1.真紅の槍刃(しんくのそうは)
小説初心者ですがよろしくお願いします。序章全7話構成を順次投稿、新章は序章よりも長めの1話構成で順次投稿いたします。更新遅めです。イラスト画像と共にご想像していただければ幸いです。
「聖女」とは… 世界を牛耳る神聖クラウディア教会。その始祖クラウディアと、彼女が得意とした神聖魔法を習得したごく一部の選ばれし魔女たちのことである。
1・真紅の槍刃
聖女メサリア・ノア・ヴァルフにはとある悩みがあった…
本日、ラナトリウス宮殿では国の名誉ある「勇者御一行」任命の儀があり、冒険者から選ばれた「真紅の槍刃」というチームが国王に呼ばれていた。
メサリアは、その5人構成チームにセカンドメイジ(第2魔術師)として所属する。世間からすれば荷物持ちにも近いサポート職だが、勇者御一行のものともなれば意味も違ってくる。
幼い頃から栄えあるクラウディア教徒として育てられ、聖女としての修行を積んだメサリアは列記とした神聖魔法使い。魔王軍との戦闘にも欠かせない役割をもつ。だがしかし…
メサリアは半ば放心状態だった。これから勇者御一行に命じられる彼女は、今朝になって思い出してしまったのだ。
_____自分が、転生した伝説の魔王「ジュピタリア・メイザー」だったことに_____
-------------------------------------------------------------------------------------
[ラナ王国 王都アルカナ ラナトリウス宮殿 玉座の間]
「うそ…でしょ?…」
メサリアは周りに気付かれない程小さい声で呟いた。床を見つめるその目は、大きく瞳孔が開かれていた。
《ゴツン》
不意に頭を小突かれたメサリアは我に返る。見上げるとそこには冒険者チーム「真紅の槍刃」リーダーの「ナハト・レイラルド」がいた。赤毛短髪のランサー(槍使い)で拳法も得意とする彼は、自慢の筋骨隆々の身体がところどころ露呈しており、いかにも冒険者らしい風貌をしている。
「なぁに呆けてんだメサリー。そろそろ国王様が来るぜ? 緊張して昨夜眠れなかったのか? アッハハハ!」
陽気な笑顔で話しかけるナハトは、未だに幼い頃からの呼称でメサリアのことを呼ぶ。2人はクラウディア教の孤児院出身でいつも一緒だった。4つ年上のナハトをメサリアは兄のように今でも慕う。
「それとも何か? 今朝の騒ぎでおかしくなっちまったのかぁ??」
「な、ななななんでもないよぉナハっち。少し考え事!」
メサリアは明らかに挙動不審だった。それも仕方がないことなのかもしれない。彼女はかつての魔王で、目の前にいるのは任命前とはいえ紛れもない勇者なのだから。
そんな様子を隣で伺っていた魔女がクスクスと笑い出す。メイジハットを被った如何にも魔法使いという風貌のお姉さまで、たわわに実った胸元を隠さず、首にはマジックアイテムの宝石をいくつも括っていた。
ファーストメイジ(第1魔術師)である彼女『クオリア・オッドニッサ』は神聖ウルバニア公国、聖都アリエスの魔法女学院へ留学していた優等生だ。神聖魔法使いの聖女であり火炎魔法も使いこなす彼女は、ナハトと並んで真紅の槍刃の主戦力といえる。
「メサリアはセカンドメイジなのですから、ワタクシに任せてのんびりしてなさいな。その代わり、いざと言う時には手伝ってもらいますわよ」
『言えない! 私の方が圧倒的に強いだなんて言えない!!』
メサリアは言葉を返せなかった。それもそのはず、彼女はクオリアが足元にも及ばない魔力を秘めていたのだから。彼女は無意識に感じていた、前世の記憶に目覚めた時かつての魔王としての力も同時に目覚めたことに。
ランサーと2人のメイジの他にもう2人、アーチャー(弓使い)のミイルダ・ドイトルとシルドウォーリア(盾戦士)のアーサー・ユングリット、計5名で真紅の槍刃は構成されている。5人で王宮の玉座の間にて国王を待つ間、メサリアはただただひたすらに状況把握を試みる…
-------------------------------------------------------------------------------------
メサリアとしての知識によると、この世界における最強魔王と最強勇者の戦いがあったのが今から500年前の話。
