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カレッドモンド  作者: セイイチ
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第九話

 「ふぁあぁぁ……。ねみぃ……」


 フィリアの特訓を受け初めてから二週間が経過したある日。


 ようやく新しい生活にも慣れてきた頃。


 まだ重たい瞼を擦りながら、俺はフィリアと一緒に街を歩きながら盛大に欠伸を零していた。


 「眠いって、アナタ……。それが昼前に起きてきた人が言うセリフなわけ? もっとシャキッとしなさいよ」


 そんな俺を見て呆れるフィリア。


 正直、そんな事を言われたって眠たいものは眠いんだからどうしようもない。


 「うっせぇな……。休みの日くらい何時に起きたって別に良いじゃねぇか」


 と言うか、ここ二週間の間、ずっと休みの日とか関係なく毎日フィリアの特訓を夜遅くまで受けてるんだ。眠たくなって当然だろう。


 なぜか俺の隣にいるフィリアは特に眠そうな感じとかは全くないが、それは俺と寝る時間は大して変わらないはずなのに、毎日元気なフィリアがおかしいだけだ。


 「なんでアナタがそんなに偉そうなのよ? なんでアナタと二人で休日に出かける事になったと思ってるわけ?」


 「…………」


 フィリアの質問に何も答えられずに黙りこむ俺。


 そう。なぜ学園が休日の日にわざわざ俺達が街まで出向いたかと言うと、それには深いわけがある。

 それは昨日の学園での話が原因だ。


 昨日、いつものように意味の分からない授業を受けていた俺に向かって、担任であるモルス先生が放った一言。


 『風間君、そろそろ学園に慣れてきましたか~? 今度は街にも慣れるために次の休日は街を散策してきて下さい~。来週の授業からは街中に出る事もありますので、少し位は街の事も知っておいて下さいね~』


 とまぁ、こんな感じで有無を言わせず俺にだけ特別課題が与えられ、その課題のためにこうしてフィリアと一緒に休日にわざわざ街まで出てきたというわけだ。


 「てか、そんな文句言うなら付いて来なきゃ良かったじゃねぇか……」


 「アナタを一人にして、街中で何か問題を起こされたら後処理が大変なのよ」


 なぜだろう?


 そこら辺の子どもより子ども扱いされている気がする……。


 「というか、どうせ一人で来ても文字も読めないんだから、お店を見つけても何のお店か分からないでしょ?」


 「…………」


 返す言葉も見つからなかった。


 とりあえず、文字位は読めるように本気で勉強しよう……。


 「それじゃ、アナタも今のを理解してくれたみたいだし、そろそろ行きましょうか?」


 「へいへい」


 こうして、俺は今日一日フィリアに街の案内をしてもらい、フィリアの機嫌さえ悪くさせなければ、平穏な休日を過ごせる。はずだったのだが……。


 「…………」


 「…………」


 この世界の神様はどうやら俺の事が嫌いなようで、あれから五分もしないうちに、俺とフィリアは無言のまま立ちすくむ事となってしまった。


 なぜか。その理由は実に簡単。


 俺達のクラスメイトで、この世界で俺が唯一友人と呼べるであろう人物、レイ・アルベルトが大勢の女子に追い詰められているかのような現場を目撃してしまったからだ。


 「……どうしたい?」


 たっぷり十秒は経過してから、フィリアが短くそれだけ聞いてきた。


 要するに、今なら何も見なかった事にして、このままスルーできるけど、どうしたいって事だろう。


 正直、転校してきてからこれまでレイには結構助けられてる。何か助けになれるなら助けたいとも思う。思うんだが……。


 『ちょっとレイ! いったいどう言う事よ!?』


 『そうよ! ちゃんと説明して!』


 『酷いわ、レイ! いったい何人と浮気してたのよ!』


 「ちょ、ちょっと皆いったん落ち着こうよ! ね?」


 『『『私は至って冷静よ!!』』』


 ……さっきから聞こえてくるのはそんな言葉ばかりで、何度聞いてもレイが悪いようにしか思えず、この件に関してはどうしてもレイを助ける気になれなかった。


 そんなわけで今回はレイの事をスルーしようと決め、俺達がこの場から立ち去ろうとした瞬間。


 『もう良い! 勝手にしたら!』


 『アンタなんかを信じた私がバカだった!』


 『もう二度と近寄って来ないで!』


 俺達の耳には女の子達のそんな怒りの声が届いてきた。


 どうやら俺達が立ち去る前に、女子軍団の方が先にしびれを切らして、この場から立ち去ってしまったようだ。


 ……仕方ない。


 「おーい。大丈夫かー?」


 そう言いながら、俺は仕方なくレイに向かって歩を進め始めた。


 し、仕方ないだろう?


