異国の兵と共に
1台の馬車と11騎の騎馬、そして屈強な500の歩兵が街道を埋め尽くし、遥か西のグランパレスへと向かっている。
王女アルテミシア様と宰相フェスター様が乗る馬車は、近衛騎士ランスロットが御者を務めている。
先程の戦いでザンブルグ隊が仲間になるまでは、反アルフォード勢力を警戒して、可能な限りの少数編成で速度重視の行軍を行っていた。
少数であるが故に、敵に察知され難く、小回りが利くので敵に気付かれずに迂回する事も可能だ。
しかし敵に発見され戦闘になった場合、少数である事が仇となってしまう。
そして、500人もの戦力を手に入れた自分達は行軍方針を変え、速度よりもアルテミシア様の安全を優先させる事になった。
他国内をこれだけの軍勢で行軍するのは自殺行為である。
人目に付き易く、敵の目を欺く事は出来ない上、侵略行為と判断されるのは間違いないだろう。
彼らをアストレアに向かわせ、ファクト達の部隊に合流させる事も出来ただろう。
彼らを切り離し、先行して騎馬でグランパレスまで駆け抜けて、教皇猊下に事情を話している間に、ゆっくりと徒歩で合流するという方法も考えられる。
だが、フェスター様は敢えて大部隊での進軍を指示された。
あまり多くを語られなかったフェスター様の考えは、自分如きに理解出来る筈も無い。
しかし、トラキア戦役を筆頭に、王国の危機を何度も救った英雄の方針ならば間違いはないだろう。
大部隊の中心で、ザンブルグ隊の歩調に合わせ、ゆっくりと騎馬を駆る自分の背後から、ザンブルグ隊の隊長ゼタが歩み寄って来る。
騎乗した自分よりも大きい彼の姿を見ると、改めて驚くべき体躯である事を実感せざるを得ない。
「なぁ大将、ちょっと良いか?」
「大将?…自分がですか!?」
「俺達ザンブルグ隊の指揮官なんだろ?なら当然だ。不味い事でもあんのか?」
「いえ…特に軍紀に反する事もありませんが…」
「が?」
「あの…この様な大軍を指揮するなんて、自分には身に余る事でして…」
「一騎打ちで俺に勝ったんだ、強い奴に従うのは当然だろ?」
「しかし、自分には部隊を指揮した経験などありませんし…」
「経験なんてこれから積めば良いだろ?」
「それは、そうなんですが…」
「ったく、煮え切らねーな。この俺に勝ったんだ、もっと自信を持ってくれねーと張り合いがねーぞ?」
「はい…」
「かぁーッ、そんなんじゃーこっちが不安になるぜ。それより、俺達はどこへ向かってるんだ?」
「自分達は、首都グランパレスのファーラ教総本山へと向かっています。」
「まぁこの方角からすると、そうだろうな…。って事は式典か何かで、お呼ばれでもしてんのかい?」
「いいえ、教皇猊下に救援を求めにやって参りました。」
「救援?アルフォードが?またぞろトラキアの野郎共でも攻めて来てんのかい?」
「それも違います。事情は知っておくべきだと思うので説明しますが――」
自分はこれまでの事、何よりこの行軍の目的をゼタに話して聞かせた。
新参と言えど、自分達の目的や、そこに至る経緯を知ってもらう必要がある。
「内乱ねぇ…。そんな事にファーラ教の教皇が援軍を寄越してくれんのか?」
「厳しい状況である事は聞きしましたが…」
「って事は、あの馬車ん中には、お偉いさんがいるんだろ?」
「実は…王女アルテミシア様と宰相フェスター様がいらっしゃいます。」
「はぁ!?おいおい、マジかよ…。王女様の近衛兵とか何とか言ってたが、まさか王女様本人がいるなんてな…」
「ですから何としてでも、あの馬車だけは守って頂きたいのです。」
「そりゃあ勿論、金さえもらえりゃー命張って守ってやるがよ…。良いのか?俺達みたいな薄汚い山賊上りが、王女様の護衛なんてやっちまって…」
「王家の方々の護衛ともなると貴族の方が就くのが当然かもしれませんが、副隊長であるミリアム様は孤児だったと聞きました。自分も最近まで、しがない自警団員をやっていたんです。他の騎士達の中にも身分の低い生まれの者が多いと聞きました。」
「生まれや身分を気にしねーって事か?」
「はい。アルテミシア様は、万民に等しく慈愛を注がれる御方です。例えそれが下賤の者や他国の者であっても。」
「王族ってのは、もっとこう…高慢ちきで腹黒いモンだと思ってたがな…。気に入った!」
「ありがとうございます!頼りにしています!」
「ん?前の方が騒がしいようだが、何かあったのか?」
ザンブルグ隊の前方に目を向けると、密集する歩兵を掻き分け、アルテミシア様の乗る馬車に向って逆走する騎馬の姿があった。
「あれは…斥候に向っていた近衛騎士の騎馬ですね…」
「何かあったのか?」
「解りません、行ってみましょう。」
自分達もまた、共に行軍する群れを掻き分け、アルテミシア様の乗る馬車へと向かう。
斥候が向かった先で一体何があったのだろうか――
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