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2話

「あのー、新しく来られた生徒さんですか?」


「へっ?」


私が固い決意をしていると横から声がし、振り向くと母親と同じぐらいの女性が、柔らかな微笑みを浮かべて、立っていた。


「いきなり声をかけたからびっくりしたわよね。はじめまして、私はこの寮の寮母をしているサラよ」


「あっ、えっと今日からお世話になります、ヤナ・クローウィルと申します!」


「ふふ、困ったことがあったら何でも言ってね。できる限りのことはするから。

そういえば入ってきてしばらく立ち止まっていたけど、体調が悪いのかしら、大丈夫?」


「いえ、あの全然大丈夫です。お気になさらず……」


自分の場違い感を噛み締めたり、地元の校長や両親に対して怒ってましたなんて言えるはずもなく、曖昧に笑ってごまかした。

そんな私を不思議そうに見つめ、首を傾げていたが、また先ほど同様微笑んでくれた。


「そう?ならいいのだけど…じゃあ、到着早々申し訳ないんだけど入寮手続きをするからこちらにきてもらってもいいかしら」


「あ、はい。わかりました」


サラさんの後について行きながら、キョロキョロ周りを見る挙動不審な自分を止めることができない。

だって、こんな豪華な廊下歩いたことがないのだ。

決して不審に思わずにそこらへんは温かい目で見守ってほしい。



そして管理人室と書かれた部屋に案内された。部屋に入るとサラさんから椅子に座るよう促された。着席すると机の横にある書類棚から数枚の紙を取り出して私の目の前に一枚ずつ並べてくれた。


「じゃあ、これが入寮手続きの書類になります。内容が確認できたら、ここに本名を書いてね」


「わかりました……あの、本名ってどういうことですか?」


「ああ、生徒さんによっては公の場以外では本名を名乗らない子もいるから。

でもそれだと契約書として成立しないから、念のために初めての生徒さんには全員こういう風に言っているの」


「へ、へぇー、そうなんですね……」


さすが貴族様が通う学園、想像した斜め上の答えに顔がひきつるのを感じながらも手渡された書類を見ると、寮での規則などが記されており、それらに目を通した後言われたところに名前を書きサラさんに渡した。


「はい。確かに受理しました。それじゃあ、ヤナさんの部屋を今から案内してもいいかしら?」


「はい、お願いします」


私がそう言うと、サラさんはにっこり微笑んで「こっちよ」と言いながら階段を上がり始めたので、後ろを着いていった。

階段を上がり、踊り場を右に曲がると長い廊下が続いていた。


「寮生の部屋は全て二階と三階にあるの。一階には今上がった階段の右側に食堂、左側に共同浴場があるわ。

他にも他学年の人と交流の機会を作るために共同の勉強部屋やダンスの練習をする部屋、淑女になるためのマナーを学ぶ部屋などがあるから時間がある時に覗いてみてね」


「はい……機会がありましたら……」


と言ったものの、勉強部屋はともかくダンス部屋やマナー部屋などはおそらく行くことはないだろう。

というかなぜ寮にそんなものがあるのか皆目見当もつかない、いや教えられても理解はできないだろう。とりあえず食堂とお風呂の場所だけ頭にいれておくことにした。


「いつもこんなに静かなんですか?」


「ああ、今はほとんどの子が帰省してるから。授業が始まればもう少し賑やかになると思うわ」


廊下を歩きながら誰ともすれ違わないことに気づいて尋ねると、そんな答えが返ってきた。

確かにそれもそうだ。私と同じように入学して寮に入る子もまさか春休みすぐに来る子は少ないだろう。


(その例外が自分なのだが、これは不可抗力だと言い張りたい)



しばらくまっすぐ歩き、三階に行くための階段の手前でサラさんは立ち止まった。


「ここがヤナさんの部屋よ。鍵は…そうね自分でやってみるのがいいかしら。ヤナさん、ドアノブを握ってみて」


言われるがまま、目の前の部屋のドアノブを握るとフワッと青い光がドアノブから扉全体に広がった。ただ光ったのは一瞬で、すぐに握る前と同じ扉に戻った。


「はい。これで登録完了。寮の部屋は部屋の持ち主の生徒さんの魔力に反応して扉が開くようになっているの。閉まるときは勝手に閉まるようになっているから安心してね」


じっと自分の手を見つめていると、サラさんは微笑みなから説明してくれた。なるほどこれなら鍵をなくしたり、誰かに部屋を見られることもない。

感心していると、それまで私を見守っていたサラさんから爆弾発言が飛び出した。


「それからこの部屋は二人部屋になるの。ヤナさんと同じ入学生が同室の子になるから」


「入学生同士が同室なんですね」


「えぇ。本当は入学生同士で同部屋になることはないんだけど、今回は特別なの」


「?特別っていうのは、どういうことですか?」


「さぁ……私にもわからないんだけど学園からの指示でこの組合せになったみたい」


特別という言葉にひっかかるところがあるものの、尋ねてもサラさんも困ったように顔に手をあててるところを見ると、詳しいことはわからないみたいだ。


「そうですか…その方はいつ来られるとか分かります?」


「明日よ」


「へぇ、明日ですか……明日っ?!」


「春休みの間に同室の子が二人とも来るのは、なかなかないのよ。良かったわねえ。

それじゃあ、私はそろそろ仕事に戻るわね。あ、そうそう荷物はもう届いて部屋の中にあるから。もし送った荷物で足りないものがあったら、教えてちょうだいね」


「え、あ、あの……!」


驚く私を残して、サラさんは去っていった。

彼女は今何と言った?明日?嘘でしょ、私が言うのもあれだけど来るの早すぎない!?


ここの生徒になるってことは、高確率で貴族の子である。私みたいな庶民が同室なんて・・・


あー最悪の未来しか想像できない。


どうしよう、今から言葉遣いを変えた方がいい?「ごきげんよう」駄目だ……気持ち悪い。

はぁ……最善策は何を言われても流す、それしか思い付かない。


……これ以上考えてもどうしようもないな。うん、荷物を片付けよう。

それから、とりあえず手紙を二通書く準備を。


すみません……今回も「友人」登場せず。

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