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A.逃げるが勝ち。



やはりロープは持ってくるべきだった。


今更後悔しても、もう戻れない。


違和感を感じて少し後ろを見ると、かなり疲れた様子の妹が息を切らしながらよろよろと歩いて来ている。


「ここらで少し休もう」


「はぁ、はぁ…うん」


背の高い草群に移動し、真ん中付近にドーム型の窪みを作って腰を下ろす。


「…………」


「はぁ……はぁ…………」


自分も疲れているが、妹の方が消耗が激しい。ここ数日で起きた事によるショックが大きすぎたのだろう。


「ちょっとこい」


「…?」


妹を手招きしてこちらに近づけさせて、その頭を抱き抱えるようにして座らせる。


「泣いていい。だが静かに泣け。本当に大丈夫になったら大声で泣くのを許してやる。だから、それまで我慢しろ」


「うん…ぅん…ぅ…ぅぅ…ぁ……」


数分程泣いていた様だが、気付けば寝息をたてて寝てしまっていた。相当心身共にキていたのだと見ていてわかる。


「はぁ、思ってたのと違うなぁ……はっ」


気付けば今更な呟きが出てしまっていた自分に苦笑し、妹を横に寝かす。


「さて…食料探しか…」


とにもかくにも腹が減った。出来るだけ音を立てずに草むらを出て探索に出る。



少しの探索で、栗っぽい何かと林檎っぽい果物を見つけた。キノコの類いも見つけたが、食中毒が怖かったので放置してきた。果物は数個ほどに抑え、もと来た道を辿って休憩地に戻る途中だった。


「イヤーー!」


女のような高いトーンの叫び声だ。だが、妹の声ではなかった故に、他の逃げた子供だろうと判断した。一応様子を見に行ったが、ちょうど自分と同じくらいの女の子が、逃げ出した正規兵の一人に捕まっていた所に出くわした。


急いで身を隠し、その場で警戒する。どうやらその正規兵は一人で逃げ出したらしく、周りを確認したが他の兵はいなかった。


捕まった女の子は虚しい抵抗を繰り返していたが、結局物理的におとなしくされた。そして、兵は何を思ったのかおもむろに服を掴み破り捨て始めた。奴はこの期に及んでまでその女の子を性処理に使うつもりのようだ。


抵抗すら出来なくなったうえに素っ裸にされた女の子は、諦めたかのように涙を流していた。


どうやら、自分にも人の心はあったらしい。事を成そうとするその瞬間、出来るだけ視覚に入らない様に後ろから飛び出した俺は、帝国兵の右横に回り込み、ナイフを持った右手を思いっきり上に突き出した。


手に持っていたナイフは、低身長の自分が届きうるやつの下顎の下から恐らく脳まで貫いていた。


子供の力とはいえ、鍛えにくい下顎(かがく)の下付近は筋繊維が少ないためにすんなり入っていった。




俺は、初めて人を殺した。




ドサッっと音を立てて倒れた死体から、血塗られたナイフを引き抜いたまではいいが、アドレナリンが切れた手には力は入らなくなり、身体の震えと、吐き気が込み上げて来た。立って居られなくなり、胃液を出してしまっていた。


そして、手に残る、他の動物を切った時とは違う、確かに何かを簒奪して、自分の何かを喪失したような感触。


手にべっとりと着いた赤い血、思わず泥で落とそうと地面に何度も擦り付ける。


そんな時、不意に腕を捕まれた。


瞬間的に身体が硬直し、再びアドレナリンが出だす。


殺していなかったかと目線だけで確認したが死体となったやつは動こうとしない。


では新手かと側に落ちたナイフを空いている手で即効拾い上げ、手の位置から主の首もとがあるであろう場所に検討を付けた。だが、ナイフを振り上げようとして気づいた。


細すぎて白い。掴んでいるのは、女の子の手だ。


顔を上げると、先程強姦されかけた女の子の顔がそこにあり、恐怖と好奇心の混じった複雑な顔して此方を見ていた。


「その、あたしは兵隊じゃない。あと、助けてくれて、ありがと」


「いや、いいんだ。それより、急いでここから離れないと…」


「ついていっていい?」


「……構わない。だがその前に服着ろ」


「もういいわよ。二人だけだし」


「なら知らん。こいつは…うっぷ、…武器だけ貰って放置でいいか」


少々気分が悪くなりながらも、腰に履かせてあったサーベルっぽい剣と短剣…、サーベルは重いので捨てて、短剣とその他小物を身につけほぼ全裸+αの女の子を連れて休憩地に戻る。


