。
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[王都アルカナ郊外 ロベルハイムの森 オッドニッサ別館(真紅の槍刃 拠点)]
「ハァ-ーーーーー……」
長いため息をつきながら、メサリアはリビングにある長いソファーに寝そべりかえる。今日はあまりにも沢山の出来事があった。それを耐え抜いた彼女は勲章者だと誰かに誉めたたえられても良い程だ。
この一日で、ある程度彼女の中の混乱は納まりつつあった。前向きに考えれば、彼女は魔王の力を得ただけの聖女ということだ。
『もうそれ、ただの聖女じゃないわよーーーー……』
とりあえずメサリアの中でひとつだけ肝に銘じたことがある。『下位魔法(Lower Magic)、高難度クラス(Alter Magia)以上の魔法はなるべく使わない』… ということだ。
この世界において人の扱える魔法は例外を除いて下位魔法まで、その中でもアルターマギアまで扱えるとなるともはや達人の領域なのだ。
そうなると、下位魔法のバホルマギア(Bajo Magia)低難度クラス、ミディオマギア(Medio Magia)中難度クラス、そのあたりが行使するに堅い。
『そう考えると… 勇者フレイダ…アイツ何者なの? 今考えると人間やめてたのね』
ジュピタリアの記憶では、500年前に魔王城へ攻め込んできた勇者フレイダは上位魔法(Higher Magic)のバホルあたりまで詠唱していた覚えがあった。
ちなみにジュピタリア自身は上位魔法より更に上の天位魔法(Higher Wisp Magic)、またはそれ以上のものまで使いこなせるのだが、それでも彼女が勇者に追い詰められた理由には相性もあっただろう。
「さすがに俺も疲れたわ。メサリー、そこを少し空けてくれ、俺も座らせろい!」
完全にソファーを独占していたメサリアは慌てて退けると、そこに勇者ナハトは座り込んだ。そう、彼は彼で今日から晴れて勇者なのだ。
「……」《ジーッ》
「なんだよメサリー、勇者になった俺がそんなに珍しいのかぁ? ッハハッ!」
『能天気な男。私の身に世界を左右する程のトンデモないことが起こっただなんて、これっぽっちも考えないでしょうね。いや想像するほうが無理だわ、こんなこと』《ムスッ》
メサリアが能天気な4歳年上の幼馴染の横顔を眺めていると、この真紅の槍刃の拠点を提供してくれた貴族令嬢、クオリア・オッドニッサがお茶を持って現れる。
「はいはい、皆さん揃いましたわね? 今後の方針を固めますわよ」
そう言うと、クオリアは人数分のお茶を注ぎ始めた。それを見たアーサーが慌てて手伝う。
「あぁーー何をしているでござるかクオリア嬢、そういうことは我輩みたいなオッサンに任せるでござるよぉー!」
「フフッ、アーサーあなたまだオッサンって歳ではないでしょうに。風貌は否めないけれども」
アーサーがデカイ図体で役割を変わると、無口なミイルダまでもが手伝いだした。
「……どれ」
「あーーーっ、それこそ私の役目ですよーーーっ!!」
出遅れて、メサリアも手伝い始める。ナハトはそんないつも通りの真紅の槍刃のメンバーのやり取りを眺めて和んだ。そしてお茶が全員へと行き渡り、お茶菓子をテーブルの中央に置いて準備が整うと、ナハトは腰を上げて口を開いた。
「情勢は変わらんねぇ。魔王リディアスの軍勢と直接対峙しているのは、西の城塞ディアステラ帝国だ。さすがは大帝国… 1000年前から魔王軍と戦い続け、このウルバニア大半島を守り抜いている彼らは屈強だ」
「つい先日、オードラー将軍とディアステラの勇者の共闘で、魔王軍四天王の1人(獣帝ラグロス)の軍勢を押し返したらしいでござるからな!」
アーサーが興奮気味に言う。
「……勇者デューラン・ディアステラか、一度遠目に拝んだことがある…」《ボソッ》
一同「マジで!!??」「本当ですの!?」
久々にはっきりと喋ったミイルダへの驚きとの半々くらいで皆が口を揃えた。
「……某がお前等と組む前の話だ。ノグルシア連邦の宿場町ノーブルムースに泊まった時、ウルバニア公国での議会を終えた勇者デューランが町を通ったのさ。街道に集まった民へ向けて打倒魔王の心得を説いていた」
ミイルダがお茶を啜る。
