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カレッドモンド  作者: セイイチ
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第十一話

 もはや昼飯か晩飯か良く分からない時間帯に爺ちゃんの飯を食べた後、俺達は爺ちゃんの部屋まで移動し、爺ちゃんの部屋でコーヒーをごちそうになっていた。


 あ、因みにだが、爺ちゃんの作った料理はラニエールの屋敷で出される料理とは色々と違ったが、爺ちゃんの料理も負けてないとハッキリ言える位美味かった。


 「てか、一個聞いて良いか?」


 俺はコーヒーを飲みながらくつろいでいるフィリア達に向かって声をかけた。


 「なによ?」


 「いや『なによ?』じゃねぇよ。なんでお前等までいるんだよ? 呼ばれたのは俺だけだろう?」


 「別に良いでしょ? 私はあなたの従姉妹なんだから、一応関係者でしょ?」


 ふむ。まぁ、そう言われたら事実なので何も言えない。


 けど、レイの場合はどうなんだ? 正直、全く関係なくねぇか?


 そう言う意味を込めて、俺はレイに視線を移したのが……。


 「ん? 僕? 僕はアレだよ。純粋にカミトの事が気になるからだよ。……って言うか、あんな話を途中まで聞いて、中途半端に知ってるのって凄く気持ち悪いじゃないか」


 いや、知らねぇよ。てか、レイは知らなくても問題ない話なんだから、いなくても別に良い……と言うか、ぶっちゃけ邪魔なだけじゃないだろうか?


 まぁ、確かに中途半端に知ったから気になるって気持ちは分からないでもないので、レイが居ても良いのか確認するためにフィリアに俺は視線を向けた。


 「まぁ、どうせアルベルト君には異世界の事も私達の関係の事も知られちゃったわけだし、今さら隠す必要もないんじゃない? まぁ、当然アルベルト君には絶対に誰にも喋らないって約束してもらう必要があるけど」


 「するする! 絶対誰にも言わないよ! そもそも喋るメリットとか僕にないしね!」


 「なら問題ないわね」


 え? そんなあっさりレイの事信じちゃって良いの? そんな簡単に?


 「と言うわけで、おじ様。私達も同行させてもらっても良いですか?」


 「ああ。それは僕としては別にどちらでも構わないよ」


 俺が困惑している間に話が進んで行く。


 あれ? これって俺の話だよな? なんか、俺を置いてドンドン話が進んでるような気がするんだが……。


 「えっと……。それじゃ、どうしようか? さっきはどこまで話したかな?」


 「この人に何か渡したい物があるって所までです」


 「おっと。そうだったね。それじゃあ、話をする前にカミト君にアレを渡しておこうか」


 そう言って爺ちゃんは席を立ち、部屋の襖を開けた。


 そして、爺ちゃんが開けた襖から現れたのは一振りの剣。それは一点の穢れもない、柄までもが白い白銀の剣だった。


 「なぁ、爺ちゃん。俺に渡したい物って、もしかしてその白い剣の事なのか……?」


 「察しが良いね。その通りだよ、カミト君。この剣は君に持っていて欲しんだ」


 そう言って爺ちゃんは俺に白銀の剣を差し出してきた。


 そのあまりに美しい剣に見惚れてしまい、俺は無意識のうちにそれを受取ろうとしていたが、ギリギリの所で正気に戻って手を引っ込める。


 「って、ちょっと待て! 爺ちゃんって元日本人なんだよな!? それなのに、なんで剣なんて持ってるんだよ!?」


 普通に考えて、日本人である爺ちゃんが剣を持っているのはおかしい。


 こっちの世界に移住してきたから持っている? それもおかしい。


 爺ちゃんはこっちの世界で喫茶店を経営している。つまり、ラニエールの親戚であっても爺ちゃんは一般人のはずだ。


 一般人であるはずの爺ちゃんが剣を持っているのは普通に考えておかしい。


 それなのに、なぜ爺ちゃんが剣を持っているのか?


 それはおそらく何か理由があるのだろう。


 その理由を聞くまで剣を受け取る事はできない。……と言うか、迂闊に手を出して面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。そう言うのは次期当主候補だけで充分だ。


 「はは。警戒しているね……。カミト君に取って、この世界はまだまだ未知の世界なんだ。その警戒心は持っていて当然だし、持っておくべきだと思うよ。でも、今回は警戒する必要はないよ。だって、この剣は君の母親の形見だからね」


 瞬間、俺の思考が一瞬停止した。


 母さんの形見……? 今まで写真すら見た事ない母親の……?