「ルナ、起きろ」


「ん……ん!?」


目を開けて周囲を見回して変態の方で目線が止まり、何かヤバい物を見たような顔をした。まぁ、起きたら兄の側にほぼ全裸の女の子が立っていた。驚くのは当たり前だろう。


「そこの変態は」


「だれがへむぐぅ」


反発しようとしたが、口を手で押さえられた。


「まだいるかも知れないんだぞ。大声出すな。もう一度同じ目にあいたいか?」


「ごめんなさい…でも納得できない」


「自分の姿みて言え。それでだ、この…誰だっけお前」


「え、今…?リリスよ」


「……そうか」


とある婬魔を思い出してしまったのはしょうがない事だと思う。


「ちょっ!……何よ今の変な間」


また大声が出そうになったようだが、慌てて小声で話す。


「そうだな、安全になってから話す。ルナ、このリリスはオプション…あー付属品じゃない…えーと、モルト(鴨)の雛だと思え。いいな」


「…わかった」


「わかってほしくなかった…って、あなたはなんでこっちをじろじろ見てるのよ!」


「いやなに、今気付いたんだが、お前の肌白くて目立つな…俺の上着貸すから着てろ」


彼は上に二枚着ていたらしく、その上に着ていた緑や茶色でごっちゃになっている服を脱いでリリスに渡した。その後、下のもう一枚も脱いでその辺の草や土を擦り付けて、上着と同じような模様にし、それを再度着た。


「………………」


「…ありがと。え、えと、ルナ…ちゃん?さん?目が怖いのですが」


リリスは、渡された服を着終え、自分の方を見ながら『なんでお前が兄の服を着てんだよ』と言いたげな、物凄い冷めた目で見てくるルナに気づいた。


「あのう…」


「駄弁ってる時間はない。急ぐぞ。腰を屈めて、静かにな」


「「わかった」」


そして、樹海の中を三人は進む。







再び歩き始めてから2時間は過ぎただろうか。俺は大丈夫だが、女の子の足だと辛いのだろう、二人のペースがだんだん落ちてきた。


「休憩しよう」


「「うん」」


息も絶え絶えな二人を止まらせ、前回と同じように出来るだけ背の高い草むらに隠れる。


「夜の事を考えて少し寝る。俺達以外の物音が聞こえたら起こしてくれ」


「わかったわ」


「じゃ、頼むぞ…」


最近眠れていなかったのかすぐにブラックアウトした。




「………………」


「………………」


「ええと、ちょっといい」


「………なに」


1時間程無言のまま過ぎたが、場の空気に限界を感じたリリスがルナに話しかけるが、彼女の目はかなり冷たい。


「あー、うん。この人の名前教えてほしいなーって」


「……ルイ」


ルナのまだ聞いてなかったのかよと言わんばかりの雰囲気に、だってそれどころじゃなかったしと思うリリス。


「えーと、その、ありがと。それでね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「…なに」


「彼…えと、ルイは、いくつなの?」


「…10歳くらい」


「ホントに?」


「ホント。私よりいっこ上。私8歳」


「あたしと一緒か…一緒なのに…なんでこんなにおかしいの?」


普通の10歳なら、リリスと同じく何も考えずにうろうろしてしまうだろう。


だが、彼は敵に出来るだけ見つからない様に服や肌に泥や草の汁を塗り着け、周りの景色に自分を合わせている。更に言えば、兵士を殺した時にも、犯される直前の完全な隙ができるまで待っていた印象がある。ナイフの刺し方だって、一番柔らかい所を知っていて刺したみたいだった。…人を殺したのは初めてだったようだが。


