A.初体験は唐突に。
どれくらい歩いただろうか。数度の休憩と、木の実によるエネルギー摂取とスイカとキュウリの間ような瓜による水分補給を挟みながら進むこと数時間。川の幅はだいぶ狭く浅くなり、底が見えるまでになってきていた。
周りの景観は渓谷と言った感じで、低木と岩場が多くなっていた。
「ふぅ、休憩。そろそろ川の水を飲んでいいぞ。なにもいないようだし。だがすぐに戻ってくれ。何が起きるかわからない」
「うん」
「私も」
「おう、行ってこい」
取り敢えず、ルイが一番に思うのは、奇跡に近かったと言うことだろう。何せあの白蛇に睨まれて以来、どの生物とも会っていない。そう、野性動物とすらも。
寧ろおかしいとまで思っていた。子供三人、犬系の獣なら狙わない筈がない。体だって汗やら尿やらの匂いが必ず残っている筈だ。匂いを見つければ絶対追ってくる。
なのに、何故来ない。来る気配すらない。おかしい。
「なに難しい顔してんのよ」
「ん?ああ、すまない。少し顔を洗ってくる」
気分転換のつもりで顔を洗い、その後水を飲んで二人の元へ戻ると、二人はルイの顔を見て驚いたような表情をした。
「どうしたんだ?」
「左目のまわり…その模様、なに?」
「………」
嫌な予感がして、再度川の水面が穏やかな場所で、自分の顔を見る。
左目の周りに、蛇の姿を象ったかのような赤いタトゥーが刻まれていた。
「あの時か…ああ…くそ…」
顔を泥やなんやでペイントしていたため、今まで気づかなかったのだろう。落胆し、二人の元へ戻る。
「二人とも…すまない」
「謝る前に、その模様は、なに」
「………」
「マーキングだ。恐らくだがな」
「マーキング?」
「強いものが、これは自分の縄張りだとか食べ物だと、他の生物に示す為のものをマーキングと呼ぶ。そして、このマーキングは」
「そう、私のものよ。妙に聡い子ね、選んだ甲斐があったわ」
「っ!?」
ナイフと短剣を逆手にもち、二人を背に庇うように声のした方向へ移動する。
そこには、白い髪に赤い目をして、真っ白な肌にこれまた真っ白なワンピースを着た少女が立っていた。
「人!?」
「いや、こいつはあの時川原で見た大蛇だ」
「えっ!?」
「その通りよ。可愛い灰色のお嬢さん。とっても美味しそうね」
「ひっ!!?」
「ふふふ」
「すまない。詰んだ。人形に変体出きるということは精霊に近い存在か高位のモンスターになると思う。正直、時間稼ぎすらも出来ないと思う」
「ルイ兄…死ぬときは一緒がいい」
「ルイ、あの時助けてくれてありがと。どうせだから私も一緒がいいわ」
「二人とも…すまない…選択ミスだった…」
すべては上流へ目指した俺のミスか…。ああ、異世界ライフ、こんなところで終わるのか…短か
「ちょっと待ちなさい!」
った?
「「「??」」」
「勘違いしているようだけど、あなた達を食べるために刻印を付けた訳じゃないのよ?お嬢ちゃん、さっきはごめんなさいね?いたずらで美味しそうって言ったけど違うのよ?…美味しそうだけど。それはそうと私は土地神の一種よ。モンスターや精霊共と一緒にしないで。品格が薄れてしまうわ」
「なら、何故、その刻印?とやらを?」
「それはね、」
そして、消えた。
「貴方を気に入ったから」
後ろから抱き抱えられた。いや、抱き絞められた。
「!!?!?」
「やっぱり貴方、この世界の者じゃないわね。面白いわ。どんな世界にいたの?そこではどんな生物がいるの?私みたいな生き物はいる?」
「く…」
「く?」
「苦…しぃ…」
「あ…」
少女体型にもかかわらず、無駄にデカい乳房と絞めることに特化した生物の腕では、子供の体は堪えきれそうになかった。
「はぁ"、はぁ"、はぁ"、殺す、気か」
解放された時には、息も絶え絶えでまた死ぬかと思った。
「ごめんなさいね。人を抱き締めたことなんてなかったから、加減が分からなかったわ。絞め殺すのは得意なのだけれど」
「まぁ、いい。それで、なにを、聞きたいんだ?」
「そうね、さしより貴方の名前から聞きましょうか」
「ルイだ」
「貴方の記憶の名前は?」
「…川上龍士だ。龍士がファーストネームで川上がラストネームだ」
「そう、ならリュージ、今の貴方はどっち?」
「…龍士だな」
「ルイじゃなかったの?」
「どちらも自分だが、ルイはもうダメだろう。心が壊れている」
そう、この世界のルイという個人意識は、我家での蹂躙劇を目撃した時点で壊れた上に思考停止してしまった。ルナも正直怪しいところだ。
「あら、そうなのね、じゃあ本題。私のような土地神の仲間は、信仰を必要としなくても力が手に入る。でも、もっと力を得る方法があるの。何だと思う?」
大蛇の化身は、此方の思考力を試すつもりなのか本題に入ると言いながら質問してきた。
それで、どう答えるべきか…こいつの口振りからして、神と言うのは本来信仰を得ることで力を増すのだろう。ならば信仰ではなく人?いや、部下的な存在?となると…。
「…使徒…いや、眷属を持つことか?」
「大正解!土地神というのは、その名の通り土地の神。つまり」
「その土地から離れることが出来ない」
どうやら正解だったらしい。綱渡りも良いところだ。
「そう、土地を守るには土地神だけでは対処できない。それ故、強い土地神は、眷属をもち、手の及ばない場所の防衛と、土地の拡張を任せる」
まるで国のようだ。
「王が居て、土地を守る貴族が居る。どこも変わらないか」
「そう、変わらない。人も神も」
「と、いう事で、貴方は私の眷属になりなさい」
なにがという事でなのかさっぱりわからない。
「はぁ…、じゃあメリットを教えてくれ」
「メリット?」
「あー、こちらで言うと、俺が手にする利益だ。因みに不利益はデメリットと言う」
合ってるよな?もうだいぶ年月経ったから不安だ。
「そうね、身体が丈夫になって、土地神が有する能力が使える様になる。これは、眷属になった順番が早い者程、土地神と同等の能力を扱えるようになるわ。あとは、そうね、契約主が超絶美人な所かしら」
「いくら超絶美人でも、人を二人まとめて丸呑みにした大蛇の化身だと知っていれば恐怖しか湧かないぞ。それで、デメリットは?」
ほんとに、あれは、衝撃だった。
「無いわよ。強いて言えば、私からの命令に逆らうと呪いが発生するくらいかしら」
さらっとヤバいこと言いやがった!
