近衛騎士の攻勢
我々近衛騎士が誇る最強の強襲陣形が、襲い掛かって来る山賊達を圧倒する。
長剣を使った流れるような剣捌きで敵を切り裂くガラハド。
近接戦に特化した双剣を使い、目にも止まらぬ鮮やかな立ち回りで敵を翻弄するベディビア。
南方の暗黒大陸からもたらされた曲刀を自在に操り、弧を描くように敵の群れを掻き分けるトリスタン。
彼ら3人が前衛で、多くの敵を薙ぎ倒して行く。
そして、大楯と円形の戦斧を装備するガウェイン。
投擲も可能な小型の斧を両手に持ち、鋼の肉体を誇るガレス。
軽装ながらも器用に丸盾を使い、突剣での追撃を得意とするパロミデス。
巨大な戦鎚を縦横無尽に振り回し、敵を寄せ付けないモルドレッド。
彼ら4人が中衛で戦線を押し上げ、大部分の敵を始末する。
最後に、長射程を誇るボルスの長弓。
そして私の必中する速射で、前衛と中衛を援護する。
アル様の護衛で抜けた長槍のランスロットと、暗殺者との死闘で命を落とした大剣使いのパーシバルがいれば、更に大きな火力を生むだろうが貧弱な装備の山賊相手なら、このメンバーで充分対応出来る。
「トリス、左翼を抉れ!パロは右の集団、恐らくあの大斧を持った奴が部隊長だ!」
私の指示を的確に実行する近衛騎士達は敵を分断し、確実に部隊長を仕留め、敵の勢いを削いで行く。
しかし、たった9人の我々に対し、500人の敵は士気を失う事無く突撃を繰り返して来る。
既に幾人かは殺してしまっただろうが、アル様の不殺の命が我々の足枷となり、思うように進軍出来ない。
だがこんなものは、地獄の様なトラキア戦役での戦いに比べれば生易しい。
敵に魔術師もいなければ、近衛騎士達に傷を負わす程の手練れもいないのだ。
既に100人以上を戦闘不能に陥れた我々だが、あまり時間を掛け過ぎると手加減が出来なくなってしまうばかりか、致命傷を受けてしまう恐れもある。
足止めという意味では十分な戦果を挙げた私達は、このまま敵首領が討取られるのを待つしかないだろう。
ミラ様がいるのだから心配ない。
じきにこの無益な戦いも終焉を迎えるだろう…。
「あの程度の人数に、いつまで手こずっているつもりだ!?」
山賊の首領は怒りを露わにして、目の前の部下を蹴り飛ばす。
「あいつらバケモンみてーに強いんでやす…もしかすっと聖騎士級、いやそれ以上じゃないっすかね…。」
「聖騎士級だぁ!?そんなバカな事があってたまるか!!一体ドコの奴らだよ!!」
「あの装備…もしかするとアルフォードの騎士かもしれやせん!」
「あん!?アルフォード?」
「へい、西から来たとなるとアルフォードの騎士としか思えませんぜ。」
「何だってこんな時に?」
「さぁ…」
「クソが…こうなりゃ俺様が出る!道を空けろ!!」
「お、お頭ー、後ろッ!!」
「あん!?」
手下の声に振り返った山賊の首領に、ミラルダの閃光の突きが襲い掛かる。
しかし、咄嗟に手下の首を掴み肉の盾とした首領には届かず、盾となった手下は無残にも血反吐を吐き、身体中に空いた風穴から鮮血を撒き散らす。
「仲間の命を犠牲にした卑劣な手段とは言え、私の連撃を止めるとはな…。」
ミラルダは突剣に付着した血を振り払い、冷徹に首領を睨む。
「何が卑劣だ!後ろから斬り掛かって来たお前の方が卑劣だろうが!」
「確かに。だが、何の罪も無い集落の民達を蹂躙せんとする貴様ら山賊を、黙って見過ごす訳には行かん!」
「知った風な事をぬかすな!何様のつもりだ?」
「私は、アルフォード王国王女アルテミシア殿下付きの近衛騎士を束ねる騎士団長のミラルダだ。例え他国と言えど、民を守るのは騎士の務めと心得ている!」
「けッ、案の定アルフォードの騎士か。下らん正義で他国のいざこざに首突っ込んで、挙句の果てに殺されちまえば笑い話にもならんぞ?」
「そう簡単に私を殺せるとでも思っているのか?」
「この状況でも強がってられんのかい?」
いつの間にか自分とミラルダ様は、大勢の山賊に取り囲まれ、脱出するのも困難な状況に陥ってしまった。
確かに山賊の首領が言う通り、多勢に無勢では分が悪い。
「この程度の人数では脅しにもならない。」
「あん!?」
「私の力を見た筈だが?」
「確かに、お前の腕なら瞬殺だろうな…」
「お頭…」
周囲を取り囲む山賊の手下達は、ミラルダの力を認めた首領に対して悲痛の呟きを漏らしている。
「これ以上手下を失う訳にはいかねぇ。一騎打ちだ!この俺様が相手になる!!」
「良かろう。私は手下に手を出さない、もちろんお前にもだ。」
「あん!?どういう事だ!」
「この少年がお前の相手をする。もしこの少年が負けるような事があれば、素直に殺されてやろう。」
そう言ってミラルダ様は自分の後ろに下がり、剣を納めた。
自分は動揺し、ミラルダ様の顔を覗き込むが、冷静な表情を浮かべたまま口を固く結んでいる。
ミラルダ様は冗談を言う人ではない。
もちろん、この状況で無謀な賭けをする人でもない。
自分ならば勝てると確信しての言動なのだろう。
「舐めやがって…あの世で後悔するんだな!!」
「ザックス、胸を張れ。お前なら勝てる。名乗りを挙げよ!」
「自分は、近衛騎士団長ミラルダ様の従者ザックス!若輩の身ながら、お相手願う!」
自分は腰に下げた長剣を抜き放ち、手下から巨大な戦斧を受け取った首領に向って構える。
この戦いは絶対に負ける事が許されない。
ミラルダ様が自分の成長のために課した試練なのだろう。
自分は闘志に火を点け、強大な敵に挑むのだった――
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