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01 


白みがかった青空のせいで雲の輪郭が掴めない。



もともと定型的なものでは無い雲ではあるが、形として捉えることはできる。やんわりと。

しかし今日に限っては違った。青があおで、ぼやけている。それと同時に雲もどことなく滲んでいるのだった。




今日の空は天色ではなかった。

あ、ま、い、ろ、と小さく口を動かして言葉の柔らかさを確かめる。

天色は真空色という別名を持ち、晴天の澄んだ空のような色のことを指す。




空色ともまた違う。空色は天色よりも薄い青。昼間の晴れた空のような色のことを言う。かといって今日のこの空に当てはまる「青」ではない。




名の知らぬ空の色に、すうっと尾を引く雲たちを、茅野彩(ちのあや)は何度も盗み見た。

盗み見る必要があったのはあまりにも静かな教室と、神妙に話す先生のせいでもある。



雲の概要が掴めるまで、じい、と見つめていたい気持ちはあるのだが、雰囲気がそうさせてくれないのだった。




クラスの荻原彩斗(おぎわらあやと)が死んだ。




週明けの月曜日、どことなく残った怠惰に身を任せている朝。その噂はじわじわと広がりを見せていた。それなのに、確信を持てずに笑い飛ばす者がほとんどだった。




「あいつに死ぬ勇気があるわけない」



だれかが言ったその言葉が嫌なほど耳に媚びりついて取れなかった。




2月生まれの彼はまだ17歳にすらなっていない。



「あと少しで誕生日だったのに」



無責任な先生の声は、とってつけたみたいに機械的だ。

どいつも、こいつも、凍り付いている。朝のように笑い飛ばす者はいない。

しかし彩斗のために涙を流したり、声を荒げたりする人間はいない。




このクラスは彩斗という存在でバランスを取っていた。


人間は同じターゲットを敵とみなし、攻撃することによって団結できる。

彼の涙の分だけ、クラスは一つになっていた。



「ホームに飛び降りだってよ」

隣の席の三好春美が耳打ちをした。


「ほら、金曜日。すごい人集りが出来てたじゃない、駅のところ。ほんと勘弁してほしいよね、あれのせいで私、学校遅刻しちゃったし。」



ね、彩もそうでしょう、悲しくなんてないでしょう。と覗き込んでいる春美の視線を無視して窓を眺める。



彩の唇は、きゅ、と結ばれたままだ。力を入れていたせいであろうか、血の味が広がる。そんなことよりも、彩は空を見ていたかった。



1月の空は白んでいる。この空の色の名前を見つけられるのだろうか。



*



以下、少しのネタバレを含んでおります。(01にしてすみません)

しかし、理解を深めていいただくうえで、大切な文です。





*



初めて小説を書きます。至らぬ点はあるかと思いますが、どうか温かい目で、私と彩の成長をも守ってくだされば、と思います。


色覚多様性について、少し。

人間は色覚というものを持っています。それは三要素(赤・緑・青)によって構成されています。これが完全に補填されている色覚が、「正常色覚」だとすれば、先天性や後天性によって色覚の正常さを欠いている状態の方もいます。色覚異常。近年では色覚多様性とも呼ばれています。


症状には個人差があります。先天性色覚異常においては、日本人男性に5%、女性に0.2%の割合です。


1型色覚、2型色覚は、赤系統〜緑系統の色弁別に困難が生じますが、 正常色覚とほぼ同程度の弁別能を持つ方も多い色覚異常です。

3型色覚は、正常色覚とほとんど変わらないが、 正常色覚と比べて全体的に色がくすんで暗く見える症状を指します。日本では数万人に1人(ほとんどが後天色覚異常が多い )

1色覚は、色は識別できないが視力は正常の症状と、色が選別できず視力も低い症状が見られます。 日本では数万人に1人と言われています。


この作品で取り上げているのは先天赤緑色覚異常です。先天色覚異常の中で最も多く存在し、赤系統や緑系統の色の弁別に困難が生じる人が多いといわれています。


作品の中で理解を深めていただけたら幸いです。


2018/01/19 とり子

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