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首のない死体  作者: 十六茶
2/2



次の日から私は自分の部屋に籠る時間が多くなった。


何とか学校には行くものの、ぽっかりと何かが欠けてしまったようで、何の感情も湧かないし、何かを感じようという気力もない。


一向に姿を見せない悠斗。

DNA鑑定の結果はまだ出ていないが、誰もが首なし死体は悠斗だと諦めている。

そして私ももう・・・。


やっぱり列車に轢かれるなんて怖いんだろうな。

身体がバラバラに引き裂かれるなんて相当痛いはずだ。

もし首が見つかったら、顔はきっと苦痛に歪んで、辛そうな表情に違いない・・・。


頭の中で悠斗の首がぐるぐる回る。


ベッドにうつ伏せになっていると、部屋の窓から冷たい空気と一緒に、甘ったるい香りも漂ってきた。

金木犀の花の香りだ。

悠斗と最後に会った日の庭の金木犀は、まだ蕾がついたばかりだった。


もう花が咲いたのか・・・と起き上がって、何の気も無しに窓から庭を覗くと。


悠斗がいた。


2階の窓から顔を出す私に気がついて、小さく手を振る。


私は急いで階段を駆け下りて玄関のドアを開けた。地味な部屋着で髪の毛もボサボサだったけれど、気にしている余裕はない。


「良かった、元気そうじゃん」


悠斗は照れくさそうに制服のポケットに手を突っ込んだまま、家の前の狭い路上に立っていた。


「元気・・・じゃないよ!今までどこに行ってたの!心配したんだから・・・」


怒鳴りつけてやろうかと思ったのに、最後は涙声になってしまった。


良かった、生きてた。無事だった。


今まで眠っていた感情が一気に溢れ出して、言いたい言葉が見つからない。


「ごめん、スマホが壊れちゃって連絡出来なかった。早くこっちに来たかったんだけど・・・」


本当に申し訳ない、と悠斗は丁寧に頭を下げた。


「私の方こそごめんなさい!私のせいだよね。本当は悠斗の事・・・」


「違う!」


悠斗が急に叫んだので、私の勇気の言葉も掻き消されてしまった。


「こうなったのはお前のせいじゃない!確かに振られたショックで家に帰る気がしなくて、その辺ブラブラしてたけど。お前に嫌な思いさせたんじゃないかって、そっちの方が気になってたし・・・お前は何も悪くない!!」


悠斗は告白してきた時よりも真剣な表情で、宣言するかのように声を張り上げた。あまりの迫力に、私はオモチャの人形みたいにコクコク頷く事しか出来なかった。


悠斗がそれを見てふっと笑ったので、私もつられて笑う。


金木犀の花の香りが秋の澄んだ空気に溶け込んでいる。

オレンジ色の花の色に、住宅街に落ちていく夕陽の赤の色。

悠斗がいなくなってからずっと気付かなかったけれど、景色はこんな風に変わっていたんだな。


私の家の電話が鳴り出したのが、外にも聞こえた。


家族は全員出掛けてしまって、家には誰もいない。


「電話、鳴ってるよ」


「でも・・・」


この場所から去るのが何だか不安だった。


「出た方がいいって」


悠斗が優しく促す。


そうだ、もしかして悠斗のお母さんかもしれない。

無事だったって教えてあげなきゃ。


「すぐ戻るね!待っててね」


私は急いで家の中に駆け込んだ。



悠斗はそんな私を、見守るように微笑んでいた。



電話を掛けてきた相手はやはり悠斗のお母さんだった。


「おばさん?今ね、悠斗が・・・え・・・?」


電話口の、嗚咽で良く聞き取れない声に耳を傾け、私の受話器を握る手は震えていた────。




玄関のドアを再び開けると、悠斗が立っている姿は見えなかった。



首だけだった。



「私のために来てくれたんだ?私が責任感じて落ち込んでいるだろうって・・・心配して・・・」


悠斗のお母さんからDNA鑑定の結果を報告された。


首のない死体は悠斗だった。


私は首にゆっくりと近付く。


最後に見た微笑みに似た、安らかな顔。

まるで眠っているかのように。


「良かった・・・。もっと苦しそうな顔をしていると思ってた。痛くなかった・・・?」


触れようと手を伸ばした瞬間、悠斗の首は空に向かってふっと消えた。


金木犀の花も一緒に舞ったのが見えた。



ありがとう。

会いに来てくれて。

私も大好きだったよ。



私の目から溢れる涙は、しばらく止まらなかった。




その日の夜には悠斗の頭が遺体が発見された場所の近くで見つかったと、連絡が入った。

警察は急に首が現れたようで困惑しているらしい。



悠斗の顔は傷もなく安らかで、眠っているように見えたと聞いた。



本当は首ではなくて、頭、頭部という表現が正しいのかもしれませんが、首の方が雰囲気を感じるので。

タイトルもこれでいいのか迷いましたが、これ以外しっくり来るものが思いつきませんでした。

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