折れない剣
自分に残った力を振り絞り、ゼタに向って突撃する。
やはりゼタに隙は無く、あの戦斧の間合いに入れば確実に斬撃の的になるだろう。
だが、それで良い。
一瞬の隙を作るには、やはり攻撃後を狙う他無いのだ。
再び繰り出される斬撃。
その軌道は左上から右下への斬り下ろし。
脅威となるのは、その凄まじいスピードと先端に広がる60センチ程の金属の刃だ。
魔力のコントロールを使えば、急激に体力を消費してしまう。
自分は長期戦を想定して、なるべく長い時間使えるように訓練をしていた。
しかしそれは、長時間の使用と引き換えに、高められる身体機能の上限を低下させてしまう。
つまり、体力の消費を気にしなければ最大のパフォーマンスを発揮できるという事だ。
ゼタが攻撃のモーションに入った瞬間、魔力のコントロールの方針を切り替え、身体機能を最大限まで引き上げる。
巨大な戦斧は背後の地面に突き刺さり、自分は脅威をすり抜ける事に成功する。
しかし、まだ気を抜く事は出来ない。
ゼタには蹴りとフォローの左腕が残っている。
大きく前屈みになった体勢からの蹴りは無いだろう。
残るはフォローの左腕だけだ。
左腕には頑丈な小手が装備されており、剣撃は弾き返されてしまう。
ならば、敢えて弾かせれば良い。
自分は大きく長剣を振りかぶり、刀身を叩き込む。
鈍く伝わる衝撃。
思った通り、フォローの左腕に刀身が直撃する。
それと同時に大地を蹴り、弾かれた勢いを利用して大きく飛び上がる。
至近距離に現れるゼタの巨大な顔面。
自分はネイザンと戦った時のアレンの姿をイメージし、その動きを重ね合わせる。
魔力のコントロールでアレンの数倍の威力を持った膝蹴りが、ゼタの顎先に突き刺さる。
ゼタは白目を剥き、その太い首を90度曲げたまま、スローモーションでゆっくりと後ろに倒れて行く。
ズシリと大地を揺るがしながら地に伏すゼタ。
そして自分は荒い息を整えながら、ゼタの首筋へ剣をかざす。
数分後、意識を取り戻したゼタは、大地に寝転がったまま首筋にかざされた剣と、逆光の中で立ちはだかる自分の姿を見上げ、目を閉じた。
「俺はこの小僧に負けたのか?」
ゼタの問いかけに、今まで無言で見守っていたミラルダ様が口を開く。
「そうだ、お前はザックスに負けたのだ。」
「そうか…俺達をどうするつもりだ?皆殺しか?」
「それは勝者であるザックスが決める事だ。どうする?ザックス。」
自分はゼタに向けた剣を納め、静かに答える。
「まずは、前線で近衛騎士達と戦っている仲間を退かせて頂けますか?」
「ああ…。おい、先陣を退かせろ!」
「自分達は、あなた方を殺すつもりはありません。もちろん、このままあなた方を放って置くつもりもありません。」
「じゃあ、どうするんだ?罪人としてグランパレスに引き渡すつもりか?」
「いえ、あなた方の事情は知っています。サンドラ帝国の正規軍に拠点を潰されて逃げて来たんですよね?」
「ああ…そうだ。恥ずかしい話だがな。」
「ならば、自分達と共に来ませんか?」
「はあ!?何を言い出すかと思えば、共に来いだ?笑わせるな!」
「可笑しいですか?」
「ああ、可笑しいね!山賊を仲間に入れる騎士なんざー聞いた事もねぇ。」
「あなた方を山賊として扱うつもりはありません。戦士として勧誘しているのです。」
「戦士ねぇ…見返りは何だ?」
「生活の保障と戦果に見合った報酬です。」
「一端の見習いが、そんな大層な条件を出せんのかい?」
「それは…構いませんか?ミラルダ様…」
「構わない…が、彼らはお前の部下として扱う。もちろん問題を起こせばお前の責任だ。それでも構わないなら好きにするが良い。」
「はい、ありがとうございます!」
「じゃあ何か?俺達は小僧の部下って事になるのか?」
「建前ではそうなりますが、自分などに部隊を率いるなんて事はとても…」
「わかった…お前らの懐が空になるまで戦果を挙げ続けてやるから覚悟しておけ、良いな!」
「ああ、期待している。」
こうして、自分と近衛騎士達の働きにより、異国の地で新たな戦力が加わる事となった。
長らくサンドラ帝国と戦ってきた屈強な戦士達の参入は、心強い限りである。
自分達は、新たにザンブルグ隊と名付けられた兵達をまとめ、再びグランパレスへと続く街道を進むのだった――
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