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首のない死体  作者: 十六茶
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その日の悠斗はいつもと様子が違っていた。


何だかソワソワして落ち着きがない。


学校から帰って来たところに、悠斗からLINEで話があると家の外に呼び出された。

けれど一向に話し始める気配はない。

外はすっかり日も落ちて、空気が冷え込んで来た。


「何かあったの?悩み事ならあんまり役に立たないけど、話聞くだけなら聞くよ?」


どうにも牴牾しい、気まずい雰囲気に耐えられなくなって、私の方から口を開く。


「そういうんじゃない!えっとつまり・・・」


顔を真っ赤にして悠斗は、やっと意を決したように話を切り出した────。


「・・・ごめんなさい。」


「いやいや!こっちこそ急に悪い!忘れてくれていーから!」


いつもの明るい、軽いノリの悠斗に戻ってくれた。


「じゃあな、これからも普段通りでよろしく!」


そう言って立ち去る姿は、寂しそうに見えた────。



数時間後。


あまり使われる事のなくなった家の電話が鳴り響いた。

悠斗のお母さんからだった。

悠斗が家に帰って来ない、携帯も繋がらないというのだ。

試しに私もメッセージを送ってみたけれど未読のまま。

通話も「電波の届かない場所にあるか電源が入っていないため・・・」と乾いたアナウンスの声が告げるだけ。

悠斗と共通の仲間たちからも、心配する声が届いた。


悠斗、何処にいるの?まさか、私のせいで────?

その先を考えるのが怖い。

仲間からの何かを察した憶測を聞くのも鬱陶しく感じて、グループの会話に参加する事なく、私はスマホを机に置いてベッドに潜った。


当然だが何も考えなくて済むような、都合のいい眠りが訪れる事は無かった。



そして翌朝。


悠斗らしき少年が列車に轢かれたという知らせを受けた────。




遺体は特急列車に何百メートルも引き摺られ、バラバラになっていたという。

損傷も激しく衣服も引き裂かれ、悠斗の両親が警察で遺体を確認したそうだが、悠斗かどうかなんて判別出来なかったらしい。何よりその遺体には首から上が無かった。探しても見つからなかったのだ。


防犯カメラには暗闇の中、閉まる踏切に気付かずフラフラと線路に入る人物が映っていたが、まだはっきり悠斗とは判別出来ないそうだ。携帯も粉々になったのか身元を判明するものが無く、その遺体が悠斗かどうかはDNA鑑定を待つことになった。



学校では泣きじゃくる仲間が大勢見られた。

ムードメーカーで、誰からも好かれていた悠斗。

まだ悠斗が死んだとは決まっていないと希望を持つ友人もいたが、それなら何故悠斗は姿を見せないのかと悲嘆に暮れる友人まで。


私は────とにかく数日前の、最後に悠斗と会った夕方の、あの時間に戻りたかった。


あの日、私は悠斗から付き合って欲しいと告白された。


正直な気持ちとしては嬉しかった。

悠斗は中学校からの仲間で、気が合って楽しくて、友達以上の感情はあった。


けれどあの時の私は悠斗の彼女になったら、どんなに素敵な時間が待っているだろうかという未来の期待より、仲間からどういう目で見られるかという、少し先の不安の方が勝ってしまった。


悠斗を好きな女子は仲間にも何人かはいる。

日頃よく目にする嫉妬されてからの孤立が私に科せられるのは、容易に想像出来た。

私の口から出た「ごめんなさい」に、すぐに悠斗は明るく何事も無かったように笑い飛ばしてくれたけれど。


一瞬見せた、歪んだ泣きそうな顔が、どうしても頭から離れられない。


もし私が断らなかったら、悠斗は普通に家にまっすぐ帰ったはずなのに。

断るにしてももっと上手く出来なかったのか、悠斗を傷つけない方法は無かったのか・・・そんな事ばかり考えてしまう。

傷ついた悠斗は家に帰りたくなくて、外を出歩いているうちに、線路に入って列車に轢かれた・・・?


まだ首のない死体が悠斗と決まったわけではない。




でももし悠斗だったら────私が、殺したのも一緒だ。





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