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深淵を知る者  作者: Gary
日々との決別
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交渉の行方

 ザレン教授との邂逅かいこうで、僕の論文が狙われている事が解った。

噂の出所は見当がつかないが、確実に彼は僕の論文の事を知っているのだろう。


 師匠を探して駆け回るうちに、僕の不安は膨れ上がる。

果たして、論文を狙っているのはザレン教授だけなのか?

講師全員が狙っているのではないか?

もしかすると学院全体が狙っている可能性も考えられる…。


 僕の疑念はとどまらず、目に留まる人全てを警戒するようになっていた。

早く師匠を見つけなくては…。

焦れば焦るほど、僕の思考は最悪の事態を想定して行く。


 夕日が地平線に沈みかける頃、人気のない校舎裏で、僕は足を止めた。

そこには、不敵な笑みを浮かべるザレン教授が待ち構えていた。


「おやおや、こんな所にいたんですか?ファクト君。随分探しましたよ?」


「僕に何か御用ですか?」


 そう言って僕はジリジリと後ずさる。


「おっと、動かない方が賢明ですよ!」


 僕の位置からは見えない壁の死角から、教授は何かを引き寄せる。


「きゃっ!」


 聞き覚えのある声…。

僕は教授に羽交はがい絞めにされたリザの姿を見て、戦慄した。


「リザ!!」


「正解です、ファクト君。さて、私は君と取引がしたい。」


「取引…?」


「そうです、大人しく、従順に、素直に、応じてくれれば、私は彼女に危害を加えるつもりはない。」


「どんな取引ですか?」


「どんな?それはファクト君も理解していると考えているが、どうかね?」


「論文…ですか?」


「そうだ、正解だよファクト君!それで、取引には応じてくれるのかね?」


 そう言って彼はリザの頬に舌を這わせた。

リザは苦痛の表情を浮かべ、僕を見つめている。


「ファクト君お願い、助けて!」


「止めて下さい!彼女から手を放して下さい!」


「おやおや?取引には応じる気がないのですかな?」


「分かりました…。応じます!だから彼女を放して下さい!」


「論文が先ですね。さあ、早く、急いで、迅速じんそくに、論文を渡しなさい。」


 僕は背負い袋から論文を取り出す。

人質に取られた彼女を助けるためには仕方がない。

こんな事なら師匠の忠告を聞いて破棄すべきだっただろう…。

今更そんな事を後悔しても遅すぎる。


「これが、僕の論文です!」


 僕は取り出した論文を、ザレン教授に見えるように掲げた。


「ふむ、では地面に置いて下がりなさい。おかしな真似をしたら、どうなるか分かりますね?」


 僕はゆっくりと論文を下ろし、膝を曲げた。


「待ちな!」


 その時、背後からの師匠の声が僕の動きを止めた。


「その論文は危険な物だと忠告した筈だぞ。そんなやからに渡すなんて、もっての外だ!」


「ほうほう、この娘がどうなっても構わないと?」


 そう言ってザレン教授は、リザを抱える腕に力を込めた。


「ファクト君、そんな素性も分からない人を信じるの?」


 ザレン教授に首を絞めつけられたリザは、苦しそうに僕を見つめている。

僕はリザを助けたい、しかし師匠はリザよりも論文が教授に渡るのを阻止するだろう。

僕はどうすれば良いのか分からなくなってしまった…。


 いや、先程リザは師匠の事を「素性の分からない人」と言った。

確か、師匠が魔術研究機関から来たと僕に教えてくれたのは、リザではなかったか?

それに、師匠は「私が魔術研究機関から来たなんて、どっから聞いたんだー?」と言っていた。


 つまり、師匠が魔術研究機関から来たという事は、院長とごく一部の講師にしか公開されていないと考えられる。

リザが知り得る事が出来ない情報だという事だ。


 リザは師匠の来歴をなぜ知っていたのか?

そして今、なぜ素性の分からない人と言ったのか?


 それは、リザが講師とつながっているから。

リザは初めから僕の敵だったのだ…。


「リザ、君はこの学院で唯一の僕の味方だと思っていたよ…。」


「ファクト君、何を言って――」


 僕はタトゥーに刻まれた炎の術式に魔力を込め、論文に火を点けた。

燃え盛る炎は論文を焦がし、灰が舞い踊る。


「おやおやおやおや、なんて事をしてくれたんだね君は!愚かにも、浅慮せんりょにも、蒙昧もうまいにも、灰にしてくれるとは!」


「いい加減放して、気持ち悪い!」


 リザは今まで見た事もないような怒りに歪んだ冷たい顔で、ザレン教授の腕を振りほどく。


「あーあ、私の今までの苦労が台無しじゃないの!アンタに近付いて、講師に取り入って…。私のバラ色の人生を返して欲しいわ!」


 恨みに満ちた表情で僕を睨みつけるリザの瞳から、青白い光が放たれ、強い冷気が辺りを包む。


「ファクト、ここで戦うのはマズい。一旦引くぞ!」


 僕は師匠に引きずられるようにして、その場を走り去った。

振り返ればそこには、多数の講師が集まって来ているようだ。

僕達がシルフィア魔法学院を敵に回してしまったのは間違いないだろう――

ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!

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