第49話 言い訳
「おはようございます」
目を覚ましたミリシアに声をかける。
「おはよう」
にへらっと柔らかな表情を浮かべるさまは凄腕の傭兵とは思えない。
そんな事を考えていると、はぐっと抱擁してくるので、受け入れる。
くんくんと匂いを嗅いでいるなと思っていると、ばっと起き上がった。
「……この匂い。どこにいったの?」
酒場に充満していた商売女の化粧の匂いが移ったのかと思い、正直に答える。
「町の顔役に挨拶をしてきました」
「顔役……? まさ……か!!」
顔色を変えたミリシアがベッドから立ち上がろうとするのを肩を出して留める。
「どこにいくつもりですか?」
「離して。私のせいよね?」
慌てふためいた様子で暴れるミリシアを宥めて落ち着かせる。
「いえ、二人の問題です。流通を制限してもらっているので、その状況確認です」
「どうして……そんな危ない橋を……。やっぱり……!!」
「だから、それが二人のためです。生活圏内に危ない薬が蔓延するのは避けたいですから」
私が冷静に話を続けると、徐々に抵抗が弱まってくる。
「供給を絶つと言っていたのは売らないんじゃなくて、裏社会を巻き込んだのね?」
確認するかのようなミリシアの言葉に、こくりと頷きを返す。
「相談してくれれば……。あんな人達と関係を持っても良い事は無いわ……」
心底心配する表情でミリシアが告げてくる。
「向こうも恐れていましたよ? 何かを潰されるって」
私が努めて明るく告げると、ミリシアが頬を赤く染めて俯く。
「もう……。心配して言っているのよ? いつか取り込まれるんじゃないかって……」
ミリシアの心配も分かる。それでも、利用せざるをえない部分はある。正規のルートで情報を入手出来るのなら、危険な物資の流通を制限させられるなら、問題無いのだが。現状では裏社会に頼る必要がある。
「大切なものがある限り、取り込まれる事はありません」
私の言葉に、俯いていた顔を上げるミリシア。じっと瞳を覗いていると、はぁっと溜息を吐いて首に腕を回してくる。
「あなたは違うものね……。分かった。でも、手伝うわよ?」
出来れば危ない事には関わって欲しくなかったが、ばれたからには仕方がない。
「では、頑張りましょうか。まずは朝ごはんです」
ミリシアの頭を撫でながら、作戦を練り始めた。
朝食後、早速港に向かい船を出す交渉を始める。
ミリシアは留守番だ。
本人は来る気満々だったが、美味しいご飯が食べたいと伝えると途端に上機嫌で食材を探しに行った。
さてさて。早速、お相手の顔を拝見といこうかな。