 自業自得なクズみたいな事をしてたからとは言え、異性にフラれた瞬間は誰だって落ち込んだりするものーー……。


 「ん? おお! カミトじゃねぇか! 休日だって言うのに奇遇だね!」



 訂正。コイツだけは全然落ち込まないらしい。

 なんてメンタルの強さだ。


 「別に奇遇でもないでしょ? この人に関しては特別課題があったんだから」


 「あれ? ラニエールさんもいるじゃん。もしかしてデート中だった?」


 「そんなわけないでしょ? 冗談ならもっとマシなものを考えなさい」


 ザ・真顔。全く感情の籠っていない目をレイに向けるフィリア。俺とデートって部分が心底嫌なようだ。


 「ふーん。そっか。違うのか。カミトが僕以外と話す人ってラニエールさんしかいないから、僕はてっきりそうなのかと……」


 確かに俺はフィリアとレイの二人しか話す相手がいない。


 けど、フィリアに関しては身内って関係性があったからだ。まぁ、レイにも俺達の関係は話してないし、そんな事情知らなくて当然なんだが……。


 「まぁ、お前が考えてるような関係じゃない事は間違いないねぇな。てか、お前の方こそ何やってんだよ?」


 「何って言われても……。さっきの見てたんだろう?」


 「いや、見てたって言っても、最後の一部始終だけだからな……」


 俺達が見たのなんて、レイが女の子達から迫られていた場面位だ。


 こんだけじゃ何があったかなんて……まぁ、予想がつかないわけじゃないが、全部分かるわけじゃない。


 変に誤解しないためにも、レイの口から一応聞いておいた方が良いだろう。


 「最後の一部始終って言うと、僕がビンタされた辺りかい?」


 「いや、お前、ビンタまでされてたのかよ……」


 確かに言われてみれば、顔の頬が若干赤いような気がしないでもない。正直、言われるまで全く気づかなかったが……。


 「まぁ、その、なんだ。この前知り合った女の子と遊んでたら、偶然以前知り合った女の子達と遭遇して、なぜか色々と言われて、最後に全員からビンタされたんだよ」


 言葉を濁してはいるが、要は複数人と浮気してたのがばれたって事だな。


 なんというか、行為は非常にゲスイと思うが、サラッと笑顔でそんな事が言える精神力は素直に凄いと思う。後、それだけ異性にモテてるって事も……。


 「なぜかって……。そりゃ、浮気されたら文句の三つや四つ言って、ビンタ位普通にするでしょ」


 「浮気って……。別に僕は誰とも付き合ってたわけじゃないんだけどな……」


 「どうせ全員ナンパで知り合ったんでしょ? 例え誰とも付き合っていなくても、同時に複数人にナンパして、それからも遊び続けてたなら、浮気と捉えられても仕方ないと思うけど?」


 「えー? 僕はただ、かわいい女の子達と遊びたかっただけなんだけどなー……」


 レイの発言に溜息を零すフィリア。


 どうやら二人のやり取りを見るに、レイは日常的にナンパしているようだ。


 とりあえず、レイにはナンパ野郎のあだ名を進呈するとしよう。


 「てか、もー僕の話は良いよ。二人はデートじゃなかったら何してるんだい?」


 「別に何かしていたわけじゃないわ。この人に街を見るようにって課題が出てたから、それに付き合ってただけよ」


 さっきまでの事は何事もなかったかのように会話するフィリアとレイ。


 別に俺には関係ない事だから構わないが、そんな軽い感じで良いのか?


 「あー。そういえば、そんな事も言われてたねー」


 「まぁ、そういう事だ。街を見とけって言われても、どこにどんな店があるとかぶっちゃけ分からないからな」


 「まぁ、カミトは字も読めないしね」


 なぜだろう。


 事実なので何も言い返せないが、ナンパ野郎に言われると非常に腹が立つ。


 とりあえず、早急に字だけは本当に覚えよう。


 「まぁ、そんなわけで私も休日返上で付き合ってるのよ。だから、これは決してデートなんかではないわ」


 何も間違っていないのだが、ここまで完全否定されるとちょっとだけ傷つく……。


 確かにデートって感じでは全くないが、そこまで完全否定する必要ないんじゃないだろうか? まぁ、別に良いけど……。


 「なるほど……。それならさ、僕も一緒に行動しても良いかな? デートじゃないなら二人の邪魔をしたわけにもならないし、僕も暇つぶしできるからありがたいんだよね」


 そう言ってフィリアに笑顔を向けるレイ。


 文面だけ見れば、ただ暇つぶししたいだけのように聞こえるが、もう俺は騙されない。


 レイは絶対に休日を女の子と、この場合はフィリアと一緒に過ごしたいだけだ。


 その証拠に、レイは俺の存在なんて忘れたかのようにフィリアの方しか見ていなかったりする。


 「……まぁ、別に構わないけれど、少しでも問題行動したら容赦しないわよ?」


 「その辺は大丈夫だよ! 問題行動なんて微塵もする気なんてないから!」


 「……信じて良いのかしら?」


 レイは笑顔でああ言ってたが、フィリアはそんなレイとは対照的に心配そうな表情を浮かべている。


 「大丈夫だよ! もし何かしたら問答無用で沈めてくれても良いからさ! さぁ行こう!」


 そう言ってレイはさっきよりも楽しそうな笑顔で先頭を切って歩きだした。


 てか、休日に女の子と過ごしたいからって理由で俺達と行動を共にするのは問題行動に入らないんだろうか?


 そんな俺の心の声は誰に届く事もなく、俺達は三人で街を見て回る事になったのだった。




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