「とても熱意のある方だというのは聞いてますのよワタクシも」
一通りの給仕を終えたクオリアがようやく着席してくつろぐ。
「ディアステラ、500年前の勇者も確かフレイダ・ディアステラ…」『そうか、彼はディアステラ帝国の由緒ある血筋の者だったのよね』
メサリアは得心が行ったのか、頷いた。ナハトが首をかしげる。
「どうしたメサリー、いきなり500年前の話なんて。500年前といえばアレだろう、伝説の魔王決戦」
「小さい頃好きでよく読んだでごさるなぁ、魔王決戦。因みに我輩の知識だと、その頃の魔王も勇者も現代の彼らと比べると雲の上の強さらしいでござる」
アーサーが童心を思い出しながら天井を見つめる。
「因果法帝ジュピタリアスこと魔王ジュピタリア・メイザーはハイデビル(High Devil)だったと伝わってますわね。その強さも納得ですわ」
「ハイデビル、上位魔人にして魔人の真祖か。本当に存在するのか? 確か物凄く少ない種族だとか、数人しかいないとか」
大げさに考え込むナハト。
「……ハイエルフ(High Elf)というエルフの真祖が存在しているらしいからな。……ハイデビルがいてもおかしくはないだろうさ…」
ミイルダは両腕を頭の後ろへとまわすと、そのままソファーへと寄りかかる。
「地殻断崖の西のことはどんな世界なのかもわからんでござるからな。人知の及ばぬ魔物や魔人が蠢く場所と聞いているでござるよ。帝国は西の情報や地図を持っているとの噂であるがぁー、その、一般には公開されてはおらぬからなぁ」
一般的に人の住む『人界』と呼ばれるのがここウルバニア大半島だ。北西のディアステラ帝国と南西の亜人国家クルス・オグナの西には、大陸を垂直に断つようにオデュッサイル地殻断崖が存在している。
地殻に亀裂が走って数十キロも成層圏まで盛り上がった断崖絶壁だ。そして、その西に平行して存在するのがマナヘイズ深淵峡谷という数十キロも地底へと続くミストの濃い谷、もとい大地の溝だ。
これらの西に広がる世界は『魔大陸』と呼ばれ、魔物、魔人、竜、亜人が主に生息する人とは無縁の地とされる。人の種がこの世界で存続し続けていけるのは、ひとえに地殻断崖と深淵峡谷に守られているからだ。
峡谷と断崖を横断する手段は限られている。どんなに恐るべき魔物であっても、これら天然の城壁を容易に横断してくることは困難だった。
「一度帝国へ赴いてミストレムリアの情報でも入手するかぁ? とはいっても俺たちのレベルでいきなり敵地へ乗り込むのは死にに行くようなもんだ」
軽いノリで言い放つナハト。
「魔王軍側から攻めてくることもあるでござるからな。どこかで鍛錬を積み重ねるのもありでござる。どこか良い狩場があれば… お嬢?」
「ワタクシには皆目見当もつきませんわ。一般的に考えればヴァルキュディス山脈の魔物を相手にするのがよろしいのでは?」
クオリアがミイルダへと振り向く。ミイルダは屋内だというのに自慢のハットを深く被っていて、その表情は伺えない。
「……ヴァルキュディス山脈となると、西側よりは東側のほうが近いな。……どこかの宿場町を拠点にするか? 稼ぎも必要だ、冒険者ギルドの近場が好ましい……」
雑談混じりの会談から序々に方針が固まりだした頃、それまで魔王のくだりなどをハラハラ聞いていたメサリアがここぞと名乗りをあげた。
「あのぉ~、そのことなら一つ提案が~…」
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一同「オルソリア島??」
「あ、はいぃ。みなさんご存じですよね? このラナ王国の領土である、南の海にある孤島を。そこがですね、かなりお勧めの狩場かと僭越ながら提案いたします」
「船で半日かかる上に、何もないから誰も行かない辺鄙な島だろ? メサリー、なんでそんな場所がいいんだよ?」
「いや、ナハト。確かあそこには歴史的なスポットがあるでござるな。確かー…ホールオブラナとかいう大穴が」
「いやまぁ、穴があるだけだろ?」
「そうでござるな… あるだけでござる」
「なりたての冒険者でも狩場に選ばないような、低レベルのフィールドだぞメサリー?」
メサリアは少し張りつめた視線を対向から感じた。狩人ミイルダがまるで獲物をとらえたかのように、睨みに近い視線を送っている。