「それをデメリット、と、言、う、ん、だ!」
「私、呪い効かない能力持ってるの」
能力はほぼ同等の効果が着くんだよな?って、打ち消しの効果になるのではないか?
「打ち消してどうすんだよ…」
「だって、何でも言うこと聞く輩なんて面白くないじゃない」
どうやら私的な理由もあったらしい…。
「…さいか。で、その契約とやらはどうするんだ?」
「あら?受ける気になったの?」
「どうせ、断ったら喰われる身だからな。なるしかないだろ。だから契約の仕方を教えてくれ」
「あら、よく解ってるじゃない。なにも難しいことでないわ、簡単な契りを交わすだけよ」
契りか…また物騒そうだな。
「血の盃とかか?」
「そんな物騒なことしないわよ、ただの交尾よ」
…………あえ?
「…………すまない。よく聞こえなかった」
「交尾よ。こ、う、び」
「嘘だろ」
「なに言ってるの。自然界で相手と交わるなんて交尾くらいしかないじゃない。というか貴方達人間とか万年発情期みたいなものでしょ。大丈夫大丈夫」
間違っちゃない。
「しかしだな」
「ええいめんどくさいわね。こうなれば強引にも」
此方の服を掴み、強引に脱がせようとする。
「ちょっ!推定10歳の体だぞ!」
「10歳にもなれば十分大人よ!」
そう、間違っちゃない。
「動物基準で考えるなぁ!」
「貴方も動物でしょ!」
正論で返された。
「そうだった!あっばっ!?そこ掴むな!つかお前ら見るな!!」
もはや全裸にされ、謎の拘束により体は言うことを聞かなくなり、蛇の化身は纏っていた服を消して、腰に股がり、ルイの生殖器を自分の生殖器に宛がおうとしている。
「み、見いてない!」
「…断じて」
妹ともう1人は手で顔を隠そうとしているが、全く持って隠れきれていない。二人の目には、これから行われようとしている行為に興味しか抱いていなかった。
「大丈夫。私も人間とは初めてだから」
「それは大丈夫じゃないやつだ!」
「はい。いただきまーす」
「いやだーーーーー!!!」
その日、1人の子供が大人になった。
「最初はともかく、2回目からはとても良かったわよ?」
「……………4回もする必要あったのか?」
あれから、ルイは人間の越えてはいけなかった一線を越えてしまっていた。
「ちょっと興が乗っただけじゃない。蛇の交尾なんて、ただ苦しいだけよ?それに比べたら人間の交尾は何度もシたいくらい気持ちいいわね」
野生動物に初めて恐怖を覚えた。
「……勘弁してくれ」
「その願いは却下♪さて、そのまま寝てて。そうそう、そのまま動かないで」
些細な願いは却下され、事が終わったそのままの体制で、タトゥーがある左目に手の平を置いた。
「我、流澪之白蛇水神ハ、神児ルイトノ契リニヨリ、神主ト成ラン。我ハ人ヲ象リ、神児ルイヲ寄代トシ、我万象ヲ与エン。以上ヲモッテ、契約ノ証トセン」
ナガルミオノハクダミズノカミというのが、この化身の本名なようだ。
「……」
「終わったわよ。自分の顔を見てみなさい」
上に乗っかっていた白蛇が身体を退けて、自分の顔を見るよう言っていくる。
「刺青の様になっているな」
赤かったタトゥーが刺青の様に左目の周りを描いている。
「そう、これで貴方は私の眷属となった」
「ああ、それはいいんだが、そこの二人はどうするんだ?」
ついでに汗と性液まみれになった身体を川の水で洗いながら白蛇に話しかける。
「そうねぇ…本来は食べちゃうんだけど、青黒い方は貴方の肉親なんでしょ?」
「ああ、妹だ。そっちの灰色の方は、成り行きで助けた少女だ」
「なら食べるのは勿体ないわね…。貴方の交配者としてつかったら?」
確かに蛇との間には子はできんしな。
「しっかし何年先のことを言ってんだよ」
「…?今からでもいいのよ?」
哺乳類の受胎とか言ってもわからんよな。
「嫁にするにしても、せめてあと5年は欲しい。じゃないと子供はできん」
「嫁…!?子供っ…!?」
なぜルナが反応するんだ。妹だろお前。
「私はともかくルナはルイの妹じゃない」
流れでそうなっているが、リリスはいいのだろうか…。
「…?兄妹で交尾するなんて普通じゃない?人間界では違うの?」
流石に爬虫類はそこら辺気にならないか。
「血が近すぎると子供に異常が出るんだよ。虚弱になったり色素欠乏になったりな」
「「「???」」」
俺以外が首を傾げる。
「あー、だめだこりゃ」
その日は、動くことを断念して寝ることにした。