表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵を知る者  作者: Gary
遼遠のサンクチュアリ
118/124

王家グランフォードの王子

 王宮の庭園から差し込む鮮やかな光に照らされた大理石の廊下に、3つの足音が優雅に響き渡る。

その先頭には、数々の高価な装飾品が散りばめられた煌びやかな衣装を着こなし、生来の吊り目を更に吊り上げ、眉間みけんしわを寄せながら歩く青年。

彼は聖教国ハイネシアの統治権を持つグランフォード家の一人息子で、次期国王の座が約束された王子である。


「ギュンター殿下…あの男の話、本当に引き受けるおつもりですか?」


 神経質な表情を浮かべる痩身そうしんの騎士が、前を歩く王子に問いかけた。


「愚か者、彼の方はグランツ共和国副主席、シリウス殿であるぞ!あの男呼ばわりなど無礼千万である。」


「失礼致しました、ギュンター殿下…」


「ふむ、まあ良い。あのような脅迫紛いの物言いをされては、ワタシとしても遺憾いかんである。」


「しかし、グランツ共和国との交易を楯にされては、従う他ございません…」


「副主席であるシリウス殿が直々に我が国へ参ったのだ、相当に重要な案件と心得る必要がある。」


「アルテミシア姫の抹殺…ですが、教会勢力に知られれば王家への非難はまぬがれません。最悪、統治権を剥奪はくだつされる恐れもございます…。」


「王家でありながら権威を持たず、権力者の顔色を伺うばかりとは、まったく、忌々しい限りである…。」


 ハイネシアでは王家に権力は無い。

実質的な最高権力者はファーラ教の教皇であり、形骸化された王族に統治権を委任している形を執っている。

例え国王と言えど、教皇の意にそぐわねば権威は剥奪され、王族内から別の国王が任命されるのだ。


「教皇猊下に叛意を示せば王位を失い、グランツ共和国に逆らえば王家の存亡に関わる経済力に打撃を受ける…。どちらに転んでもワタシが王位を継承する事は出来ない。」


「しかし何故に国王陛下ではなく、ギュンター殿下にこの様な話を持ち掛けたのでございましょうか?」


「わからぬ…。だがシリウス殿はあの若さで、アルフォードのフェスターやサンドラのラダマンティスに並ぶ策士と聞く。ワタシでは与り知らぬ権謀術数けんぼうじゅっすうが渦巻いているのであろうよ…。」


「あの軍神と恐れられたラダマンティス卿と並ぶ策士でございますか!」


「そうだ。直接我が国に出向いて来られたのも、何らかの意図があろうな…。大きな賭けではあるが、シリウス殿の案件に従うべきであろう。」


「承知致しました。それではすぐにでも出陣致します!」


「いや、待てサイラス将軍、アルテミシア姫の方はルブルフ将軍に任せる。」


 そう言ってギュンター王子は立ち止まり、無言で付き従う巨漢の騎士を見上げた。

銀色に輝く重装甲に身を包んだ巨漢の騎士は、ガチャガチャと鎧を打ち鳴らしながら膝を付き、頭を垂れる。


「ではルブルフ将軍には1万の兵を与え、西へ向かって出陣してもらう。そしてサイラス将軍には聖騎士共を足止めし、時間を稼いでもらおうか?」


「確かに、1万もの兵を動かせば聖騎士共の横槍が厄介でございますな。」


「失敗は許されん、確実に任務を遂行せよ!」


「ハッ!!」


 ギュンター王子に付き従う2人の将軍が慌ただしく去った後、彼は庭園の上に広がる蒼天を見上げ、ポツリと呟いた。


「王への道は棘の如くであるか…」

ご意見、ご感想、評価など頂けたら私の魔力も滾りますので、どうぞよろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