 俺がその事実を受け入れるのに手間取っている間にも、爺ちゃんの話はドンドン進んで行く。


 「君の母親、美奈・ラニエール。旧姓、風間美奈は僕の一人娘として日本で生まれ育った。美奈は十歳の時に母親を亡くしてね。以来僕が一人で美奈の事を育てたんだけど、ある日君の父親、ユギト君と出会って恋をした。当時美奈はユギト君が異世界人だと知っていたんだが、二人にはそんなの障害は関係なかったようで、美奈とユギト君は結婚する事になった。それで……って大丈夫かい、カミト君?」


 話の途中だったが、爺ちゃんは俺が事実を受け入れる事ができていない事に気がつき、一度話を中断した。


 「あ、いや、その……。ごめん。ちょっと処理しきれなかっただけだから続けて」


 「そうかい? それじゃ続けるよ?」


 そう言って一つ咳払いをしてから、爺ちゃんは続きを話し始めた。


 「二人が結婚する時に、結婚してカレッドモンドに行くなら、いつでも会えるように僕も一緒じゃないとダメだと美奈が言い出して、色々と話し合った結果、僕も美奈と一緒にカレッドモンドに来る事になったんだ。それで僕はラニエールの援助の下で喫茶店を経営するようになって、美奈はラニエールの屋敷で暮らす事になったんだけど、その影響のおかげか美奈は魔力を扱えるだけでなく、魔法が使えるようになって魔導師になったんだ。で、その時に使っていた武器が、その白銀の剣なんだ」


 「つまり、おじ様の娘さん……えっと、美奈さんは純粋な異世界人でありながら、魔法を扱う才能もあって、魔導師になったという事ですか?」


 「美奈に才能があったかどうかは僕には分からないよ。でも、結果だけ見るとそうなるんじゃないかな?」


 「へぇ……。それじゃ、今は魔法の知識皆無なカミトでも、魔法を使えるようになる可能性はあるって事か」


 「まぁ、美奈が使えたんだから、カミト君も使えると思うよ? と言うか、僕はそうだと思ってコレをカミト君に渡そうと思っていたんだけど……。まだカミト君は魔法が使えないのかい?」


 爺ちゃんが心配そうな表情で俺の顔を見ながら聞いてくる。


 いや、まぁ、うん。その辺は察してほしい……。


 「はは。まぁ、今は使えなくても美奈とユギト君の息子なんだから、そのうち使えるようになるよ」


 俺が無言でいたのを肯定と捉えたのか、爺ちゃんが笑いながらフォローしてくれた。


 なんか、こっちの世界に来てから初めてフォローされた気がするな……。今まで使えて当たり前みたいな反応されてたし……。


 「でも、そうか……。まだ魔法が使えないなら、今カミト君に剣を渡すのは止めた方が良いのかな? 魔法が使えないんじゃ、異空間に仕舞っておく事もできないだろうし……」


 「いや、爺ちゃんが良いなら貰っとくよ。確かに異空間? に仕舞っとく事はできないけど、腰にぶら下げるか肩に掛けとけば持ち歩けるし、何より母さんが昔使ってた剣なんだろう? だったら俺にその剣を使わせてくれ」


 正直、今の今まで母親の事なんてどうでも良いと思ってた。


 どうせ顔も知らないし、名前も知らない。育てられたわけでもない。


 もっと言ったら、俺は望まれて生まれてきたのかも分からない。


 そんな環境で育ってきたんだ。母親も、父親もどうでも良いと思って生きてきた。


 けど、どうも心の奥底ではそう思っていなかったらしい。


 今、俺は母さんの形見だと言う剣を目の前にして、どうしようもなくこの剣が欲しいと感じている。


 それは多分、この剣が俺と母さんの唯一の繋がりになると思っているからだろう。つまり、長年自分でも気づかなかったが、どうやら俺は母さんの事を求めていたらしい。


 それが、母さんの形見を目の前にして分かった。


 「うん。僕も最初からそのつもりだったから、カミト君が望むならこの剣はカミト君にあげるよ。……ただ、良いのかい? 今ならまだ、何の未練もなく日本に帰れるかもしれない。でも、この剣を受け取ってしまったら、日本の法律上、君はこの剣を置いて帰らないといけなくなる。それは、こっちの世界に未練を残す事になるかもしれないけど、それでも良いのかい?」


 「分かんねぇよ、そんなの……。分かんねぇけど、今は自力で帰る手段も分からない状態だから、それは帰る手段を見つけてから考える事にするよ。けど、とりあえず今は母さんが使ってた剣を持っておきたいんだ」


 さっきの爺ちゃんの話を聞いたから、俺と違って母さんは自ら望んでこの世界にきた事は間違いない。


 俺と同じように日本で生まれ育った母さん。

 そんな母さんが、こっちの世界でなぜ生きていこうと思ったのか?


 たった二週間しかこの世界で過ごしていないが、この世界と元の世界とじゃ、比べるべくもなく元の世界の方が安全だと思うし、気楽に過ごす事ができる。


 それなのに母さんはこっちの世界を選んだ。それは単純に父さんがこの世界にいたからなのか、それとも別の理由があったからなのか。


 その理由が分かってから、どうするか選んでも遅くはないと思い始めたのだ。


 「分かった。なら、腰につけるための鞘も一緒にあげないとね」


 「え、鞘もあるの?」


 「もちろんあるよ。……と言うか、美奈も最初は異空間に物を仕舞っておく魔法が苦手だったみたいでね。最初は常に腰にぶら下げていたんだよ」


 そう言って、爺ちゃんは昔の事を懐かしむように微笑みながら剣と鞘を渡してくれた。


 「……ありがとう、爺ちゃん。大事にするよ」


 俺はそれを受け取り、かつての母さんがそうしていたように剣を腰にぶら下げた。



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