同じ10歳とはいえ、異常と言ってよかった。


「前から…こんな感じなの?」


「ルイ兄は、いつもお面をかぶっているみたいだった。でも、戦争に来てから、そのお面が取れた」


「お面…お面ね…。そうかもね」


「…で、なんではだかでルイ兄と来たの?」


「え?」


「ルカ姉達みたいに私のルイ兄と子作りしてたの?」


「ち、ちがうの!たまたま成り行きで服が無くなったの!」


「………………」


「おい、声がデカい」


「っ!ご、ごめんなさい」


ちょうどルイがのそりと起きてきた。


「ルイ兄」


「どうした」


「この女と子作りしたの?」


「………おい」


ある程度理解したのか、ジト目でリリスの方を向くルイ。だが、リリスは物凄い勢いで首を横に振る。


「はあぁ、残念ながらこいつとは何も無かったぞ。帝国兵のバカに犯されそうになっていたところを助けたんだ。服を着れとは言ったが、こいつそのまま付いて来たからな」


「………」


またしても冷たい目で見られるリリス。


「ええ…と、ごめんなさい?」


「謝罪はいい。それより静かにしろ………………………よし、行くぞ」


ルイはそう言うと、周りに気を付けながら進んでいく。


「一応聞くけど、何処に向かってるの?」


「まず、川か湖がある場所を探す。これだけの樹海ならば、どこかにそれを賄えるだけの湖もしくは大きな川がある筈だ。川を発見した場合は、上流へ向かう。湖の場合は、湧水がある場所を探す。これでいいか?」


「うん?うん。分からなくなったらまた聞く」


「そうしてくれ」


そう言って黙々と歩く。




数時間歩き、一行は比較的大きな川に着いた。


「近づくな!」


川に近づこうとしたリリスに、ルイは慌てて注意を促した。


「どうして?」


「これだけ大きい川に何もいないとでも思ったのか?」


「あっ!」


そう、ここは異世界だ。日本の川なら別に近づいたところで何もいないのは分かっているが、ここは限りなく自然に近い場所だ。今まででも、野性動物は数匹いたが、どれも草食だったので特に問題は無かったが、川の側だとそうもいかない。水飲み場と言うのは、狩場と同じなのだ。


「水を飲みたいのは分かるが、我慢してくれ。それと、せっかく拾った命だ。助けた事を無駄にしないでくれ」


「…ごめんなさい」


「分かればいいんだ。では、当初の予定通り上流へ向かう。いいか?わざわざ上流へ向かうのには意味がある。上流は水が少なく、大きな生物にとって住みにくい地形であることが多い。逆に俺達子供ならそこまで気にならない。これを利用する」


「そう、うまくいくの?」


「わからない。だが、下流よりマシだ。特にモンスターと言うのは、人が住んでいる場所に集まってくる。人間は集団で襲えば大抵狩れるからな。その周りにある縄張りを通り抜けるなんてごめんだ。リスクを考えたら上流が勝った。それだけだ」


「ねぇ、ルイって元貴族なの?」


「……は?貴族がこんな所にいるわけ無いだろ。没落したとしても貴族が生きていけるわけ無い。身売りにされるのが落ちだ」


「でも、学舎とか行ってないとそういう難しい考え?って出来ないと思う」


「そうか…リリスがこの世界の一般だった…」


「「??」」


二人の目の前で、ルイは急に頭を抱えだし何かやってしまったというような感じでぶつぶつ言っていたが、すぐに立ち直り歩き始めた。


「これについては後で話す。とりあえず行くぞ」


またしても耐久の歩きが始まった。





「っ!とまれ!しゃがめ!」


上流へ向かい始めてそう間もない時間に、急に小声でルイが止まるよう促した。


「ど、どうしたの?」


「帝国兵だ。川原にいる」


二人が川原を見ると三人の帝国兵が川に近づいているところだった。


「……見ておけ。とくにリリス」


「う、うん」


喉が渇いたのか、帝国兵達は川に近づき、水を飲み始めた。


そして、大きな波しぶきと共に、一人が川に消えた。他の二人も川から上がろうとしたが、川から出てきた大きな白い大蛇に巻き付かれ、二人ごと物凄い音を発てて絞め殺された。そして、口の中へ。


「やはりいたか。ちゃんと見…」


「う…うぇ…」


「ううう…」


横を見ると、堪えきれなかったのか二人とも戻してしまっていた。


「悪かった。どうなるかわかってほしくて見せたが、刺激が強すぎたな」


二人の背中を摩りながら謝る。ルイは、人を殺した時よりはまだ大丈夫だったので、多少ショックは受けたもののまだ耐えられた。


ふと、再度川原を見たときだった。


「!!?!?」



白い大蛇の赤い二つの目がこちらを視ていた。


ルイは全身硬直し、毛が総立ちになり、死を覚悟した。



だが、大蛇は興味を失ったかのように川の中へ戻っていった。


「っ!っはぁっはぁっはぁはぁはぁ…はぁ…。行こう」


やっと止まっていた呼吸を取り戻し、共に落ち着きだした二人を促す。


「蛇に睨まれた蛙…か…」


ルイはそう呟き、二人を連れて歩き始めた。




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