プロローグ
なろう初めての投稿作品になります!
拙い点は多々ありますが、読んで頂けたら幸いです
「なぁ、カミト。お前、引っ越したいとは思わんか?」
俺、風間カミトが近所にある高校に入学してから、もうじき二年目を迎えようとしていた、ある春の日の晩。
気持ちの良い夜風に当たりながら、家の縁側で横になって夜桜を眺めていると、後ろから聞き覚えのある男の声――俺の実の祖父である風間ハヤトの声が聞こえてきた。
「は? いきなり何言ってんだ? ついに頭でもおかしくなったのか、ジジイ?」
爺ちゃんのあまりにも唐突で、わけの分からない発言に、本気でジジイの頭を心配しながら、俺は体を起こしてジジイの方へと視線を向けた。
「失礼な奴じゃな。ワシは至って正常じゃわい。ワシは本気で引っ越そうと言っておるんじゃ」
長い白髪の髪をオールバックにしているのが特徴的で、もの凄く元気そうに俺の目の前で仁王立ちしているジジイ。
ぱっと見た感じボケているように見えないのは、果たして良い事なのかどうか判断に困る。
「あのなぁ、ジジイ。俺は明日の新学期から高二になるんだぞ? 引っ越しなんてできると本気で思ってるのか?」
「そんなもん転校すれば良いだけの話じゃろうが。と言うか、お前に選択肢は既にないぞ? もうお前の高校に退学届を出してきたからのう」
「何が『転校すれば良いだけの話』だ。やっぱり頭おかしくなって……うん?」
そこまで言ってから、俺はさっきのジジイの言葉を正確に思い出していた。
「ちょっと待て、糞ジジイ。もう退学届を出してきた……。だと?」
「ん? ああ。正確に言えば、ワシが学校に出したお前の退学届が、昨日正式に受理されたと連絡がきた。じゃがな」
そうか。つまり俺は転校じゃなくて高校中退になるって事か……。
「って、ちょっと待てやぁぁぁ! この糞ジジイィィィ!」
もうじき日付が変わろうかという時間帯に、俺は思わずご近所の迷惑も考えずに大声をあげていた。
そりゃそうだ。今の今まで俺は自分が高校生だと思っていたのに、実は昨日からニートになっていたなんて驚いて当然だ。と言うか、こんなの怒って当然の事だと俺は思う。
「退学ってどういう事だ、この糞ジジイ! 退学しちまったら、もう転校すらできねぇだろうがっ!?」
「は? お前は何を言っとるんじゃ? 転校すれば何も問題はないじゃろうが?」
「退学したら転校もできねぇんだよ! 転校しようと思ったら、普通は転校の続きとかしないといけないだろうが!」
高校に通っていた本人が退学を知らないんだから、まず間違いなく転校の手続きなんてしていないだろう。よって俺はこの春、高校生から突然ニートに……。と言うか、本人の同意なしで退学なんて決められるんだろうか?
いや、このジジイならそれぐらい無理にでも実行してしまう気がする……。現に俺は知らないうちに退学しているみたいだし……。
「心配するな、カミト。ワシの知っている学校ならば、前の学校からの書類など貰わんでも簡単に入れるわい」
もしかして、それは裏口入学って奴なんじゃないだろうか?
このまま高校を中退して学生を終えるのも問題があると思うが、裏口入学もかなり問題があると思う。
まぁ、ジジイのせいとは言え、強制的に中退させられた俺に選択肢なんてものは皆無なのだが……。
「……全然納得はいかないが、とりあえず今は百歩譲って学校の方は大丈夫って事にしてやろう」
けど。
「けどな、道場はいったいどうするつもりなんだ、ジジイ? アンタ、家の近所にある道場をわざわざ借りて、風間道場とか言う名前の道場やってただろうが?」
ジジイは何故か大人こども関係なく、色んな人に空手やら柔道、剣道、弓道、合気道などの色々な武術やら格闘技を教えていた。
俺も昔『風間家の男として生まれたからには強くあるべし!』などと言われ、やりたくもないのに無理やりジジイに色々やらされた事は今でも忘れられない。
「ん? 道場なら先月売りに出したぞ? 門下生たちにも、ちゃんと一通りの事は教え終わっておったしのう」
たまに今でもジジイに無理やり道場へ連行されていたので、俺も一応は門下生だったはずなのだが、その事を全く知らなかったのは何故なんだろうか?
「まぁ、そんなわけで道場の方も何も問題はないから、安心して引っ越しができるって事じゃのう」
「何が『安心して』だ。不安な要素の方が多いっての……」
俺には本当に転校できるのかとか、本当に道場を売りに出して良かったのかとか、引っ越した後の住む家は決まっているのかとか、色々と不安な事しか思いつかない。
「てか、どこに引っ越すつもりなんだよ? 俺、何も聞かされてねぇんだけど?」
もし近場なら、わざわざ引っ越さなくて大丈夫なんじゃないだろうか?
わざわざ転校までさせて引っ越ししようとしているんだから、ほぼ百パーセントそんな可能性はないと思いながらも、俺はわずかな希望にすがるように、そんな質問をしていた。
「ん? まだカミトには言ってなかったかのう?」
わざとらしく惚けようとするジジイ。なにやら凄く嫌な予感がする。
「まぁ、もう隠しておく必要もないし教えてやろう……」
そう言って、なにやら懐を漁りだしたジジイ。本格的に嫌な予感しかしない。
「良いか、カミト? ワシらが引っ越す先は――」
懐から目当ての物を見つけたのか、一度言葉を止めて、俺に向かって嫌な笑みを浮かべてくるジジイ。
引き戻すなら今しかない。俺が本能でそう感じ取った、その瞬間。
「――ワシらが引っ越す先は、魔法が当たり前のように使われている異世界じゃ!」
ジジイはそう高らかに述べながら、自分の懐から赤いナイフを取り出して、その赤いナイフをおもいっきり床へと突き刺した。
その刹那。
――――――カッ!
赤いナイフを中心に、なにやら赤く輝いている魔法陣のようなものが床一面に突然描かれた。
「な、なんだよ、これ!?」
「これは異世界に行くために必要な魔法陣じゃ」
わけも分からずに俺が叫んだ言葉に対して、冷静に言葉を返してくるジジイ。
どうやら……と言うか目の前で起こった事なので確実なのだが、この赤く輝いた魔法陣を作ったのはジジイの仕業で間違いないようだ。
それを理解した瞬間、俺は一歩も動く事ができず、何もできないまま、魔法陣から発せられている赤い光に身を包まれたのだった。