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第44話 慰めよりも高揚を

新しく

左遷先は異世界でしたが、提督(ボク)は征服活動を始めます

の連載を始めました。


https://ncode.syosetu.com/n9501fd/


こちらもお楽しみ下さい。

 間接照明が淡い橙の光でテーブルの上を照らす中、手早く料理の準備を進めていく。

 今日は移動が中心で殆ど動いていない。あまりガツガツした料理というのも辛いだろう。

 そんな事を考え、タブレットを操作し、カマンベールチーズとモッツァレラチーズ、それにトマトを購入する。

 ごそごそと荷物の中からスキレットを探していると、ミリシアがトマトを手に取ってほぅっと溜息を吐く。


「こんな時期に……」


 と一瞬目を見開き、微笑みを浮かべる。


「やっぱり便利ね。それにとても綺麗。あなたの世界は野菜だって、宝石のようなのね……」


 間接照明の柔らかな光に透かしながら、ミリシアがうっとりと呟いた。

 私はそっとトマトを受け取り、さくっと輪切りにしていく。

 スキレットを携帯ガスコンロにかけて、オリーブオイルをひたひたに投入する。

 そこにカマンベールをでーんと島のように浮かべ、囲むようにトマトと削ぎ切ったモッツァレラチーズを並べて輪を描いていく。

 弱火で熱していると、油の中に小さな気泡が生まれる頃には、縮んだトマトとモッツァレラチーズが絡み合い、酸味を交えた芳醇な香りを発し始めていた。

 くぅっという音に顔を上げると、ミリシアが赤い顔をそっぽに向けている。

 私は気付かなかった振りをして、タブレットを操作。

 バゲットとミディアムボディのピノ・ノワールをタブレットからチョイスする。


「では、食事にしましょうか?」


 テーブルに置かれたスキレットの横に燭台を並べ、必要な光量を確保する。

 穏やかな草原は、一時のレストランへと変貌を遂げた。


 私は説明するようにカマンベールチーズの中心に切れ込みを入れて、バゲットにたっぷりと乗せる。その横にトマトとモッツァレラチーズのミルフィーユを添えて、ミリシアに差し出す。

 鼻を擽るチーズの濃い香気に、ミリシアの表情が軽く崩れ、ふわふわとした幸せそうな顔になる。何とも役得だなと思いながら、自分の分も配膳し、グラスを差し出す。


「あなたとの時間に」


 私が告げると、ミリシアがあわあわと恥ずかしそうにグラスを上げる。

 本当に仕事とプライベート、昼と夜の顔が全然違う。その一つ一つに出会う度に嬉しくなってしまう。

 そんな事を考えていると、はむっと慌ててミリシアがバゲットを口に含む。

 一瞬目を丸くして、慌ててグラスを傾けたのは、熱かったからだろうか。


「トマトが甘い……。酸味もチーズと合わさると気にならない……。それに、ワインもえぐみが無くてするする飲めちゃう!!」


 ピノ・ノワールの特徴を端的に表現出来る舌は凄いなと思いながら私も料理に手を伸ばす。

 とろりと伸びるチーズに期待を膨らませながら、口に含む。

 香ばしい焼き立てのバゲットの小麦の香りにカマンベールの湿った濃い香りが混じり合い、複雑な香気が鼻を抜ける。はむりと噛むと、バゲットの軽い食感と軋むようなカマンベールの食感の違いに面白みを感じるが、それをオリーブオイルとチーズから染み出る旨味を帯びた油分が蹂躙し、何とも芳醇な旨味を広げていく。


 トマトとモッツァレラチーズのミルフィーユはとろりとしたもの同士のマリアージュと言って良い。酸味を帯びながらも甘さを極限まで引き出されたトマトが緩いゼリー状になりながら、モッツァレラチーズと絡み、どこまでも伸びる。

 口に含むと、甘い水牛の乳の香りの裏側から、濃厚なトマトの香りが上がってくる。酸味は熱が入る事によって淡く霧散する程度のアクセントに留まり、重厚さを感じさせるトマトの甘味が乳牛独特の臭いと甘みに混じり合い、その塩気と合わさって、舌から、喉の奥を通る時に至福を感じさせる。


 そこにグラスを傾けると、少なめのタンニンの刺激が柔らかに口の中を洗っていく。豊潤な香りは失わず、それでいて渋みの少ないピノ・ノワール種は軽いチーズをあっさりと食べる時には無くてはならない。


 食卓は暖かく盛り上がり、先程までの暗い空気は嘘のように霧散した。


「でも、お肉もお魚も出せるのよね? 何故、こんな……」


 ミリシアの言葉に答える。


「あまりお腹が重たくなってしまうと、眠たくなってしまいませんか? 夜は……」


 すいっと間接照明を弱めると、満天の星空が世界を彩る。


「まだまだ長いです」


 私の呟きに、一瞬ぽかんとしたミリシアがぽわっと頬を朱に染める。


 さっと後片付けを済ませて、私は周囲に警報機の結界を張り巡らせる。

 その間に夜の準備を済ませたミリシアがテントの中で間接照明の中、蠢いているのが映る。

 私は、ささと作業を済ませてテントに潜り込む。


 その夜に何が起こったのかは、テントに映る影を見ていたものにしか分からない。

 ただ、次の日の朝日は、とても黄色かった。



いつもお世話になっております。


ブラック会社のタブレットを持った私が異世界に転移したらの書籍発売が近づいてまいりました。


特典SSの情報などが入ってきましたので、告知致します。



書名:ブラック会社のタブレットを持った私が異世界に転移したら


著:舞


イラスト:岡谷


ISBN:978-4-7973-9664-5


判型:四六判


価格:1,200円+税


発売日:2018年12月10日



紹介サイト:


https://books.tugikuru.jp/detail_black_tablet.html



特典SS


とらのあな様:ミリシアと一箱を消費した日の話


WonderGoo様:コロッケを楽しむ話


町ほん同盟様:孤児院に賭博を持ち込む話



よろしくお願い致します!!


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