第二話
「……………………」
予想外の事が起きた。
城の目の前に辿り着くなり、俺が最初に思ったのはそんな事だった。
これだけデカイ城だ。運が良ければジジイがいると思っていたし、運が悪くても門番なり警備兵なりが城の前に立っていると思っていた。
まぁ、なんにせよ絶対に人はいると予想していたわけだ。そして、そんな俺の考えは全くの間違いなんかではなく、実際に城の門の前に人はいた……と言うか、立っていた。
けど――。
「お待ちしておりました、カミト様」
――けど、城の目の前で立っていたのが、黒いワンピースに、フリルの付いた白いエプロンを纏い、さらに真紅の綺麗な髪の上に乗っている、フリルの付いた白いヘッドドレス姿の美人だなんて誰が予想できよう。
しかも、この美人メイドさんは俺に向かって『お待ちしておりました、カミト様』なんて言い出したんだ。こんなの予想外すぎるぞ。
「……あー……えぇっとー……」
せっかくメイドさんが声を掛けてくれたのに、俺の口から出た第一声は、たったのこれだけだった。
今まで普通に女子と会話するぐらい簡単にできていたはずなのに、俺はいつからコミュ障になったんだろうか?
「……? どうかなされましたか、カミト様?」
「え? あ、いや、その……」
いかん。いくら予想外の展開に混乱していたとは言え、まともに受け答えもできないんじゃ本当にコミュ障みたいじゃないか。
俺は一度メイドさんから視線を外して深呼吸する事で、落ち着きを取り戻す事に成功した。
「ふぅ……。すみません、もう大丈夫です」
深呼吸して落ち着きを取り戻した後、俺は再びメイドさんに視線を向け直す。
うん。何度見ても俺の目の前にいるのは糞ジジイや強面の警備兵とかじゃないな。どっからどう見てもメイドさんだ。
「それで、えっとー……」
「申し遅れました。私はミレーナ・ラニエールです。ミレーナとお呼び下さい、カミト様」
まだ何も言ってないのに、俺が言わんとした事を即座に理解してくれたメイドさん。世の中のメイドさんは全員こんな事ができるんだろうか?
「えっと……それじゃあミレーナさん? ちょっと聞きたい事があるん――」
「申し訳ありません。今はカミト様の質問に答えている時間はありませんので、お答えできません」
まだ最後まで言い切ってないのに途中で一蹴された。もしかして、今の短い時間の間に俺は嫌われるような事でもしたんだろうか?
「じ、じゃあ、時間ができてから聞いても――」
「構いませんが、その必要はないと思いますよ?」
またしても最後まで言い切る前に言葉を遮られてしまった。けど、必要ないってどういう意味なんだろうか?
そもそも、俺は名前を名乗った覚えなど一切ないんだが、この人はどうして俺の名前を知ってるんだろうか?
などと考えていると、メイドさん改めミレーナさんはさすがのスキルで、何も聞いていないのに俺の疑問に即座に答えてくれた。
「これからカミト様には私の主に会っていただきます。何か聞きたい事があるのなら私のような使用人ではなく、主に聞いていただく方が良いかと」
「え、ミレーナさんの主って事は、この城の城主さん……ですよね? そんな人と俺なんかが会っても良いんですか?」
「主が自らカミト様を呼んでいるのですから何も問題はありません」
要するに城主様が自ら俺の質問に答えてくれるって事か……。
ん? あれ? 俺って普通に考えたら、いきなりこの城の敷地内に現れた不審者のはずだよな?
こんな不審者を何の疑いもなく城主に会わせるなんて、普通なら絶対にあり得ない展開なんじゃ……?
「それと言い忘れていましたが、カミト様のお爺様であるハヤト様は既に主と一緒におりますので、心配はいりませんよ」
「すみません、ミレーナさん。早く城主様に会いたいので、急いで行きましょう」
さっきまでゴチャゴチャと考えていた俺の頭の中は、今のミレーナさんの一言によって全て吹き飛んでいた。