あらゆる強力な魔法を使いこなせたとされる『因果法帝ジュピタリアス』こと『魔王ジュピタリア・メイザー』と、人間離れした神聖剣の使い手『勇者フレイダ・ディアステラ』は人界の外『魔大陸』の奥地、魔王城にて相打ちになったとメルファーバー伝記に記されている。
この戦いにおける勇者ご一行唯一の生き残り『技法師メルファーバー』は魔王城の直前で、勇者から人里へ情報を持ち帰る任務を託されたが故に伝記が残っているとされる。しかし、伝記に記された内容と実際の結末は異なった…
メサリアの蘇りし記憶によれば、激闘の末、瀕死状態になった魔王と勇者は身動きがとれず、魔王は最後の一手である転生魔法を発動。寸前で力を振り絞って近づいてきた勇者フレイダもろとも転生陣にて巻き込んでしまう、という結末だったはずだ。
だったはず…というのは、その時の記憶は曖昧で、メサリアは転生したという事実だけに確信を持てる状態であった。
「もしかして勇者さまも転生してるのかしら?」《ボソッ》
そう疑問を呟いて、メサリアはふと気付く。そうなると、不思議なのが彼女の人格だ。彼女は魔王ジュピタリアの記憶に目覚めたあともメサリアとしての人格のままだ。人間としての思考回路のままなのである。しかし、自分が魔王ジュピタリアであるという確信を持っている。おまけに魔王の膨大なマナ(魔力)もセットでついてきた。
転生魔法は魂を上書きする魔法。メサリアはこの17年間、無自覚で魔王ジュピタリアの魂で生きてきた『人間』だということになる。
-------------------------------------------------------------------------------------
メサリアは今朝の出来事を思い出した。この世界には獣化魔法というものがある。前世の記憶を取り戻した彼女は試しに『上位獣化魔法アニマフレア』を使い、生前の魔王の肉体に変化できることを確認した。しかし、それからが大変であった。先ほどナハトが『朝の騒動』と言っていたことである。
変身自体は上手くいったが、道行く勘の良い人々は恐ろしい気配に畏怖し、膨大なマナを感知できる者は「あの建物の中にとんでもない化物がいる!」だの喚き、遂には宮廷守護騎士団直属のオズマ・リューベルト魔導元帥が彼女の部屋へと駆けつけた。
直前で変身を解いたメサリアの容姿は元に戻っていた。
「きっ、君は確か真紅の槍刃のセカンドメイジの… 今ここに魔物とかはおらぬかったかね? 凄まじい気配が…」《ジーッ》
「…うむ、凄まじい気配じゃの」
「いません! は、はやく出てってくださいっ!///」《バタン》
メサリアは全裸だった。獣化する際の両翼の出現などにより衣服はボロボロになることを彼女は知った。普段はケープに隠されている彼女の実り過ぎた乳を、初老の魔導師に凝視されて恥ずかしさが募る。
-------------------------------------------------------------------------------------
『ど、どどどどどどうしよう!?!?』
メサリアは目を泳がせながら思考を巡らせる。
ポジティブに考えれば、これからの魔王討伐においてかなりのアドバンテージになる状況ではある。メサリアの思考は人間側、魔族への同族意識も多少あるが問題にはならない。
それに詳細は分かっていないが、現代の魔王は最近になって頻繁に人界へと魔王軍を侵攻させてくるようになった、とても危険な魔人だ。近年各国で行われている勇者の召集や任命はこれらを起因としていた。
対するかつての魔王ジュピタリア・メイザーは無闇に人界を侵攻するようなことはしなかったはずだ。強き者との戦闘を、ただひたすら純粋に求めていただけであった。
「おいメサリー… メサリー!聞いてんのかぁ?」
「あ、ご、ごめんナハっち。何かしら?」
「寝ぼけてんのかぁ? 任命式が終わったから一旦ギルド本部に戻るぜ」
「は… え゛っ!?」『任命式が終わった?? 国王は?? えええぇ~…』
-------------------------------------------------------------------------------------
[王都アルカナ 冒険者ギルド(夜光の祭典)]
ラナ王国のギルド本部はいつにも増して賑わっていた。本日ギルドから選ばれた冒険者チームが国王認可の勇者ご一行に命ぜられたからである。真紅の槍刃の帰還とともに、館内は声援に包まれた。
