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第48話 依頼

 町の方が良い設備だったなというのは、奥に通されての第一印象だった。

 港町には港町の価値観があるのかなと、様式の違う内装を見つめながらすすめられるままに席に着く。


「で、用件は?」


 黒々と日に焼けた偉丈夫は塩辛声を隠さず、ぼそりと問うてくる。


「例の爪。問題無く封鎖が出来ているかの確認です」


 私が答えた瞬間、ぴくりと瞼を動かした偉丈夫がとさりっとソファーに背を預ける。


「今のところ、侵入させちゃいねぇ。何度か上陸を試みたのは聞いている。全部沈めた」


 何を、どこには聞いたら駄目な答えなのだろう。


「それは助かります。協定が守られているようなら、良かったです」


 私は頷き、席を立とうとする。別に世間話をする間柄ではないし、彼もこう見えて忙しい身だろう。そうでなければ、組織の上位で生きていけない。


「待て。俺らは飼われた犬じゃねえ。分かるか? あれがあれば、町を出し抜ける」


 不穏な話の展開に、上げかけた腰を下ろし、目を眇める。


「協定を破るつもりですか? 別に構いませんが、抗争になりますよ」


 私の言葉に、暗い野望の炎を瞳に宿した偉丈夫が、どかっどかっと背をソファーに叩きつける。


「素人、あまりでかい口を叩くな。海向こうにでかいシノギを持っていかれているんだ。鬱屈してるのは分かるだろう?」


 挑戦的な瞳に、はぁっと大きく溜息で返す。


「分かりません。そもそも爪の販売条件がそれなのです。それが嫌なら……」


 ずいっと顔を近づけて、偉丈夫の瞳を覗き込む。自覚している今の表情は、営業スマイルに虚無の瞳を宿しているだろう。


「自分で竜を狩れ、三下。舐めるな、甘えるな。ここに来たのはやんちゃをしてないかの確認だ。分かったか、坊や」


「あまり強い言葉を使うな、優男。威嚇しているつもりか? 町の犬の分際で」


「利益を折半して、共存しましょうねという話が理解出来ないなら、話はここまでだ。存外不甲斐ないな、彼も。飼い犬の首輪の管理も出来ていないらしい」


 どかりっと私も背をソファーに預け、見下していると偉丈夫がはぁっと息を吐く。度胸試しは終わりらしく、手の指を何度か組み直すと、ごきりっと首を鳴らす。


「肝が太いな」


「商売柄、そうなります」


「別に町と揉めようって話じゃない。それでも、何かとやりにくいっちゃやりにくい」


 表情の抜けた偉丈夫の言葉に、妥協点を見出そうとする意図を感じる。

 麻薬を身内のいる地域に蔓延させたくないのは私の感傷だ。それを裏社会の、しかも直接交渉先以外の連中が律義に守るかは組織のモラル次第だ。


「続けて下さい」


「そこで頼みだ。最近、港の沖にでかいのが住み着いた」


「賊ですか?」


「いや。その辺りは駆除を徹底している。海の底、何かだ」


「で?」


「そいつの討伐を頼みたい」


 詳細を聞くと、大型の鮫のような生き物が湾を出た辺りを周回しており、中型以下の船を襲うらしい。大商人の交易船に被害が出るほどでは無いが、零細の商人や漁に使うような小型船にはぼちぼちと被害が出ているそうだ。

 幾ら傭兵、それもドラゴンバスターといっても、陸と海では勝手が違う。


「報酬は?」


 それでも、モラルに任せて統制が取れるかが分からないのであれば、ある程度の餌を与えて言う事を聞かせるしかない。


「何が欲しい?」


「塩の利権を」


 私の言葉に、偉丈夫の眉が釣り上がるが、更に言葉を紡ぐ。


「明らかに現在の海塩と品質が違えばの話です。それはもう、別の商材でしょう?」


 幾ばくかの逡巡の後、小さく頷く彼を見て、気付かれない程度に小さく息を吐く。

 余計な仕事が増えたな、折角のバカンスなのにと考えながら、私は席を立った。

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