第一話
「……ここはいったいどこなんだ……」
赤い光に包まれてから、体感時間にして約十秒が経過した後、俺は目の前に広がっている景色を見て、ポツリとそう呟いていた。
今、俺の目の前に広がっているのは、いかにも金持ちが好き好んで作りそうな、自然豊かで無駄に壮大な庭。
そして、その中心に堂々と建っている巨大な西洋風の城。
そう。まるでファンタジー世界のような景色が俺の目の前に広がっていたのだ。
「まさか俺は本当に異世界に来ちまったのか……? さっきまで夜だったのに、今は何故か太陽が真上にあるし……」
今度は誰かに問いかけるように呟いたが、誰からも返事は返ってこなかった。
周りに人が誰もいないので当然と言えば当然なんだが……。
「てか、ついさっきまで一緒にいたジジイがなんで今はいねぇんだよ……」
別に普段は居てもいなくてもどっちでも構わないんだが、こんなわけの分からない所に俺を連れてきた張本人が今いないのは非常に困る。と言うか、いきなりこんな状況で放置されるとか、普通に死ねると思うんだが……。
「はぁ……。できる事なら夢であってくれ……」
軽く現実逃避をしながら、思わず大きな溜息を零してしまう。
いきなりジジイに引っ越しするなんて言われた事も、知らないうちに高校を中退させられていた事も、今俺の目の前に広がっている壮大な城や庭も、その全てが性質の悪い夢であってほしい。そう思わずにはいられなかった。
「……なんて愚痴っても何も変わらねぇか。はぁ……」
これが全て夢なんて妄想を頭から叩きだして、俺は最後にさっきよりも深い溜息をこぼした後、意味のない現実逃避を止め、目の前にある壮大な城を見た。
「とりあえず、諸悪の根源である糞ジジイもいねぇ事だし、あの城に行ってみるか」
あれだけデカイ城だ。普通に考えれば、見るからに不審者である俺が行った所で門前払いを受けるのがオチだろうが、少なくとも人には会えるだろう。
それに、そもそも俺は突然の事態にケータイも財布も持つ事ができず、この身一つでこの世界に飛ばされているわけで、今の俺は文字通り一文無しの状態だ。
どうせ今の俺にできる事は限られている。余計な事は考えるだけ無駄だろう。
それに何となくだが、あの城に行けば、あの糞ジジイの情報も手に入るような気がするし……。
「……とりあえず、あの糞ジジイに会ったら十発は殴ってやろう」
俺はそんな決意を固め、目の前に見えている立派な城へと向かって歩き始めたのだった。