「おおおお! 勇者ご一行様だ!」「キャー!! ナハト様よ!!」「クオリアお姉さま!!」
冒険者のギャラリーがあれこれ祝福の言葉を投げかける。
「ったくお祭り騒ぎの好きな奴等だな。本部をこんなノリにしやがって、まったく」(///)
「まぁまぁまぁ、嬉しいですけれども、照れますわねぇ…」(///)
普段は堂々とした振る舞いのナハトとクオリアも、この熱気の渦中とあらば流石に照れるのだろうか、顔がほんのりと赤味がかっている。
「……」
「凄い熱気でござるなぁ」
2人の後ろからは、革の帽子を深く被った寡黙な男ミイルダと、独特の口調と大らかな性格をした大男アーサーが続いた。メサリアはアーサーの巨体の後ろに隠れながらギルド本部へと入館を果たす。
少しして、ロビーにある2階への正面階段の中腹あたりに陣取る一団から1人、高身長で長い白髪の騎士風の男が近づいてきた。チーム『宿命の杯』のリーダー『ライファー・クラウン』だ。
「ライファー、お前も来てたのかよ。宿命の杯のメンバーも勢ぞろいとは」
「来てたのかとは水臭いですねナハト。同じギルド(夜光の祭典)に所属するAランクチームで数少ないプラチナハンター同士の仲ではありませんか。僕からも祝辞を。嬉しく思いますよ皆さん」
「あんがとよライファー。まぁ任命ってだけで、することは今までとそこまで変わらねぇ。他の冒険者と共に依頼をこなし、魔物を討伐し、特命とあらば魔王軍に立ち向かうだけさ」
やや鼻の下を伸ばしながら得意げに語るナハト。
「フンッ、良いご身分だなレイラルド。さっそく勇者様きどりか? お前等プラチナごときで仲間ごっこたぁ呆れる」
正面階段の裏の方に身を潜めていた荘厳な雰囲気の大男がゆっくりと近づいてきた。冒険者ギルド(夜光の祭典)唯一のクリスタルハンター『漆黒のゼネス』は渋面を保ったままはせ参じた。
「二つ名持ちのゼネスのオッサンまで来てるたぁ驚きだ。相変わらず手厳しいですね」
「フンッ、二つ名なんざそれなりの固有スキルや知名度があれば勝手につくものだ。そこの宿命の杯の『破錠のクレステル』のようにな」
《ヒッ》
ゼネスにひと睨みされて、階段中腹の集団にいた栗毛ブロンド三つ編みの少女が身体を震わせた。彼女『クレステル・ユグドラ』はゴールドハンターでありながら、人ではほとんど扱えないとされる中位の封印魔法まで解錠できてしまうという、恐るべきアンロッカーである。彼女を前にしたら、人界のあらゆる鍵は無いに等しいだろう。
「うちの女の子をあまりいじめないでください、ゼネスさん。クレステルは我が宿命の杯が誇るメイジですからね」
「フンッ、すかしやがってクラウンの若造が。お前も筋は悪くないのだから、もっと堂々と胸を張れ!」
「こういう性分でして。しかし精進します」
ライファーがやや頭を下げる。
《ドンッ》
「ってッ! おい、オッサン!」
「フンッ、せいぜい何処ぞで野垂れ死なんように用心しろよガキども。浮ついて慎重さだけは欠かせるな」
大きく逞しい手でナハトの背中を叩くと、ゼネスは出口へと足を運んだ。出口へ向かう途中、後方にいたミイルダを見据え、それから目立たず控えめに身を隠している金髪ブロンドのマジックロッドを持った聖女をひと睨みする。
「貴様が今朝の…フンッ」
「ヘッ??」
意表を突かれたメサリアは間抜けな声を発し、何故睨まれたのかを慌てて考える。
『今朝のって言ったよね? 今朝のってアレ? まさか変身したときに何か感づかれた?? はわわわわ』
メサリアは慌てふためき、両手で口を覆った。ゼネスはギルド本部を出ると、外で待っていた3人組の元へと歩み寄る。
「おい、アレってまさか!」「なんだよまさかって、有名人か?」「お前しらねーのかよ!」
ギャラリーの冒険者たちが騒めく。
「ん? なんだオッサンの仲間か? 誰ともつるまないオッサンらしくねぇな… !?」
「あれは… 違いますよナハト、あの3人組は… 間違い有りません、剛雷の三騎士です」
ライファーがナハトに説明する。彼の常に細い目がやや見開かれた。
「剛雷の三騎士だと!? ってことはよ、アイツ等まさか…」
「はい。隣国ツバイエルスの勇者たちです」
-------------------------------------------------------------------------------------
キャラクター紹介① メサリア・ノア・ヴァルフ




