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第7話 カインの末裔

「ふふ、良かったわ。合格ね」


 ミリシアと名乗った少女と再び対面したのは、中一日明けての朝だった。

 昨日は冒険用の服を見繕ったり、行政庁舎に報告を受け取りに行ったりぱたぱたと忙しかった。





「調査結果を報告致します。ミリシアさんに関わる仲間はディル、ベディ、バードン、ミススの四名です。現在ミススさんは単独で護衛任務に携わっています」


 今日の担当は背中に白い鳥の羽が生えた上に、頭の上に輪っか状の髪の毛が生えている。金髪のため、遠目には天使にしか見えなかった。

 しかも非常に丁寧に話をしてくれる。昨日の担当の人も途中から変わったけど、申し送りか何かがあるのかな。


「シアさんが気になさっている事項に関しては過去五年に遡り確認しましたが、確認出来る情報はありませんでした」


「不審な死や行方不明は無いのですね……。良かった……のかな」


 私の言葉に天使が微笑みを浮かべる。


「改めて確認しましたが……。『新人育成』のミリシアさんの名前は虚飾では無いですね」


「新人……育成?」


 何それ。字名(あざな)とか二つ名みたいなものなのかな……。ちょっと恥ずかしいと思う。特徴が分かりやすいけど。


「はい。傭兵に関わる仕事を受ける方にも事情は多々とあります。その中でも素性の良い人を見抜き、育成し、死なせない。そういう噂が立つ人です。この仕事で五年間を通じ、仲間達を生き残らせるというのは本当に大変なのです」


 ふむふむ。プロトレーナーを自任している感じなのかな。前回合った時の蠱惑的な微笑みとセリフを思い出す。


「後、これは本当は言うも言わないも自由という約束なのですが……」


 担当が声を潜めてごにょごにょっと呟く。


「シアさんがミリシアさんの情報を照会した場合は報告して欲しいと依頼されています」


 あぁ、情報を調査した場合の対抗(カウンター)の依頼も出していたのか。敵わないなと思いながら苦笑を浮かべると、担当さんも微笑みを強める。


「こうするべき、こうしなさいという事は私達には出来ません。傭兵に関わる仕事に関してはそれぞれの信念の下に行われるためです。それでも、シアさんは……」


 前の爬虫類人の担当よりも分かりやすく上気した頬で告げてきた。


「正しい道を進んでいる。そう考えます」


 恭しい礼を合図に、話は終了した。





「色々見抜かれていたんですね」


 苦笑交じりにミリシアに告げると、ふふんっと顎を上げる。


「美味しい話には罠がある。痛い目を見ないと学ばないけれど、痛い目を見る前に学べればそれは幸せな事よ。そもそも学ぶ前に実践出来るなら……」


 そう告げると、また上体を倒し、上目遣いになる。


「見込みがあるわ」





「前職の経験もありますから」


 行政庁舎から場所を移し、近くの酒場に入る。ここは傭兵達御用達のようで、朝から呑めるし、夜中にも叩き出されないそうだ。


 私はハーブティーを、他はそれぞれの好みを頼む。流石に朝から酒を頼む人間はいなかった。

 酸味とフルーティーで青さの残るどこか不思議でフレッシュな芳香を楽しみ、口を湿らせる。


「中々殺伐とした仕事だったのね」


 ミリシアの言葉の後に、仲間達の紹介が始まる。


「一番古いのは彼ね。バードンよ」


 きっちりと全身を覆う革鎧を着けた男性が手を伸ばしてくるので握り返す。


「この仲間達が君に合う事を願うよ。なんせ女ばかりだからね。男は歓迎だ」


「次はディルね」


 こちらは急所を覆うだけの軽装の女性。特徴的なのは、その笹穂耳。エルフだそうだ。


「よろしく。後衛なら私と組む事が多いはずよ」


「で、ベディね」


 若干背の低い、それでもかっちりと全身に革鎧を着込んだ女性。


「よろしくな。魔法使いならありがたかったが、後ろを任せられる人間が増えるんだったら上等だ」


 一通りの挨拶を交わすと、和んだ雰囲気を醸し出す。


「若い方ばかりなんですね」


 傭兵業にまつわる世間話を聞きながら、ふと疑問に思った事を述べる。

 最低でも五年は活動している筈なのに、若すぎる。ベディなんて十代前半くらいだろう。


「あぁ、それは。どんどんと自立していくからだよ」


 バードンが告げると、ミリシアが遠い目をする。


「もう幾年(いくとせ)と見送ってきたわ……」


 その言葉に新たな疑問。バードンとベディは普通の人だそうだ。なら、ミリシアは?

 疑問を見抜いたのか、くすっと小さく笑いミリシアが口を開く。


「渡り人よね。余程に(かぶ)いてなければその歳でそんな恰好しないもの。あなた達は私をこう呼んだ。カインの末裔って」


 その言葉に若干首を傾げる。カイン、カイン、カイン。

 旧約聖書のアベルとカインかな。あの物語の顛末とその後、そして関係作品を思い出した時に口を突く。


「吸血……」


 鬼と言い切ろうとした瞬間、そっとミリシアの人差し指が私の唇を塞ぐ。


「やだ、鬼なんて呼ばないで。魔物と同じように呼ばれたくないわ。私は他の人より少しだけ死ににくい。それだけの人間よ」


 そこから吸血鬼の特性を教えてもらったが、物語ほどにエキセントリックな存在では無いそうだ。

 準備動作と共に霧に変われる能力以外で特別なのは、ほんの少し感覚が鋭敏で、不老と明示的に死なない限りの不死だそうだ。心臓なんて突かれたらあっさりと死ぬらしい。


 後、血は嗜好品の扱いだとの事で少し安心した。


「改めて、今回のお誘いですが。今後の経験のため、お受けしようと考えます」


 ベルとも相談したが、きちんとした仲間ならば今後のためにも受けた方が良いという結論に至った。

 その言葉に、皆がほっとした表情を浮かべる。


「私の武器は、麻痺を与える杖と弓になります。弓はそれほど器用では無いです」


 その言葉に、魔道具かと感心したようなバードンの言葉が被る。

 スタンガンともう一手、手数を増やすのを前提に伝えてみた。


「ある程度の自衛が出来る後衛なら、頼もしい」


 ディルも文句は無いそうだ。


「腕前に関しては、出発前にでも披露する形で良いですか?」


 その言葉に、ミリシア達の賛意を得る。と言う訳で、三日後の同行が確定した。

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