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第50話 最悪の相手

 小型の漁船に関しては軒並み断られた。

 裏の意向があろうがなかろうが、湾内から外に出る気は無いようだ。

 現在私達の食卓に上がっているのは、湾の中で獲れた魚介のみとなる。

 少ない漁獲を大勢で分担しており、その結果が昼間から酒場が流行っている理由らしい。


 中型以上の船に関しては、基本的に交易船となる。

 大型の船は別大陸を岸沿いに目指す。どうも群島が両大陸の間に存在するようで、ここに沿って航海を繰り返しているようだ。

 中型の船は大陸内、厳密にいえば領内の港と港を結ぶ形だ。


 大型の船を動かすには多大なコストがかかる。安全を考えれば大型船を動かして欲しいのだが、交渉の結果まとまったのは中型船、それも船齢がそれなりに経過したややオンボロ感を感じるものだった。


「物好きの世話をする者なんぞ、おらんぞ? 儂くらいなもんだ」


 裏の意向をかざしつつもまともに取り合ってくれたのはこの船長くらいだ。

 他の船長なんざ、話すら聞かない。正直、海の男の自由さを羨ましく思ったのは内緒だ。


「もやいを解け!!」


 船長の掛け声に、港の職員が船をつないでいた綱を解く。

 水夫達の掛け声の下にオールが美しく揃いながら、水をかき始める。

 軋むように揺れたと思うと、船はゆっくりと前進を始めた。


 湾の中央を堂々と抜け、沖に向かう。

 暫く進み、陸地が小さくなった頃に船長の掛け声が響き、船は停止する。

 波間に揺られながら、オールを上げた船は、徐々に沖に流されつつも静かに佇む。


「お前らが何を考えているかは知らねえ。世の中には分不相応な獲物って奴がごまんといやがる。まぁ、返り討ちに遭わねえこったな」


 じっと水面を覗いていた船長が、一緒に覗き込んでいると声をかけてくれる。


「仕事なので、しょうがありません」


 私は裏社会の住人との関係性を説明するのに疲れたため、敢えて誤解を解く気は無くなっていた。


「はん。因果な商売だな。儂等だって無理無茶は通すが船の上だけだ。陸に降りちまえば、まぁ関係ねぇ。陸で寝ている間も上の言う事を聞かないといけないなんざ、なんの苦行だか」


 そんな役にも立たない人生訓を聞き流しながら、太陽が傾いたのが分かる程度に待つ。


「やつぁ、巡ってやがる。この近辺をな。どこかから流れてきて、まともな餌にありつけると分かったその時からな」


 やっと役に立つ情報が聞けるかと思いながら耳を傾けてると、物見台から鋭い指笛の音が響く。と、同時に船長が走り出し、操舵士の方へ向かった。


「お客が来たぞ、面舵。漕ぎ手はオールを持っていかれないよう注意しろよ? 漕ぎ方始め!!」


 人が変わったようにきびきびと動く船長。みるみる内に船は活気を取り戻し、徐々に沖合に向けてその航路を曲げていく。

 と、その先の水面の奥になにやら影が見えるのが分かった。

 相対するものがなく、大きさの感覚が掴めない。それでも、トラックくらいの大きさがあるんじゃないかなと目を凝らしていた瞬間だった。

 ざぱりと、水面を割って飛び出すモノ。赤々とした口を大きく開けて、オールを繰る漕ぎ手を狙い、船の側面を擦るように飛び込んできた。

 木々が割れそうになるほどたわみながら、ショックを受け流す。大きく揺れた船は復元する際にも大きく揺れる。ざりざりと荒いやすりを擦るような音を響かせながら、水を割り潜っていったそいつは、再び襲ってくる事はなかった。


「やつぁ、頭が良い。あれも威嚇だ。無駄なこたぁ、しねぇからな」


 鼻で笑うように呼気を吐いた船長が挑むようにこちらを見つめる。


「本気でどうこう出来んのか?」


 波間に見た、やつの姿。シャチやクジラの類かと思っていたが、それとは全く異なる姿。それは、あの時の骨格に肉付けをしたものを想像した方が余程に近い。水に揺蕩うトカゲの王様。


「水竜ってやつをよ?」


 最悪の相手だった。

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