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A.物語はだいたい悲劇から始まる。



異世界転生。そう、字面だけなら華やかで今より充実した優しい世界が待っているって、ファンタジー好きな人はそう思うだろう。




転生する前、俺だってそう思ってた。





「いや"ぁああああああやめてぇええぇ"あ」


「オラオラもっと泣け!ハハハハッ!」


「くぞっ…ぐぞぉぉおおお」


「ハッ。ただの農民が俺ら帝国兵に逆らうからいけねぇんだ」


「次俺の番だからな。壊すなよ」


「わーってるって。オラ!」


「あ"あ"ッ」


目の前で母親と姉が犯されてるのに、父親と兄達が血だるまになって転げながら泣いているのに、前世の記憶が戻った俺は、まるで他人事(ひとごと)の様にその様子を眺めていた。









異世界。勿論最初はウキウキしていた。神様から異世界転生ですおめでとうございます!なんて言われて、浮かれていた。


前世で自己満足ではあるが小さないいことを積み重ねていたことが評価されたらしい。


ただ、前世の記憶はほぼ凍結されるし、転生先と異世界でいうスキルこと恩恵もランダムらしくて、成功ルート一直線ではないらしい。


だが、それではクレームがつくらしいので、多少いい方向に向くようになっているらしい。神界も人の会社と一緒である。


そんなわけで、転生したはいいが生まれ落ちた先は、平民より地位の低い農家。


しかも格差社会まっしぐらな中世の帝国そのままな国。農家なんぞに人権なんて無いに等しい。


そんな農家に産まれた三男が俺。女二人男三人の末っ子。計画性という言葉も知らないし、考えにも至らない農家では、子を産むこと=労力の増加になるので、ポンポン産む。精々男女合わせて5~7が普通だ。


(うち)は男が三人産まれたので、もう必要無かったらしいが下にもう一人女の子が産まれた。両親共にまだ若いので性欲は押さえられなかったのだろう。


結局、両親が落ち着くまで8人まで産まれた。まぁ、7番目と8番目は冬を越せずに鳥のご飯になったが。


3歳になると、農業の手伝いをさせられ、5歳にもなると大人達と本格的な農業をすることになる。


朝日が昇ると同時に起床し、夕日が沈むと寝る。そんな単純なサイクルで回っていった。


その間何もしなかった訳ではない。農業をしながら必死に、計算と国語、言葉を覚えている範囲で復習した。自分が転生者であるということを忘れないために。日本で生きていたことを忘れないために。




10歳の頃だ。隣国と戦争が始まった。


この世界での人格が崩落したのか、凍結されていた筈の記憶と日本人としての人格が溶けだした。


初めて戦争というものを 見た。


元日本人だったために、戦争を知らなかった。いや、知っていても体験なんてしていなかった。


だから、呆然と立ち尽くしていた。


悲劇と言って終わらせていいのだろうか。しかし、この世界でも頻繁に起こっていたことのひとつでしかない。




因みに、家を襲っていたのは味方の軍で、徴兵と食糧の徴収目的で来ていたらしい。


上の兄二人は雑魚兵、所謂正規兵の肉壁とされる部隊に入れられ、俺と妹は少年兵と言われる、所謂人形爆弾にされた。


姉二人は言わずもがな軍の性欲処理の道具にされた。


媚薬を飲まされ、他の女達と一緒に自分から快楽を求める様に股を広げる姉を見て、簡素すぎて防具とも呼べない皮の鎧を着て連れ去られる兄達を見て、周りの子供達と妹と寄り添って死を待つ自分をみて、もう戻って来れないのだなと、やはり他人事のように思っていた。





結果から言おう。戦争は恐らく2週間程で終わったと思う。そして、少なくとも俺と妹は生き残った。


なににしろ相手の軍が強かったのだ。そして初めて魔法を見た。炎の魔法だったのだろう。兄達がいる筈の雑魚兵達が蒸発した。その一帯だけが、写真や絵で見た原爆を落とされた後の様にまっさらになっていた。


それを見ていた正規兵達が急に逃げ出したのだ。俺達子供達を置いて、ご丁寧に爆発物らしきもの置いて。


夜営地は丘の上にあり、下に見える草原での激突だった。夜営は丘の森をコの字に切り開いた所に建ててあり、後ろは森というよりは樹海と言った所だ。


勿論ファンタジー世界な訳でモンスターもしっかりいる。だが、俺は迷うことなく樹海へと逃げ出した。勿論妹も連れてだが。残りの奴らは自己責任と無理矢理に思い込み、樹海の奥へと逃げた。


数時間経って、少し遠くで爆発音が聞こえたが、追っ手が来ることはなかった。と言うよりも、先に逃げた正規兵達に見つかる可能性があった為に、休憩がてら服に泥と葉っぱを擦り着けて簡易的な迷彩服を作って回りに気を使いながら逃走を続けた。


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