「…… 滅多にないヴァルフからの提案だ。どこら辺がお勧めなのか言ってみろ。場所としてはヴァルキュディスへ行くよりも遥かに近くて好都合、目と鼻の先だ。近いに越したことはないからな……」
「はい… みなさん私が多少広域の感知魔法を使えるのはご存じですよね? …それでですね、最近どうもひっかかるんですよ。で、地図でみてみたらその場所にオルソリア島があって~」
メサリアはやや目を泳がせながら明後日の方角を向いた。
「…… つまり勘がそう告げているのだな、ヴァルフに」
「あエッ? あ、はい。ホント勘なんですよ勘!! 特にこれといった根拠でもないので」
「勘か、それは見過ごせねぇなぁ。みんなもそうだろ? 今までだってコイツの勘の良さに度々救われてきたからなぁ、何かがあるってことかよ」
再び大げさに考え込むそぶりをするナハト。
「…… ヴァルフ。先ほど狩場にお勧めと言ったな? 低位のモンスター以外が出るという確信があるような物言いだが?……」
「ま、まぁかなりそんな気がしてます。えへっへへ。はぁ…」
メサリアは、今度は泳いだ目をテーブルの上の茶菓子へと移した。
「メサリア姫がそう言うのであればそうなのでござろう。行って何もなければすぐ帰ってこれるだけの近場でござる。一度ぉ、そのっ、行ってみるでござるか!」
「あらあら、決定ですわね。ところで… 前から疑問なのですけれど、アーサー? なぜメサリアは姫でワタクシはお嬢なのかしら? その違いを聞きたいわぁ」(ウフフ)
「いや特にこれと言って意味はないでござる! 本当でござる!」
「あらあら、意味はないと言う割に強調してるところが、嘘くさいですわぁ、オホホ」
提案が通ってメサリアは内心ホッとしてため息をつく。
実は彼女のこの提案には本当の理由が隠されていた。ここからは魔王ジュピタリア・メイザーとしての知識である。
実は、オルソリア島のホールオブラナという巨大な穴は、時期にもよるがミストレムリアの深奥と繋がることがあるのだ。知られざる事実だが、穴の奥にはかなり貴重な鉱物『ミストクリスタル』がひしめいている。
ミストクリスタルは通称『転移クリスタル』と呼ばれ、文字通り『転移』に使われるものである。この転移クリスタルに覆われた穴の奥底が、時期と条件を満たすとミストレムリアの『ラズオラ山脈』にある『ゼガンゾラ深奥窟』へと繋がるのだ。深奥窟は文字通り奥にありすぎて辿り着けないような場所であり、深奥窟の前には『アインセラ・クリュヴス地下迷宮』という遺跡があるため、さらに辿り着くのは困難だ。
その深奥窟を住みかにしている魔物のレベルは最上位だが、天然の転移クリスタルが自然にテレポートできるのはその中でも低位のモンスターだけ。それでもレベルにして30後半から40手前くらいであり、人がやっと立ち向かえるレベルだった。
メサリアは知っていたのだ。人にとってはかなりの強敵になりうるモンスターがこの時期、ホールオブラナに現れるだろうと。
状況によっては封印をしておかねば危ないという危惧もしていた。何故ならば転移クリスタルの存在を知る魔人の手にかかれば、意図的に低位モンスター以外の魔物や魔人を転移させることも可能だからだ。
なんにせよ、チーム真紅の槍刃のレベル上げもできて、大穴の様子も確認できるので一石二鳥だということだ。
「それじゃあ、明日の朝6時には館を出るぞ。各自それまで自由にしてくれて構わない。俺ぁー寝るわ」
「ワタクシも今日は疲れましたわ。寝ることにします」
ナハトとクオリアが一緒に部屋を出て行く。
「我輩は久しぶりに読書でもするでござるかなぁ。最近なかなか読書タイムをとれぬでござる」
「……………」
「私も湯あみして寝ますねぇー」
間抜けな顔で大きなあくびをするメサリア。とりあえずは、色々と乗り切ったことを彼女は実感した。
真紅の槍刃の面々は各自の部屋へと解散する。明日のオルソリア島の訪問は彼らにとっては遠足のような気軽な気持ちのもの。
よって、このときはまだ誰も知る由もなかった… それが、歴史に残るような大事件の前触れであるということを……
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キャラクター紹介② クオリア・オッドニッサ