第43話 ミリシアの憂鬱
PHEVのアクセルを踏み込み、加速を促す。
緩やかに増していくGに身を委ねながら、ミリシアの方を確認する。
前回の旅で慣れたのか、引き攣ったような表情は鳴りを潜め、若干物憂げな表情を浮かべている。
町を離れ、比較的人通りの無い地域まで入り込んだので、歩行者事故低減アシスト機能に任せる比重を上げてミリシアに声をかける。
「大分……ご迷惑をおかけしましたか?」
私の問いに、一瞬はっとした表情を浮かべたミリシアが、苦笑気味に唇の端を上げる。
「ううん。違うの……。いや、そうね……。若干関係はあるのかしら」
詳細を聞いてみると、思った以上にミリシアの環境が悪く参っているようだった。
ドラゴンバスターとして、確固たる名声を得たミリシア。
元々傭兵としての名声は得ていたが、それは飛び抜けた実績というより、信頼性の高さを物語っていた。
その評価すらも引っくりかえすような大きな実績。
そうなってくると、今まで以上に有象無象が寄ってくる羽目になっているようだ。
行政の方、特にお姉様方のお陰で幾分かは防波堤となってくれているようだが、実情を知らない周辺領地の貴族などが粉をかけてきているそうだ。
その辺りの対応を頑張って行政と協力しつつ調整する毎日を送っていたそうだが、最近おかしな連中が周囲に現れるようになったらしい。
詳しく聞くと、ドラゴンの爪を手に入れたい人間。どう考えても、裏側の人間が屯するようになった。
私が裏の人間と話をつけた辺りから、裏からあぶれている影響力の少ない後ろ暗い住人がミリシアの方に向かってしまったようだ。
「それは……。申し訳ないです。供給を絶てば、襲撃の対象から外れると考えていたのですが……」
「ううん。いいの。人は信じたい事しか信じないから。私が、私達が持っていないと言っても諦めないわ……」
諦観したような目でミリシアが告げてくる。
それを聞き、状況を悟った。私の対応だと、金儲けとして上層にいる人間の対応は出来るが、実際の中毒者達までの対応にはなっていなかったと。
警護と、中毒者の対応を裏側の住人に任せようと改めて、計画を練る。
「んー。無理していない?」
私が考え事に集中したのに気付いたのか、ミリシアがぼそっと呟いてくる。
「あなたのためであれば、何をしようが幸せですよ?」
返すと、ぽっと頬を朱色に染める。
「すぐにからかう……」
ミリシアが苦笑を浮かべたと思うと、ほぅっとため息を一つ。
そこからは空気が変わったかのように柔らかな雰囲気で会話が弾む。
日が傾き、野営の準備をすべき時刻になったのは道程の半分を進んだ辺り。
現在地をミリシアに説明すると、呆れ顔が返ってくるのはお約束だろう。
そんな事を考えながら、LEDの間接照明をPHEVのコンセントに差し込む。
さぁ、夕食の時間だ。
いつもお世話になっております。
ブラック会社のタブレットを持った私が異世界に転移したらの書籍発売が近づいてまいりました。
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判型:四六判
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発売日:2018年12月10日
紹介サイト:
https://books.tugikuru.jp/detail_black_tablet.html
特典SS
とらのあな様:ミリシアと一箱を消費した日の話
WonderGoo様:コロッケを楽しむ話
町ほん同盟様:孤児院に賭博を持ち込む話
よろしくお願い致します!!




